見出し画像

パーマンは宝探しを諦めない。『宝物見つけた』/藤子Fの宝探し⑦

1968年4月。大政奉還が行われ、徳川将軍家の拠点江戸城は「無血開城」された。資金難であった新政権が入城したが、彼らが期待していたような財産が見つからず、幕府が一足先にどこかへと隠匿したのではないかと思われた。

そこから始まる「徳川埋蔵金」探し。幕府最後の金庫番(勘定奉行)だった小栗忠順が上野の国に隠れていたことから、噂が広まり、赤城山に徳川埋蔵金が埋められているという説が有力となっていく。

赤城山の発掘はその後幾度も失敗し、赤城山説は「囮」ではないかという説も出てくるようになる。


時は流れ、1990年代前半。僕はある番組を食い入るように見ていた。TBSの「ギミア・ぶれいく」という番組内で不定期に放送されていた糸井重里氏を中心とした「徳川埋蔵金」発掘プロジェクトである。

なお、「ギミア・ぶれいく」と言えば、藤子A先生の「笑ゥせぇるすまん」のアニメが放送され、A先生も時々出演されていた番組である。

発掘プロジェクトは2~3年は続いていたように思うが、色々な人工的な遺構も発掘されたりして、今にでも出てくるような雰囲気があった。

特に、今では信じられないが、まだイトイ新聞を立ち上げる前(というかインターネットが普及していない)の糸井重里が、番組の企画を超えて本格的にのめり込んんでいたことをが印象深かった。


僕がこの時思ったのは、この手の財宝探しを始めるのは比較的容易いが、どこで手を引くかが難しいということだった。特に、可能性を示す材料が途切れく出てきた場合、いつまでも発掘を続けてしまい、気付けば資金が底をついてしまうなんてこともある。

極端な話、1億円かけた発掘作業の末に、5000万相当の財宝が出てきても、逆ザヤとなる。出てくるだろう財宝量と発掘資金を天秤にかけていかなくてはならないのだが、いくら財宝が出てくるのか、もしくは全く見つからないのかの判断を下すのは大変に難しい。

宝探しは止め時の判断が困難なのである。


さて、「藤子Fの宝探し」と題して、宝探しをする藤子キャラクターたちを紹介してきたが、本稿ではパーマンの宝探しエピソードを取り上げる。

後ほど見ていくが、財宝探しを止めるタイミングについての話題が出てくるのだが、僕はこれを読むたびに90年代初頭の、赤城山の発掘現場に立つ糸井重里氏を思い出すのである。


「パーマン」『宝物見つけた』
「てれびくん」1984年3月号/大全集7巻

パーマンたちのライバル全悪連(正式名称:全日本悪人連盟)は、パーマンたちに仕事を邪魔され続けている日本全国の悪者が集う組織。理事長ドン石川氏を中心に、強盗・かっぱらい・詐欺などの部門に分かれて、全国の悪人が悪事を働きやすい環境を整えるのが業務となっている。

日頃は魔土災炎博士の発明の力を借りたりして、打倒パーマンの秘策を繰り出しているのだが、だいたいの場合返り討ちにあっていて、連盟の勢いは風前の灯火のように見える。

本作では、全悪連の社運(?)を賭けて密輸した金塊が海の底に沈んでしまい、パーマンの力を借りて金塊を引き上げさせる作戦を考えつく。それは、パーマン側からすれば、突然、宝探しのチャンスが舞い込むことを意味する。

この「宝探し」の経緯と顛末をじっくりと見ていこう。


大きな二棟のビルに挟まれた小汚い小さめの建物・全〇連ビル。「〇」は「悪」の伏字となっている。

全悪連の理事長に、密輸部長からの報告が上がる。それは、密輸した金塊を二宅島の沖合で海上取引をしていたところに、海上保安庁の巡視船が現われ、慌てて金を海の中に投げ込んだという。

金塊が沈んでいる場所は水深70メートルもあり、潮流が激しくダイバーを潜らせて引き上げすることが叶わないという。金塊の取引は連盟の資金のありったけをつぎ込んだ一大事業で、このままでは破産してしまう。

そこで副理事長が名案を思い付く。それは、いつも泣かされているパーマンを利用してやろうという考えであった・・・。


パーマンたちは仕事が忙しく、夏なのに海水浴にも行けないと愚痴っている。そんなところに、パーマン宛ての手紙が届く。それは、毎日の活躍を労って、のんびりと二宅島で海水浴でもいかがですかという、謎の招待状である。

