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のび太、積年の夢が叶う!『あやとり世界』/のび太の3大特技がスゴイ!あやとり編②

のび太の三大特技「射撃」「昼寝」「あやとり」。その全てが世界トップクラスの腕前なのだが、残念ながら、ジャンルがマイナーだったり、平和な今の世の中には活躍の場がなかったりして、誰からも褒めてもらえない。

特に「あやとり」については、定期的に深い研究から生み出された大技を繰り出しているが、絶賛されるどころか、逆に冷やかな視線をぶつけられてしまう。

そんなのび太のあやとりの素晴らしい腕前と、反面皆に認められない悲哀を、前回の記事でダイジェスト的に紹介した。


本稿では、あやとりの実力を認めてもらえないのび太が、あやとりが大流行している世界を作り出し、そこで尊敬を集めようとするお話を取り上げる。

この作品では、のび太のあやとりが世界トップレベルの実力であることが判明しつつ、まさかのあの人物にせっかくの活躍の場を奪われてしまう、意外な結末が待ち受ける・・。


『あやとり世界』「てれびくん」1977年4月号/大全集18巻

本作は「もしもボックス」4度目の登場作品。1976年に初登場したもしもボックスは、藤子先生のSF魂にうまくフィットしたようで、76年~77年の短期間に5回も使用された。

もしもボックスについては、いくつかの記事を書いているが、例えば下記の記事などを参照いただけれ幸いです。


また、本作の特徴としては、掲載誌が「てれびくん」という点にある。「てれびくん」は小学館から発刊されたテレビマガジンだが、「学年誌」と違って対象読者の年齢を限定していない。そのせいか、「てれびくん」に掲載された「ドラえもん」は、どことなく実験的なお話が多いように感じられる。

特に初期の「てれびくん」掲載作品を並べてみると、その異色のラインナップが一目瞭然。リストを見るだけでお腹いっぱいとなってしまう。

もしもボックスで昼ふかし?
無人島へ家出
悪の道を進め!
宝さがしごっこセット
あやとり世界
分かいドライバー
ターザンパンツで大活躍!?

全体的な印象は、どことなく過激でやけっぱち。『無人島へ家出』は10年ものび太を放置してしまうし、『ターザンパンツで大活躍!?』では、アフリカの土人に食べられそうになってしまう。

本作もお話としては、それほど過激ではないのだが、いつも自分の味方をしてくれるドラえもんが、まさかの反乱行為に及び、その闇の一端が垣間見ることができる。



本作もいつもの「あやとり」をテーマにしたお話同様、のび太があやとりの大技を披露し、のび太の発する熱意とは裏腹に、冷たく対応されてしまう。

今回は両手と口も使う「ほうき星」という大作を、しずちゃんたちに自慢する。昨晩徹夜して作り上げた技だが、「お上手」とだけひと言感想を言われるだけで、しずちゃんたちは行ってしまう。

しずちゃんに感心されないので、家に帰ってママに「ほうき星」を見せるのだが、ちょうど洗濯干しで忙しくしていて、相手にされない。そして、

「何の役に立たないあやとりなんかやる暇あったらお勉強なさい!」

と切って捨てられるのであった。

のび太はあやとりには、惜しみなく研究に時間を費やし、それこそ寝る間を削っている。そんな苦労があるのに、周囲からはただの役立たずの扱いである。ドラえもんにも、「あやとりがうまくても偉い人にはなれない」と、ママの肩を持たれてしまう。


そんなのび太が妙案を思いつく。最近よく使っている「もしもボックス」を使って、あやとりが大流行している世界を作ろうというアイディアである。

この案を聞いたドラえもん、いつもだったら、試しにやってみようという方向になるのだが、今回は「よせっ。そんなくだらない」と猛反対。この後も、今回のあやとり世界においては、ドラえもんはずっと後ろ向きな態度を取り続ける。


新しい世界を見に、町内へと出ていくのび太。するとまずジャイアンがあやとりをしながら歩いてくる。うまくいかずにイライラしているようだが、これでこの世界が「あやとりに夢中な世界」であることがはっきりする。

空き地に行くと、意外と何でも器用にこなすスネ夫が、しずちゃんたちにあやとりを実践して見せている。お話の冒頭でのび太の「ほうき星」に冷視線を送っていた女子三人組である。

スネ夫の技は基本的な「さかずき」。大したことないように思えるが、しずちゃんたちは、スネ夫のテクニックにいたく感心している様子。のび太はニヤニヤとスネ夫たちを眺めていたが、そこへスネ夫が食ってかかる。「笑うならお前やってみろ」といういつもの挑発である。

女の子たちは「のび太には無理」「いじめちゃ可哀そう」と、何もする前からのび太があやとりなんかできない前提である。


さて、のび太の見せ場が早くも登場。「自信ないけどなあ・・・」などとスネ夫から紐を受け取り、「じゃ・・」ということで、日頃からの勉強を活かした華麗なるテクニックを魅せていく。

ササササッツと「さかずき」を作ったかと思うと、ちょちょっと作り変えて「ほうき」、さらに「二段ばしご」と流れるように、作品を作り上げる。これにはしずちゃんたちはおろか、いつしか空き地を取り囲んでいた野次馬たちも目を見張る。

