見出し画像

【てん虫未収録】幻ののび太のおじさん登場!『宝さがし』/藤子Fの宝探し⑨

宝探しシリーズも第九弾。ひとまずこちらで終了としたい。これまでの記事一覧は下記。


改めて並べてみると壮観だが、スキがいつもより少ないような・・・。

最後に取り上げるのは、「宝探し」というテーマのど真ん中の作品であり、さらにのび太の謎のおじさんムナシが登場する回でもある。てんとう虫コミックス未収録作品であり、それゆえ語るべきポイントも多い。


『宝さがし』
「小学五年生」1974年1月号/大全集2巻

本作は一月号の掲載作品ということで、お正月のお話。

冒頭から、のび太とドラえもんが宝探しをしている。日の出となり、太陽が六角岩を照らすと影が伸びていく。宝の地図によると、岩の影のてっぺんの部分が、宝のありかであるという。

さっそく掘り起こしてみると、時価数億円の財宝が見つかり、「今年は正月から縁起がいいなあ」と二人は大喜び。のび太は感激で体が震えるのだが、気がつくと昼寝をしていて、あまり顔なじみのない男性に体を揺らされている。

のび太の宝探しは、残念ながらお正月の夢だったようだ。しかしこれは初夢でもあったようで・・・。


のび太を昼寝から起こした男性、のび太が「おじさん」と声を掛けていることから、親戚の人らしい。のび太に何かお願いがあるようだが、それはお金の無心であった。

本来お正月にはおじさんから甥っ子にお年玉を上げるものだが、逆にお金を貸して欲しいという。しかものび太が平然としていることから、貧乏で有名なおじさんであるようだ。一体普段はどんなことをしているのだろうか・・・?


するとパパが部屋にやってきて、男性に話しかける。

「よう、ムナシ来てたのか」
「兄さん、あけましておめでとう」

この会話から、この男性はムナシという名で、パパの弟だということが判明する。

パパ(のび助)の弟と言えば、本作の10カ月前に発表した『ぞうとおじさん』において初登場したのび郎おじさんが有名。現在の公式設定では唯一ののび助の兄弟ということになっている。

しかしながら、のび郎という名前は同じでも外見の異なるおじさんが登場していたり、本作ではムナシという男性も出てきている。『プロポーズ大作戦』というエピソードでは謎の妹(?)も姿を見せる。

のび太の親戚については一度取りまとめをしなくてはならないが、まだ設定が固まり切っていない初期ドラでは、登場一度限りの親戚が多数存在している。


さて、無駄に起こされた形となったのび太は、さっきの夢の続きを見るべく、もう一度昼寝に臨む。すると机の引き出しの中からドラえもんが飛び出してくる。かなりの慌てっぷりで、のび太の名前を呼べぬまま引きつけを起こしてしまう。

そこでのび太が水を飲ませるとようやく落ち着き、事情を語る。

「アルバイトに行ったんだ、未来の世界へ。お年玉が少なかったから。二十一世紀のカミクズ株式会社の倉庫を掃除していたら・・・」

と言って取り出したのは、「当用日記」と書かれた日記で、100年前のものだという。表紙を良く見ると「19」の文字と、その後の部分は擦り切れて読めなくなっている。

ちなみに、ドラえもんが未来の世界にアルバイトに行っているという点は非常に重要なポイントである。というのも、ドラえもんのひみつ道具は、どうやって購入しているかが謎とされてきたが、どうやら未来のアルバイトで資金を確保していることが、ここで明らかとなったからである。


そしてドラえもんが見つけてきた日記には、凄いことが書いてあるという。のび太は日記を一部音読する。

「1月1日、昼頃起きてから昼寝してそのあといねむりして夜寝た」

「1月4日、僕は自分を見直した。毎年三日坊主で終わる日記をまだ続けている」

多少文面は異なるが、特に1月1日の日記などは『いつでも日記』で登場したのび太の三日坊主の日記を思い起こされる。『いつでも日記』は、本作の二年前に発表済みの作品で、本作では同じネタの使い回しとなっている。


ドラえもんが読んで欲しかったのは1月5日の記事である。そこには、

「1月5日、山中峠に宝を埋めた。時価数億円の宝石だ」

とある。なんと単なるぐうたら男の日記と思いきや、数億円のお宝を埋めたことを示す重要文献だったようである。

ドラえもんは、前回の記事で紹介した『珍加羅峠の宝物』同様に、のび太以上に宝探しに前のめりの姿勢を見せ、日記を疑うのび太に対しても「うそでもともとだい」と言って、山中峠での宝探しを主導する。


ところが山中峠と言っても広大で、手がかりなしに宝を掘り当てるのは困難だ。案の定、適当に掘ってもさっぱり出てこない。のび太は「夢でも日記に書いたのでは」と言って穴掘りをギブアップ。

