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のび太、ガチの家出の10年間『無人島へ家出』/Fキャラは家出する③

藤子キャラクターたちは、家出する。
のび太も、のび太の息子も、
Q太郎もベラボーもエリさまも、
みんな、みんな家出する。
空夫(モジャ公)は宇宙に家出してしまう。
パーマンも、中年スーパーマンも家を飛び出す。
でも、みんな好きで家出しているわけではない。
それぞれ、仕方のない理由があるのである。
今回は家出常習犯・のび太の、ガチの家出10年に迫る!

以前の記事でのび太の家出年表を制作した。いま確認できているところで11回家出をしている。(一回はのび太の息子だが)

たいていの場合は近場でお茶を濁したり、すぐ挫折したりしているのだが、一本だけガチに10年間(!)も家出を続けたというトンデモないお話が存在する。それが『無人島に家出』である。

掲載誌は「テレビくん」の別冊付録なのだが、この媒体での「ドラえもん」は怪作が多いことで有名である。伝説的な『ターザンパンツで大活躍』や『分解ドライバー』が連載されており、少々やけっぱちな作品が多い印象を受ける。

本作もその流れの一本と考えると、非常に納得のいくものとなっている。展開が大味なのである。


「ドラえもん」『無人島へ家出』
「テレビくん」1977年1月号別冊付録

冒頭、夜遅くまで遊びまわっていたのび太に、パパとママが烈火の如く怒る。のび太は「ほんの少し遅れただけであんなに叱らなくても」と嘆くが、ドラえもんが「同じことを何べんも繰り返すからだ」と指摘したので、そこでのび太は逆上。家出を決意する。

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ドラえもんは強く引き留めるが、ねずみのびっくり箱を使って失神させて、ポケットから色々持っていこうと考える。この時のび太はよく吟味して道具を選ぶか、ポケットごと持っていけば良かったのだが、適当に何個か見繕って家出してしまう。

のび太は「パパとママがびっくりするはず、いい気味」と出発。「人気のない無人島に行きたいな」と考えながらタケコプターで海の上を飛んでいると、簡単にちょうどいい島が見つかってしまう。

温かい南の島であるようだが、とりあえず一晩寝て明日探検することに。

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朝になると、持ってきた道具の一つが、ポカポカとのび太を叩いて起す。「寝坊した、ごめんなさい」と寝ぼけるのび太だが、すぐに家出をしたことに気づき、「つまらない物持ってきたな」と後悔する。

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ちなみに今回持ってきた道具は8個+タケコプター。これらが話の伏線にもなっていくので、ここで紹介しておこう。

①タケコプター
②叩いて起してくれるめざまし
③ピピピと電波?を発する謎の機械
④勉強をスパルタに教えてくれるモニター
⑤ルンバのような自走式掃除機
⑥ハトや紙吹雪が飛び出す手品拳銃
⑦星のついた謎のオブジェ
⑧モグラ手ふくろ
⑨雨が降る傘

まずは食料を調達する必要がある。そこで持ってきた道具を③④⑤⑥と試していくのだが、これらが全く役に立たない。⑦に至っては使われもしなかった。

続けて腹も減ったが喉も乾いたということで、唯一役に立ちそうな⑧モグラ手ぶくろで井戸を掘ってみることに。だいぶ深くまで掘り進め、ようやく地下水が沸き上がる。

これで飲み水確保といきたいところだったが、ガブリと口をつけると、なんと海水。この無人島は真水の地下水が湧き出ないのである。

これではさすがに生きていけないということで、のび太は家出を断念し、タケコプターで帰ろうとする。ところが慌ててスイッチを入れたタケコプターを思わず手放してしまい、空へと飛んで行ってしまう。

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これで脱出の手段が奪われ、いきなりのピンチ。そこへ雨が降ってきたので、⑨の傘を差すのだが、傘からも大雨が降ってきてしまう。

たまらず、先ほどモグラ手ぶくろで掘った穴に逃げ込んで雨を回避すると、のび太はここで暮らせばいいかと思い立つ。そして傘から降り注ぐ大雨を溜めれば飲み水になることも発見。さらに掘った穴にヤシの実がなった木がめり込んできて、実を取ることも可能となる。