ワ~と歓声が上がり、拍手が鳴り響く。それは、のび太がこれまで夢見ていた光景である。読者である僕らもスカっとくるシーンである。

「目にも止まらぬ早さ・・」
「なんという鮮やかな指さばき・・」
「天才だ!!」

と、皆に絶賛されて、のび太も思わず笑いが漏れる。ここだけで、もうのび太の望みは叶ったと言っていいだろう。そして実際、技を披露するシーンはほぼこれで終了してしまう。。


満足して家に帰ると、ママが「勉強なんかする暇があったらあやとりの稽古をしなさい」と注意していくる。この世界では大学の入試の最重要科目はあやとりなのだという。

「なんと素晴らしい世界だ」と喜ぶのび太。ところが、ドラえもんはずっと不機嫌なまま。のび太が「あやとりやってみろよ、教えてあげるから」と声を掛けると、「バカらしくて」とどこかへ行ってしまう。やはり今回は様子が変である・・。


パパが走って帰宅してくる。すぐにテレビをつけて、「プロあや」タイトルマッチがあるんだよと、興奮している。ママも「ほんと?」と寄ってくる。ドラえもんが「ご飯まだ?」とママに聞くと、そこで痛烈な返し。

「しばらくぐらい待ちなさい。意地が汚いわね!」

と、今日のママは毒舌である。


ここから何と4ページに渡って「プロあや」タイトルマッチの模様が描かれる。かなり異例なシークエンスである。

戦いの流れは以下の感じ。正直ルールはよくわからないが、二人で技を掛け合う格闘技のイメージである。

青コーナー:世界チャンピオン、グレート・フィンガー
白コーナー:挑戦者、アヤノ・トリロー
(解説:糸山)

チャンピオンはこれまで7回防衛中。挑戦者もメキメキと腕をあげている。好カードのようである。

第一ラウンド
アヤノ・・・「川」
チャンピオン・・・「富士山」
のび太の感想「てんで幼稚!」

第五ラウンド
アヤノ・・・必殺技「大森林」
チャンピオン・・・「銀河」

それまで押されていたチャンピオンだったが、最後の「銀河」がバチっと決まって、逆転勝ちを収めたようである。

ちなみにこの大技「銀河」は、既に本作の二年前に『いたわりロボット』にてのび太が開発・披露している。(少し形は違うようだが・・)

そして、優勝トロフィーと、賞金はなんと30億円!

のび太はその金額に驚き、「僕もプロあやになろうかな」と口にすると、パパが、「ユメみたいなことをいっちゃいかん。大変な努力と才能と・・」とたしなめる。


そこへタイミングよくお客さんが訪ねてくる。男は全日本プロあやとり協会のスカウトマンで、のび太があやとりの天才少年だという噂を聞きつけて、スカウトにやってきたのである。

そして提示された契約金はなんと3000万円! 思わずドタッとひっくり返るパパとママ。


翌朝、話はさらにエスカレート。

のび太は学校へ行かず家であやとりの研究をすると言うと、「それはいいことね」とママ。新聞を読むパパが「今度の選挙であやとり党が勝った」と言うと、ママが「そのうちあやとり大臣ができるわね」と返す。

のび太は「あやとり大臣になる」と、まるで「海賊王におれはなる」みたいに高らかに宣言。そしてこの後は、人気者のび太の様子が描かれる。

・ジャイアンが弟子入りを志望してくる
・女子高生たちに「サイン貰おうかしら」と噂される
・しずちゃんたちに「あやとり教えて」と囲まれる

得意気にしずちゃんたちにあやとりを教えだすのび太。ここで一緒にいるドラえもんに、「いっしょにやったら」と声を掛けるのだが、「ほっといてくれ」という反応。そして、さらにひと言、

「どうしてよ。今どきあやとりをやれないなんて恥だぞ。教えてやるよ」

と話しかけるのだが、これがどうやら余計なお世話だったようである。ここまでずっと不機嫌だったドラえもんが、ついに溜めてきた思いを爆発させる!

「手がゴムマリだからできないんだよっ」

「こりゃ悪かった」と小ばかにするのび太。すると、怒りで取り乱したドラえもんは、「もーいやだっ」と部屋へと駆け戻る。そしてもしもボックスに入って、「元の世界に戻れっ」とあやとり世界をリセットさせてしまう。


元の世界に戻った空き地。のび太がしずちゃんたちに「これがはしごだよお」と手ほどきするが、「そう、お上手」と作品の冒頭と同じようにそっけなくのび太から離れていってしまう。

ほんのひと時、のび太が主役であった世界は、まさかの相棒ドラえもんの手によって、唐突に終わりを迎えたのであった。


本作はあやとりをバカにされ続けてきたのび太の積年のうっ憤が解消される、スカッとした作品である。と同時に、天狗になったのび太がドラえもんをバカにしてしまったがために、その世界は閉じられてしまう。

バカにされながらも立ち上がって成功した人物が、今度は下々をバカにしたりすることがあるが、それはダメよというわけである。


本作とほぼ似たような構図の作品があるので、次稿ではそれを取り上げる。



「ドラえもん」の考察・解説をしています。


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