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冒険したいが、冒険は苦手『南海の大冒険』/藤子Fの宝探し⑤

宝探し大好きのび太くん。彼のようなコツコツ努力を積み上げるのが苦手な人間は、とかく人生一発逆転を狙いがちなので、おそらくそんなことから宝探しに強い関心があるのだろう。

藤子作品では「宝探し」をテーマとした作品が多数あるが、それは特に「ドラえもん」に集中している。これはひとえにのび太の逆転の夢見がちな性格によるものではないだろうか。

ここまで、「ドラえもん」×「宝探し」ということで、2つの記事で3つの作品を紹介してきた。記事は下記。


続けて本稿では、「宝探し」ものの大本命とも言えるお話を見ていきたい。

『南海の大冒険』
「小学三年生」1980年9月号/大全集11巻

『南海の大冒険』と言えば、藤子先生がお亡くなりになってから初めて、藤子プロのスタッフだけで映画を制作することになり、最初の題材として選んだ作品として知られている。映画のタイトルは『のび太の南海大冒険』であった。

この映画は、本作と『無人島の大怪物』という作品を絡ませ、宝島を目指すという冒頭部分を作り上げて、そこに「日本誕生」の要素などを足して作った作品。漫画版はチーフアシスタントだったむぎわらしんたろう先生が担当されている。

公開当時以来見ていなかったので、先日Amazonプライムで見直したのだが、完全なFワールドになっていて、その完成度に驚いた。かなり気合を入れて作ったことが伝わってくるし、そしてよくぞ一年で作り上げたなと感心した次第である。


さて本作は、冒頭から見所いっぱい。

まずのび太がドタドタと学校から帰宅し、ドラえもんを呼ぶ。その手には「宝島」の本。のび太は「今日、学校図書館でこれを読んだんだけど・・・」と話しかけると、ドラえもんは食い気味に「ない!」と一言。

まるっとのび太の考えなどお見通しのドラえもんは、「宝探しに行こうと言うんだろ? ほんとにそんなものはないの!!」と全否定する。のび太は「この小説は作り話か」とガックリと肩を落とす。

さらにドラえもんは、

「それにしても君は宝探しが好きだねえ」

と一言。やはり宝探しのお話ばかりということを、ドラえもんはよくご存じなのであった。


ドラえもんはさらに追い打ちをかけるように、「そんな夢みたいなことを忘れて、勉強し、体を鍛え、自分の力でお金を稼ぎなさい」とお説教をするのだが、これが壮大な前フリとなっていて、次の瞬間に、テレビから「宝島が発見された」というニュースが流れてくる。

見つかった財宝は金貨や宝石で、現在のお金にして100億円という。また、大昔に海賊キッドが埋めたものと説明されており、これは前回の記事も書いたのだが、17世紀に活躍した海賊ウイリアム・キッドのことである。

映画『のび太の南海大冒険』では、17世紀のカリブ海にタイムトラベルすることになり、海賊キッド本人が登場している。


このニュースを聞いて、「あったじゃないか!」とのび太は激昂。「すぐ宝探しに行けば間に合ったのに!!」と、なかなか無理なことを言う。

そこまで言われたらということで、ドラえもんが取り出したのは「宝さがし地図」という、世界中を360枚に分けて書いた地図。この地図に針を刺し、宝のありかを正確に突くとブザーが鳴る仕掛けだという。

宝から一ミリずれてもダメという、まるで罰ゲームのような道具。普通はこの時間をコツコツ勉強したりする方に使おうと考えるものだが、一発逆転男ののび太は「やってみる!」と腕まくり。

すると、たった一発突いただけで、いきなりビーとブザーが鳴る。南太平洋の真ん中の小島を突き刺しているが、ここが宝島であるらしい。ここでドラえもんは「運がいいのか悪いのか」と感想を述べているが、最終的なラストから遡ると、運は悪いという結論になる・・。


のび太は「誰かに先を越されないうちに早く行こう」とせっつく。しかし、どこでもドアで直通するのは駄目という。のび太が言うには、宝があればいいわけでなく、宝探しの冒険がしたいのだという。曰く「嵐や海賊など危険と戦って・・・」。