こうして食住が揃って、生活ができる環境が何となく整う。そこでのび太は思う、

「何とか暮らしてれば、きっとドラえもんが助けに来てくれるよ、僕は信じてる」

と。

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さてここからが、のび太の苦難の始まり。のび太がドラえもんを待ち焦がれる10年が、たった一ページ・7コマで描かれる。伝説のシークエンスである。

「一週間たったけど来ない」→「明日はきっとくるよ」
「一か月…来ないなあ」→「明日こそ来ると思うけど」
「一年たったけど…まだ来ない」→「永久に来ないんじゃないかな…まさか!?」
「ついに10年経った。パパやママやドラえもんは、どうしているかな…」

とあっと言う間の10年孤島暮らしなのである。

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すっかり大きくなったのび太は、髪の毛も伸びて髭もボウボウに生やしている。のび太は発狂したようにわめき立てる。

「どうなってんの!? 僕が大人になったら、このまんがお終いじゃないか!!」

思わずメタなツッコミも飛び出している。夕暮れを背に「このまま歳をとって一人寂しく死ぬのじゃ」と男泣きするのび太。

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すると10年前に役に立たなくて捨て置いたひみつ道具に気がつくのび太。③ピピピと電波?を発する謎の機械である。スイッチを入れると、ピピピと電子音が鳴り出す。音を聞きながら「あの頃が懐かしい」と肩を落としていると、のび太は思わず目を見張る。

ドラえもんが猛スピードのタケコプターでこっちにやってくるのである。「ドラえもん!!」と叫ぶのび太。二人は手と手を取り合って10年ぶりの再会を喜ぶ。のび太が捨てていた道具は「SOS発信機」で、この電波によってのび太の居所を掴むことができたのであった。

冷静に考えれば、ドラえもんの道具を駆使すればのび太の居場所はわかりそうなものだが・・・。これには実は深い訳がある。(解説は後ほど)


10年ぶりに帰宅することになるのび太。けれど既に20歳くらいになっているし、10年も家を空けていたことで怒られるのではないかと気に病む。そこでタイムマシンで10年前に戻り「タイムふろしき」で身を包んで10年前の姿へと元通り

10年ぶりに会うことになったママに「お懐かしいお母様」と抱きついて号泣するのび太なのであった。

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さてこれでめでたしめでたしということだが、少しだけ疑問が残る。それは時系列についてだ。

家出した日を起点として考えてみると、のび太は夜に家出しているが、その夜遅くにはタイムマシンで10年前からのび太が戻ってきて、10歳ののび太として普通の生活が始まる。つまりここからの10年は、無人島ののび太と野比家でののび太で二人ののび太が地球上にいることになる

ママやパパからすれば、この10年はのび太(20歳・見た目10歳)と暮らすことになるので、同時代ののび太が無人島に家出していることに気づいていない。


では家出を知っているドラえもんから見るとどうなるか? のび太が家出してしまった後、探し回ったことだろうと想像される。手を尽くしたが見つからないまま10年が過ぎたことになる。

ところがのび太が家出した直後、10年後のドラえもんとのび太がタイムマシンで現れたことになるので、ここからの10年間はドラえもんも二人存在していくことになる。一人はのび太を探し続け、もう一人は野比家でのび太と暮らしていったのかもしれない。

と、いま確認した流れが正しいとすると、ある疑問が浮かぶ。というのも、10年後から現れたのび太から家出した場所を聞きだせば、SOS発信機の電波を待たずして無人島ののび太を見つけ出すことができるからだ。


さらに考えていくと、のび太の居場所を知ったドラえもんが無人島からのび太を連れ戻してしまうと、そこから野比家では常にのび太が二人いる状態になってしまう。ドラえもんは一人未来に帰ればいいので問題はないだろうが、のび太はそうはいかない。

「二人ののび太」が野比家にいない状況を作るには、一人ののび太は無人島で孤独に10年を暮らしてもらうしかないのである。よって、家に二人状況を回避するため、ドラえもんは発信機が繋がるまでの10年間、のび太を放置しておかねばならない。

そのように考えていくと、タイムパラドックスが起こらないよう、ドラえもんは冷たく10年ものび太を放っておいたことになる。

ドラえもんの道具があれば、のび太は見つけられたはず。それはその通りで、敢えてドラえもんはのび太を探していなかったと考えられるのである。


のび太の無人島での孤独な10年という辛辣な人生の裏側には、ドラえもんの冷酷な考えがあったのだ。二重に恐ろしいお話なのである


「ドラえもん」の考察やっています。


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