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目指すは死神山のどくろ岩!?『宝さがしごっこセット』/藤子Fの宝探し③

少し前になるが、ニコラス・ケイジ主演の「ナショナル・トレジャー」という映画があった。極めてオーソドックスな、ある意味使い古された財宝探しのお話だったが、この映画を見た時に、暗号を解きながらお宝を探し求めるという展開は、やっぱり盛り上がるものだなと思った。

思えば、子供の頃食い入るように読んでいた「怪盗ルパン」シリーズでも、暗号を解いて隠された財宝のありかを見つける、という話が特に好きだった。

暗号を解いての宝探しは、古今東西、ファンの多い、不朽のテーマであるようだ。


「ドラえもん」では、何かと宝探しに出掛ける話が多い。前々稿で紹介した『宝星』は宇宙の大海原に宝を求めるお話だった。他にも、確認できているだけでも5~6本の宝探しのストーリーがあるので、これを順次紹介していけたらと思う。

本稿では、そんな「宝さがし」のエピソードの中から、「暗号を解いて宝のありかを探す」タイプの作品を取り上げる。ライバルのトレジャハンター(?)も登場したりして、とてもワクワクした作りとなっている。


『宝さがしごっこセット』(初出:宝さがし)
「てれびくん」1977年3月号別冊付録

まず本作の掲載誌について記す。本作は、「てれびくん」というテレビマガジンで、まだ創刊から間もないタイミングで、「別冊付録」として連載された作品群の一本である。

ご存じの方もいるかと思うが、初期の「てれびくん」で発表された「ドラえもん」は、読者の年齢が固定されている学年別学習誌ではない雑誌の作品ということが影響しているのか、とても「変わった」作品が多い

「変わった」というレベルではなく、かなりぶっ飛んだ、ある種ヤケクソ気味のお話もある。

これまでいくつか紹介してきたので、こちらをご参照いただきたい。その壊れっぷりをご理解いただけるものと思う。


本作は「てれびくん」初期の作品ではあるが、ぶっ飛び具合はほどほどである。

冒頭、のび太が一冊の本を手に取り「こんな面白い漫画は初めてだ」と大興奮し、部屋を飛び出して行く。その本をドラえもんが確認すると、「どくろ山のたから」というタイトルの漫画で、その内容とは、

「主人公の少年が、倉の中で古い地図を見つけて、その謎を解いてついに宝を発見する話」

であった。典型的な「宝島」タイプの冒険漫画であるようだ。


勘のいいドラえもんは「さては!」と何かに気がつき、のび太の後を追うと、のび太は庭の物置の中身をひっくり返している。どうやら、漫画の影響をもろに受けて、宝の地図を探しているようだ。

ドラえもんが「物置の中から宝の地図が出るわけない」と指摘すると、のび太は「やっぱり倉じゃないと無理かねえ」と呟き、家の中に戻ってママに対して「うちも倉を立てようよ」とねだる。今から倉を立てても、宝の地図が出てくるわけがないのだが・・。


ちなみに、僕の実家には古い蔵があり、子供の頃は確かに何か古文書のようなものが出てきてもおかしくないなと思ったりした。その当時は価値のありそうなものは見つからなかったが、子供の頃買っていた漫画や雑誌などはほとんど蔵の中に仕舞ってあり、今実家に帰ると蔵の中はまさに宝の山となっている。


ドラえもんが「あれは作り話だ」とのび太に言うと、「夢のない世の中だなあ」と落ち込む。そこでドラえもんが出した道具が「宝さがしごっこセット」である。

外見は立派な宝箱で、中には金銀の財宝が詰まっている・・・訳ではなく、ただのプラスチックの作り物である。宝箱にはロケットがついてて、どこへでも飛んで行って埋まる。その時付随の小型ロケットが切り離されて帰ってくる。その中には隠し場所を書いた地図が入っているという仕掛けである。

本格的に宝探しが楽しめる、未来の子供たち垂涎のおもちゃであるが、本当の財宝を見つけたいのび太にとっては、全く物足りない。


そこでドラえもんは、宝箱にパパのカメラとママのネックレスも入れようと提案する。見つからなかったら大変だが、その分夢中で探すことになるので、面白いのだとドラえもん。

このドラえもんの提案は、宝さがしのスリルが増すという意味において効果的だが、冷静になって考えてみると、もともと家にあるお宝を自ら埋めて、それを自ら見つけることになるので、その行為に何のプラスもない。

むしろ無くしてしまうリスクを考えると、ドラえもんの作戦が正しかったのか微妙で、この後カメラとネックレスを入れたことで、余計な心配が増えてしまう展開に進んでいくことになる。


宝箱ロケットは発射され、どこか遠くの山の中へと飛んでいく。ここでジャイアンから電話が掛かってくる。八つ神山にハイキングに行くので連れてってやろうかというお誘いである。

のび太は「もっと面白いことやってんだ、宝さが・・・」と、危うく宝探しごっこのことを話してしまいそうになり、慌てて誤魔化す。

電話を切って部屋に戻ると、さっそくロケットが返ってきたという。宝の隠し場所は、

「死神山のどくろが見つめる一本杉の根本に埋めてある」

と紙に書かれている。


「本当の宝探しみたいだ」と興奮するのび太であったが、すぐに「死神山」がどこか分からずに、慌て出す。地図にも載っておらず、ママも聞いたことがないという。先生に電話で質問すると、「マンガばかり読んでないで勉強しなさい」とどやされる始末。

「カメラとネックレスをどうしてくれるんだ、八つ神山へハイキングに行けば良かった」と泣き出すのび太。すると「八つ神」と聞いてドラえもんがピンとくる。この紙に書かれた文言は暗号になっていて、死神とは【4×2=8】で、八つ神山のことを指すというのだ。