そんな無謀な相談を受けて、ドラえもんは帆船仕様のモーターボートを出して、太平洋の航海へと乗り出す。ドラえもんは「長い航海になる、すぐに日本に帰ろうと泣き出すのでは」と指摘すると、のび太は「バカにするな」と一蹴。のび太はこういう冒険にずーっと憧れていたのたのだという。

・・とこれも壮大な前フリの一つ。次のコマでさっそくお腹が減り、ご飯を食べに家に戻ることに。「そらみろそらみろ」とドラえもんが大いに突っ込む。


船に戻ってもやることがなく、暇を持て余すのび太。海賊はともかく、せめて嵐でも出ないかとドラえもんに訴える。そこで取り出したるは、「ほどほどあらし」というビン。

これは舟遊びを面白くするための道具で、ビンを開栓すると暗雲が船の上だけに立ち込める。そして、ほどほどという割にはかなり強めの嵐が襲い掛かる。船は大揺れ、高波が荒れ狂う。船は沈まないが、のび太はまんまと船酔いし、どこでもドアで脱出する羽目となる。

のび太は、やりたいこと(夢)とやれること(現実)のギャップが激しいのである。


酔い覚ましに外をブラブラしていると、「のび太がいなかったので野球ができなかった」とジャイアンとスネ夫に難癖を付けられる。「宝島を探している」と言い訳するが、「それはのび太らしいや」と、二人大笑い。

小馬鹿にされたのび太は二人を海賊役にすることを思いつく。「ライバルがいた方が励みになる」とドラえもんをけしかけ、ジャイアンたちを誘導して海賊船に乗り込ませる。

「宝探しごっこに付き合っていられない」と拒否されるが、「首を掛けても宝物がある、こっちが先に見つけても宝を分ける」と説得し、破格の条件で何とか海賊役を引き受けさせる。


「ほどほど海賊船」で絶対追いつかれないレースをしたり、「ほどほど大砲」で撃ち合いをしたりと、海賊船ごっこを満喫していく。「ほどほど大砲」が壊れていて、のび太の船がボロボロになるというトラブルなどもあったが、毎日、放課後になると南の海に出ていく4人。

しかし、ほどほどの冒険が面白いわけがない。ジャイアンたちが先に飽きてしまい、宝島に着いたら教えてくれといって、離脱してしまう。

あと43日かかると聞いて、のび太もウンザリし、「どこでもドア」に「タイムふろしき」を被せて、43日経過させてそこをくぐる。こうすれば、船で宝島に行った事実には誤りがない。


宝島に着いたことをジャイアンたちに告げ、どっちが先に探し当てるか競争となる。地図によれば、島で一番高い山のてっぺんに埋まっているはず。ほどほどレースと違って、ここは二組のガチの競争となるが、当然脚力はのび太が最低で、二人に離されてしまう。

そこで「ハンディキャップ」を発動。これは、海賊の衣装としてジャイアンとスネ夫に被らせている海賊の帽子のことで、コントローラーを使って帽子で頭を締め付けて気絶させることができる。


ジャイアンたちが気を失っている間に、山の頂上に辿り着くと、なんと既に誰かに掘り出されている。

・・・ここは先日テレビで放送されていた海賊キッドの宝島だったと、ドラえもんが気付く。宝の地図からすれば、直近で宝が見つかったという情報を反映できていなかったのだ。

こうなると恐ろしいのはジャイアンである。宝がなかったと知ると、これまで散々、海賊ごっこにつき合わせてきたので、どれほど怒り狂うことか。

そういうことで、目を覚ます前に大急ぎで宝を埋めなくては・・。でも、のび太たちの手元にあるのは、わずかばかりの貯金や、おもちゃや漫画、とっておきのどら焼きくらいなのであった。


ここまで「ドラえもん」から4作品の宝探しを見てきたが、のび太の宝探しは悉く失敗ばかり。冒険したいという気持ちもあるが、本当の冒険は苦手。日常のコツコツが苦手な人間は、大海原に出ても結局大成しないのかもしれない・・・。


「ドラえもん」多数紹介しています。


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