マークの大冒険 常闇の冥界編 | 悠久の刻
「私が案内できるのは、ここまでよ」
ウェスタは、冥界の門の前でホルスに言った。
「分かった。ここまでの案内に礼を言う。それと、眠りを覚ましてしまって悪かった」
「ううん。でも、さっきも言ったけれど、ここからはハデスの領域。たとえ神でも、安全は保障されない。それでも、この先に進むの?」
「俺は死なない」
「そう。警告しても無駄だとは思っていたけど。最後にひとつ、良いことを教えてあげる。冥界はハデスの領域だけど、女王ペルセポネにも気を付けて。ハデスは妻の彼女には逆らえない。逆を言えば、ペルセポネを味方に付ければ、ハデスの意志を変えられるかもしれない」
「そうか、覚えておこう。だが、どうなろうと俺は力づくで全てを終わらせるさ。たとえ東の風が吹こうとも、俺たちの冒険は終わらない」
「どこかで聞いたことがあるような台詞ね」
「だろ」
「あなたたち二人が無事に戻って来ることを祈っているわ」
🦋🦋🦋
「光?もう少しで階段を登り終わるのか?これでようやく元の世界に戻れる」
俺は頭上の光が次第に強くなっていくことに期待していた。
「この螺旋階段を登り終わることは確かだが、まだまだ冥界は続くと思うぜ」
「そうなのか?」
「ああ」
俺たちが階段を登り切ると、そこには荒野が広がっていた。空気は乾燥して、辺りには険しい山と横たわる岩、痩せ細った木々や草があるだけだった。
「ここは?」
「少し場所がひらけたな。だが、広過ぎてどこに向かえばいいのか分からない。コンパスは当てにならないし、地上に近づく階段もない」
「でも、太陽が見えるぞ。ここは地上じゃないのか?」
「残念ながら違うようだ。あれはたぶん、太陽じゃない。おそらく常にあそこの位置にあって、ここを照らしている。ここでは、昼も夜もない。きっとこの夕闇のような時間がずっと続くだけだ」
「せっかく登り切ったのに。これからどうするんだ」
「まあ、待て。今考えてる。エリアが広大過ぎて全て回るのは不可能に近い。きっとここは、地上の何倍もの領域、文献によれば、それこそ天文学的な広大さを持つとされている。無駄に動いても、消費するだけだ」
「おい!見ろ!!」
俺は咄嗟に声を発し、黒い大きな影に指を指した。
「何だ?」
マークが俺が指を指す方向を見る。
「誰か来るぞ」
「ん......?あれは、まさか」
「マークなのか?」
近づいて来た影が声を発した。
「アキレウス!?」
マークは、目の前に現れた大男に驚きの表情を隠せなかった。
「トロイアから逃げ切ったと思ったが、お前もついにここの住人か。城内で俺は矢に撃たれて、たった一本の矢でこの有様だ。アキレス腱に一本の矢で。それでお前はどうだったんだ?結局、黄金の果実とやらの探し物は見つかったのか?」
「プリアモス王から王子アイネイアスの亡命を手助けすることを条件に受け取った。プリアモスは城内に残って死を選んだ。ボクはアイネイアスを連れてトラキアに渡り、エーゲ海を南下して島々を転々とした後にペロポネソスに上陸し、シチリアを経由してイタリアに渡った。イタリアを目前にシチリアで父アンキセスは力尽きたがね。何とかアイネイアスは、ラティウムまで亡命させることができた」
「そうか。夢は叶ったんだな」
「ああ、一応はね。それと、キミが死んだ後、オデュッセウスが全てを終わらせた。アカイアが勝利し、トロイアは焼かれて消滅した」
「おいおい、身内話で全くついていけないんだが。俺だけ置いてけぼりか?まあ、とにかくお前らは知り合いだったってことか」
「お前じゃない、マーク様と呼べ!」
「お前じゃない、アキレウス様と呼べ!」
二人は、俺の方を向いて同時にそう言った。かなり苛立った感じだったので、敢えて俺はそれ以上何も言い返さなかった。
「いや、だがお前らは二人とも首筋に柘榴の刻印がないな。どういうことだ?」
アキレウスと名乗る男が俺たちを不思議そうに見て言う。
「首筋の刻印?」
俺は意味が分からず、言葉を発した。
「この場所に来た者には、ハデスとペルセポネの支配下に入ったことの証である柘榴の刻印が首筋に刻まれる。だが、お前らにはそれがない」
「たぶん、ボクらはまだ彷徨っている段階で、完全にここの住人にはなっていないなんだ」
「そうか。それは良かったな。羨ましい限りだ。まだ望みがあるかもしれないぞ。ここでの永久の無は、耐え難い。俺はあの頃の栄光ある戦士じゃなくてもいい。最低労働者であってもいいから生きていたい。現世に戻りたい。悲しみ、痛み、辛ささえも愛おしい。全てを感じて生きていたい。現世こそ全て。ここはあまりに息苦しい」
「アキレウス......」
マークは、悲しげな表情で大男を見ていた。
「マーク、お前にはいろいろと借りがあった。手助けになるかは分からないが、協力しよう」
「本当か!?それはありがたい」
「ああ、着いて来い。ここからお前らが抜け出せるかは分からないが、最善は尽くそう」
「何だかよく分からないが、持つべき者は友達ってことか?」
俺は、そう言った。
「だな」
マークは、深く頷いた。
To Be Continued...
Shelk🦋
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?