三宅島ならともかく、二宅島など聞いたこともないが、伊豆七島のさらに南にある無人島であるようだ。


さっそく、パーマン、ブービー、パー子の三人で島へと飛んでいく。招待した人の姿がなく、代わりにビーチには「パーマン御一行さま」と書かれた目印の脇に、お弁当や飲み物がどっさりと用意されている。

喜んで飲み食いしていると、浜辺に手紙の入ったガラス瓶が置かれているのを見つける。中を開けてみると、二宅島近くの海に大金塊が沈んでいるという地図と手紙が添えられている。

「宝の地図は本物です。パーマンなら見つけて引き上げられるはずです。さあ、宝さがしにチャレンジしよう」

パーマンはこれを読んで「探そう!」と盛り上がるが、パー子は「なんかインチキくさいな」といかがわしさを察知する。


それでも、「無くてもともと、海水浴に来たんだから行こう」とパーマンは乗り気。水着に着替えて、三人で海の中へと潜っていく。

この様子を陰から眺めているのは、全悪連の理事長とその子分と密輸部長の三人。彼らの計画では、パーマンが金塊を引き上げたところを襲って、何もかも奪うと言うもの。

これまでパーマンに全く歯が立たなかった彼らに勝ち目があるとは思えないが、ドン石川はマシンガンを手元に準備しており、今回ばかりはと並々ならぬ構えだ。


海の底ではパーマンだけが金塊探しに熱心で、パー子とブービーはあくまで泳いで遊ぶだけ。やがてパー子たちは泳ぎ疲れて水から上がり、そろそろ帰ろうと言い出す。

パーマンは金塊に目がくらんでおり、見つけるまでは帰らないと主張。パー子が「留守が長くなっている間に事件が起きたらどうするのよ」と指摘するが、パーマンは「君たちに任せる」と職場放棄のひと言。「なんて無責任な」と二人は怒って、帰って行ってしまう。

一方、金を見つけずに帰っていく二人を見たドン石川は、「無責任な!」と憤る。逆に「1号は感心な奴だ」と褒め称え、部下たちに対して「やりかけたことはやり遂げる!見習いなさい」とお説教するのであった。

確かに、手掛けたことを最後までやり遂げるのは立派な行為だが、こと宝探しについては、見つかるか不透明なので、潮時・引き際というものが必ずあるはず。博打などもそうだが、必ず目的を達成できるか分からないものは、止め時を間違えると、逆に破産してしまう危険性があるのだ。


全悪連の三人にこっそりと褒められていたパーマンだが、しばらくして宝探しに嫌気が差す。金塊があるとされる場所は潮の流れが速く、疲労がすぐに蓄積されてしまうからだ。「宝なんて嘘だったのかも」ということで、パーマンも陸に上がって、帰り支度を始める。

その様子を伺っていたドン石川たち。このまま帰すわけにはいかないと、パーマンの元へ乗り込もうとするのだが、ここでパーマンが大声を出す。マントが無くなっていたのである。

おそらくはパー子たちが持って帰ってしまったに違いない。仕方なくパーマンはそのまま海の中へと走り込んでいく。マントがないので、パーマンパワーを駆使して、海の底を走って帰るしか手段がないのである。


探しものは、探している時には見つからず、別の用事をしている時に図らずも見つかることがある。狙っていない時に、目的が達成されることは、人生のあるあるなのだ。

パーマンは、ただ無欲に帰りたいだけだったに違いない。ところが、たまたま海の底で大きなケースを見つけて、これをこじ開けると、中には金塊がびっしり詰まっている。パーマンの宝探しは、狙っていないタイミングで達成されてしまったのである。


パーマンが黄金を見つけたというニュースはすぐに報じられる。金塊は密輸船から投げ捨てたものと推察される、パーマンはパー子やブービーたちに対して「やるべきことはちゃんとやっているのだよ」と得意顔。結果論にはすぎないのだが、まあ結果を出したことにはかわりはない。

一方の全悪連。パーマンに金塊を見つけさせることは狙い通りだったが、それを奪い取れなくては、意味がない。単に没収されただけである。理事長は密輸部長たちに激怒する。

「パーマンの弁当代、飲み物代は、お前たちの月給から差し引くからな!!」

せこい発言だが、それほどの資金難に追い込まれた全悪連なのである。


思いの外長期シリーズとなってしまった「宝探し」は、次稿でようやく完結です!


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?