ちなみにこの時のび太は4×2は6だと、本気のボケをかましている。


死神山(八つ神山)まではどこでもドアであっという間に辿り着く。次の手がかりは「どくろが見つめる一本杉」である。どくろを求めて、山を歩き出すのび太とドラえもん。のびたはどくろが何なのか知らなかったようだが、さっきまで「どくろ山のたから」という漫画を読んで興奮していたはず。

ドラえもんはおそらくはどくろに似た形の岩か何かだろうとあたりをつける。ハイキングの休憩中と思われるおじさんに聞いてみようと近づくと、逆におじさんから「この辺にどくろ岩がなかったかね」と逆質問される。

なぜどくろを探しているのか尋ねると、そんなこと君たちに関係ないと、何だか怪しい受け答え。のび太は自分たちの宝を横取りしようとしているのではと訝しむのであった。


どくろ岩などさっぱり見つからない。どこでもドアを通じて、ママの「昼ご飯ができた」という声が聞こえてくる。一応帰らないとうるさいからと、戻って大急ぎでご飯を食べる二人。ガツガツ食べていると、ママは「ご飯がそんなにおいしいの?」と嬉しそう。

ドラえもんは「ママがあのことに気付く前に見つけなきゃ」と小声で話しかけると、のび太は「ネックレスとカメラだ」と無邪気に大声を出して、ママに気付かれそうになる。


八つ神山に戻ると、ハイキング中のジャイアン・スネ夫にバッタリ。誤魔化して逃げ出す。

地元の農家の方にどくろ岩のことを聞くと、子供の頃に見たことがあると答える。その岩は道路ができた時に削られてしまい、場所は忘れてしまったという。

先ほどどくろ岩を探していた男も、農家の男性に「どくろ岩は・・・」質問している。関係あるか不明だが、焦り出すドラえもんたち。

今度は地元の小学生にどくろを見なかったかと尋ねると、「うんと大きいのを見た」という。付いていくとそこは学校で、校長先生の鼻に大きなほくろがあると教えてくれる。

ほくろとどくろを聞き間違えているようである。


袋小路に陥ってしまったドラえもんたち。根性無しのび太は、

「どくろなんかないんだ。あの紙なんて出鱈目だ。もうカメラもネックレスも返ってこないんだ。ワ~」

と言って、またも大泣き。このちょっとの逆境で騒ぎ立てるクセは直ちに治していただきたい。


ここで、捨てる神あれば拾う神あり。理科室にどくろ型の骨格標本が置いてあるのを見つけるドラえもん。そのどくろは窓の外、山の上の一本杉を見つめているではないか・・・!

のび太とドラえもんは「急げ」とばかりに一本杉のある小山を駆け上っていく。その様子を見つけるジャイアンたちは、怪しいのでつけてみることに。


一本杉の根本に到着すると、並行してどくろ岩を探していた男性が、一足お先に土を掘り返してる。ドラえもんたちは「その宝は僕らが埋めたんだ」と抗議すると、男性は「ここへ宝を埋めたのは300年も昔の人だ」と反論してくる。

男性は古道具屋で巻物を見つけ、そこには「どくろ岩の下に宝を埋めた」と書かれていた。どくろ岩が一本杉の横にあったことを経った今突き止め、掘り出しているのだという。


そういうことで、お互いに横取りされてたまるかと躍起になって、ザックザックとそれぞれ土を掘り出していく。そこへスネ夫とジャイアンが現れたので、シャベルを渡して、出たら半分くれるという条件で、宝さがしを手伝うよう要請する。

すぐにガチと古めかしい箱を掘り当てるジャイアン。のび太は「こんな汚い箱じゃない、もっとしっかり探してよ」と箱を放り投げてしまう。その箱は隣で掘っている男性の頭を直撃するのだが・・・。


今度はのび太がガチンと何かを掘り当てる。それは念願の宝さがしセットの宝箱。「あった!」と大喜びののび太。ところが中身はプラスティックの財宝ばかりなので、呆気にとられるジャイアンたち。

すると、のび太たちの隣で、ライバルの男がジャイアンたちが見つけた箱を開き、中からは大判小判がザックザク出てくるではないか!

のび太とドラえもんにとっては、「カメラとネックレスを戻さなきゃ」が至上命題となっていたため、本当の宝の発見をマンマと逃してしまったということなのである。

そう考えると、ドラえもんが宝探しにネックレスとカメラを入れたのは、やはり間違いであったと言えそうである。


本作は、宝さがしをテーマとしているが、宝がライバルの手に渡ってしまうという、ある種のバッドエンディングを迎えることになる。そんな少年漫画をさらりと発表してしまう藤子先生って凄いと、逆に思えるのであった。


追記:
本作と同様に暗号解読型の「宝さがし」ものがあるので、こちらもご紹介。

『宝さがしペーパー』「小学二年生」1985年1月号/大全集15巻

こちらは宝物といっても、お年玉のこと。パパがお年玉袋をどこかに置き忘れてしまったので、大事なものを探すための道具「宝さがしペーパー」を使うことに。

この道具、若干面倒くさい仕様になっていて、ペーパーに浮き上がってきた謎を解かないと、探し物は見つからない。よって、探すのが目的というよりは、謎解きを楽しむ道具なのかもしれない。

ここで登場する「暗号」も子供読者が喜ぶような文章になっているで、宜しければ単行本でご一読あれ。「ドラえもんプラス」の4巻でも読めます。


「ドラえもん」の考察をしています。


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