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体バラバラのび太の衝撃!必読の書『分かいドライバー』/考察ドラえもん㉛後半

『分解ドライバー』(初出:分かいドライバー)
「てれびくん」1977年6月号別冊付録/大全集18巻

以前にてんとう虫コミックに未収録で、さらにこれまで一度もTVアニメ化されていない幻の作品として、『ターザンパンツで大活躍!?』を取り上げて記事にした。反響が大きく、これまでで最もアクセスされた記事となっている。

この記事では、幻となる作品のタイプを3つに分類した。

① 連載初期の設定の揺らぎが残されたもの
②「幼稚園」「よいこ」などに掲載されたページ数の少ない幼児向け作品
③ 訳アリの作品

『ターザンパンツで大活躍!?』は、まさしく③であったのだが、詳しい訳アリの「訳」は下記の記事をご参照いただきたい。

今回紹介する『分解ドライバー』もまた、③にばっちり該当する作品となる。一体どのように訳アリなのか、詳しく見ていきたいと思う。

そもそも「ドラえもん」では、体がバラバラになったり、分解したり、人の体の一部と取り替わったりする作品がよくある。前回の記事で代表的なところを紹介しているので、こちらも興味ある方はご一読のほど。

本作で登場する「分解ドライバー」は、別に体をバラバラにするための道具ではない。むしろ違う使い方を想定された道具である。

冒頭、のび太が壊れた時計を分解するのに手間取っており、ドラえもんが何でも簡単に分解できるという「分解ドライバー」を出して手伝うシーンから始まる。

ところが時計が想定以上にバラバラになってしまったので、今度は組み立てるのに一苦労。そこにママから「手を貸して欲しい」と声が掛かるが、のび太は時計の組み立てに夢中。

ママが怒り出したので、ドラえもんが変に気を利かせて、分解ドライバーでのび太のバラバラに分解、片手だけをママへと持っていく。この辺りのドラえもんの行動にも疑問符が付くが、本作は全編に渡って皆んなの行動原理が少々おかしい

片手だけ持ち込まれたママは、あえなく気絶。そんなママに対してドラえもんは、

「あれっ、人を呼んでいて寝ちゃうなんて」

とご不満の様子・・・。ちなみにママは『手足七本目が三つ』でも、片手だけを渡されて泡を吹いて倒れている。

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一方、バラバラのまま放置されてしまったのび太。ところが、バラバラでも手足を動かせることに気付き、何とか体を集めるのだが、足が手に付いたり、腰回りの部分が欠けたりしてしまう。

ところがのび太はそんな不完全な体であるのに、「これはこれで面白い」と、なぜかいきなり事態を肯定的に捉えて、遊びに出てしまう。

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外に出かけたのび太は、ここで迷セリフ。

「なんでもいいからバラバラにしたいぞ」

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最初はプラモをバラバラにしたり、喧嘩している犬と猫の頭を入れかえたりするのだが、不思議と異様な姿ののび太を見て誰も驚かない。そこにジャイアンが通りかかり、声を掛けるのだが、「なんだその恰好」と驚く。ようやくまともな反応をする人間が現れた。

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ジャイアンはのび太から「分かいドライバー」の話を聞き、自分も欲しくなる。難癖付けてのび太からドライバーを奪おうとするのだが、もみ合っているうちにドライバーに触れてしまって、二人とも体がバラバラとなってしまう。

バラバラ慣れしているのび太はいち早く、手足を動かしてジャイアンの体を奪いとる。そして「どっちが強いと思う?」と凄んで、のび太の体となってしまったジャイアンは、怖れ逃げて行ってしまう。しかし、その手には「分かいドライバー」が・・・。

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分かいドライバーを手にしたジャイアンは悪戯を開始。道に止めてあった自転車と自動車を解体してしまう。ところが車をバラされた男が怒りだし、捕まえて弁償させると言い出す。それを物陰で聞いたジャイアンは、のび太に対して、「ドライバーを返すから体を元に戻せ」と提案する。何も知らないのび太はこれを了承。

のび太は家に帰ろうとするが、先ほど車と自転車を壊された二人の男に、弁償しろと言われる。「自分が壊したんではない」と言っても聞いてもらえず、のび太はたまらず逃げ出して身を隠す。

ところがそこに、のび太の腰回りと足が、のび太を探しに来てしまい、男二人に人質(?)として捕まってしまう。のび太、大ピンチ! ・・・それにしても、体がバラバラの少年を見ても全然驚かないこの二人のハートの強さ、そして胴体だけを人質にしようとする発想・・・。驚きである。

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ところが、隠れているのび太に、古いビルを壊す話が聞こえてくる。解体費が高く、揉めているようである。そこでのび太は、自動車と自転車を買ってもらえれば、代わりにビルを壊すと申し出る。捨てる神もあれば拾う神もあり、である。

ドドドドと、鉄筋コンクリートのビルを解体し、ピンチを脱したのであった。

ようやく体を元通りにしたのび太。そんなのび太に、ドラえもんは「それに懲りたらもう不精しなおことだね」と感想を述べる。が、そもそものび太を勝手にバラバラにしたのはドラえもんだったような・・・。のび太はバラバラの体で遊びに行っただけで、今回は別に無精をしていないのである。

そしてラスト。そんなのび太は、「悪いけど歯を磨いてきてよ」、と顔をドラえもんに渡そうとして終わる。「ちっとも懲りてない」とドラえもんが怒るのだが、このセリフを言わせるために、のび太が不精であると決め付けたようである。

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以上が本作のストーリーであるが、この全編に通底する違和感はなんだろうか? ドラえもんの投げやりなキャラクター、のび太の変な前向きさ、体がバラバラの人間を見てもあまり驚かない町の人々、体を人質にされたかと思うと、ビル解体の案件が急遽浮上するご都合主義の展開、ドラえもんのせいなのにのび太の不精のせいにしてしまうラスト、構造的な突っ込みどころが満載なのである。

バラバラ描写の異様さ、のび太たちのセリフの奇妙さ、展開の不可思議さ、全ての面で珍作に相応しい。しかし逆に考えると、このような破天荒なストーリーも「ドラえもん」で表現できてしまう作品の幅広さに、改めて感心してしまうのであった。


「ドラえもん」の考察・紹介をたくさんやっています。是非とも下記リンクから飛んでみて下さい!


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