「今どき宝探しなんて始めからおかしいと思っていた」と、のび太は愚痴っているが、これは後の『宝星』や『南海の大冒険』で描かれていた宝探し好きののび太とは一線を画す態度である。


家に戻りのび太はぶつぶつ言いながら寝る。ドラえもんが日記をパラパラしていると、この当用日記は1974年に書かれたものだと判明する。1974年と言えば本作の発表年であり、すなわち今年のことである。

そして、本日は1月4日で、宝を埋めたというのは1月5日。つまり、明日、この日記の書き手が宝を埋めるということになる。いわば未来日記だったのだ。


ドラえもんとのび太は日記の書いた人を突き止めれば、宝を埋めるところが見られるかもしれない、と考える。そこで、書き手の身元が明らかとなりそうな手がかりがないかと日記を皿のように読んでいく。

なお、ドラえもんたちが画策していることは、宝を埋める瞬間を隠し見て、あとから横取りしようということである。ある種泥棒まがいな計画だが、これを主導するのもまたドラえもんであることを忘れてはならない。


パラパラと日記を見てみると、同じ1月5日にこのような文章が書かれている。

「昨日寝すぎて朝早く目が覚めた。日本晴れ。日の出と一緒にアパートの影から六角ビルのアンテナの影が差したんだ」

六角ビルとは、誰もが知っている52階建ての超高層ビルのことであるらしい。のび太が冒頭で夢見ていた「六角岩」と符合するネーミングである。

また、六角ビルのモデルは、1974年に開業した変則6角形の新宿住友ビルのことであろう。52階建てで高さは210メートルだという。

今や高層ビル街として有名な西新宿は、1965年に淀橋浄水場が廃止となって、その跡地を中心に1970年代後半に次々と超高層ビルが建築された。住友ビルはその中の代表的な一棟であった。


日記の文言から、六角ビルのアンテナの影が落ちる場所を探せば、宝を埋める人の居場所がわかることになる。これも冒頭ののび太の夢と似た展開である。

さっそく六角ビルへと飛んでいくが、また深夜十二時前で日の出の時間までまだたっぷりある。しかも1月の寒空で夜中待つのもしんどいし、さらにはパトロール中の警察官に職務質問されてしまう。

これ以上待てないということで、ドラえもんは「実景プラネタリウム」を取り出す。タイマーを合わせればその時の時間の空を、全体に映し出すことのできる道具である。

さっそくタイマーを1月5日の夜明けにセットすると、瞬く間に日が昇り、六角ビルは長い長い影を町に落としていく。屋上のアンテナの影の先っぽを探すのび太たち。すると一軒の古めのアパートに辿り着く。


アパートの中に入り、ドラえもんは「宝探し機」を取り出して、各部屋に財宝がないかをチェックしていく。人様の財産を無断でチェックして回る行為は、未来の道具を悪用した典型例と言えるが、全く悪びれないドラえもん。

なお、「宝探し機」は本作の五ヵ月前に発表した『珍加羅峠の宝物』で使われたものと一緒である。


どうやらボロアパートの住民たちはお金がないようで、機械が反応しない。すると、どこかで見た男性が姿を見せる。昼間甥っ子であるのび太にお金を無心していたムジナおじさんである。

部屋に入れて貰うと、机の上に「当用日記1974年」と書かれた日記が置かれている。なんとドラえもんが100年後に見つけ出したものと同じ日記である。すなわち、宝を埋めたのは、お金がないはずのムジナおじさんだったのである。


ムジナおじさんは未来の日記を読んで唸る。これは間違いなく自分の日記だし、ウソを日記に書いたりはしないし、夢を日記につけたりもしない。よって、本日これから宝を埋めるはずだと強調する。

ありもしない宝をどうやって埋めるのか。ムジナおじさんは突然遠い親戚から遺産が舞い込むとか・・と空想する。


ところが、朝になって昼になっても、遺産が舞い込むような連絡はない。すると電話が掛かってくる。それは遠い親戚が死んだ連絡ではなく、仕事の依頼であるようだ。

その仕事先とは、山中峠。宝を埋めたとされる山である。


山中峠では、映画撮影が行われている。ムジナおじさんはなんと売れない映画俳優で、今回の役どころはギャングの子分。その役回りは盗んだ宝石を山に埋めることである。

・・・つまり、ムジナが1月5日に書いた日記とは、映画俳優の仕事として、時価数億円の宝を埋めたことを記していたのだった。


のび太に映画俳優をしているおじさんがいたとは驚きだが、本作はてんとう虫コミックスには収録されず、ムジナおじさんはすっかり幻のキャラクターとなってしまった。

その意味で非常に貴重な作品ではないかと思う。



この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?