見出し画像

大冒険は意外過ぎる決着へ!「てぶくろてっちゃん」『宝島大探検』/藤子Fの宝探し②

宝の地図を片手に、海賊たちを向こうに回して、大海原から無人島へ・・!「宝島」読者だけでなく、少年たち誰もが憧れるシチュエーションである。

藤子作品の中で、このシチュエーション通りの作品があるので、是非とも紹介したい。が、定番の題材を使って、定番ではない物語を展開するのが藤子F流。想像の斜め上を行く衝撃のラストを、何卒ご堪能いただきたく思う。


「てぶくろてっちゃん」『宝島大探検』
「たのしい三年生」1962年7月号/大全集2巻

まずは「てぶくろてっちゃん」とは何ぞやというところから・・。

「てぶくろてっちゃん」は、何でも作ることのできるてぶくろを使って、てっちゃんと、友だちのようこちゃんが、毎回何かを作っては大騒ぎとなるという、「道具主体型」の物語。

「ドラえもん」や「キテレツ大百科」と同系列のお話で、それらの原点とも言えるエピソードも多く出てくる。藤子F先生の初期代表作で、本作と「すすめロボケット」の二作品を対象に、第8回小学館漫画賞を受賞している。

藤子Fノートではこれまでも、様々な切り口で「てぶくろてっちゃん」を取り上げているので、もし余力あればこちらもご覧ください。


さて、本作を見ていこう。

「何かあっと驚くようなことはないかな」と部屋で退屈にしているてっちゃん。すると窓から見知らぬ男性が入ってきて、てっちゃんは「あっ」と驚く

男は悪者に追われていて、身を隠すためにてっちゃんの部屋に入ってきたのだ。そして男は、悪者の狙いは、自分が持っている宝の地図だという。それは遠い南の島へ、海賊キッドが埋めたものだと・・。

俄かに信じがたい話だが、男は自分の代わりにてっちゃんに取ってきて欲しいと依頼してくる。「男と見込んで頼む」などと機嫌を良くされて、てっちゃんは簡単に安請け合いしてしまう。

ちなみにここでの海賊キッドとは、17世紀に活躍してキャプテン・キッド(ウィリアム・キッド)のことだろう。

そういうことで、さっそくてぶくろを使って、小型の船を作ってしまうてっちゃん。親友のようこちゃんに「一緒に行こう」と声を掛けると、「面白そうね」と快諾。

食料として缶詰を大量に詰め込み、いざ出発。海までは車として道路を走り、そのまま海に入ると船になるという水陸両用の乗り物であった。


海上に出て帆を上げる。するとようこちゃんから、「汚い毛布ね、おねしょのあとみたいなシミが付いてる」と痛いツッコミが入る。

しばらく進み、そろそろご飯にしようということになるが、大量の缶詰あれど、肝心な缶切りを忘れてくるという大失態。その後、名作『のび太の結婚前夜』でも使われたネタである。ただ、本作の場合、てぶくろを使えば缶切りなどすぐに作れそうなものだが、それは思いつかなかったようである。


日も暮れて、「お腹が空いて死にそうだ」と嘆くようこちゃん。すると一隻の船が航行しているのが見える。「助かった」とヨットを船につけて乗船すると、出迎えてくれた船員たちは、何だかガラが悪そう。

「宝島に行くんです」と言うと、鼻で笑われるのだが、地図を見せると感心の声を上げ、取り上げられてしまう。

さらに「この船で働くのだ」と不条理に命令される。「どうもこの船は怪しい」と、モップをロボット化させて自動で掃除させつつ、自分たちは船内を探ることに。

すると船底から泣き声が聞こえてくる。降りてみると外国人風の女の子が部屋に閉じ込められており、彼女に事情を聞くと、「海賊に攫われた」のだという。怪しい船員たちは、やっぱり海賊であったのだ。


船上ではロボット化したモップが動き回っている。海賊の一人がそれをみて、びっくり仰天、船長への報告に走る。てっちゃんたちは、「すきを見て助ける」と女の子に約束して、見つからぬうちに掃除へと戻る。

ブラシがひとりで掃除しているということで、船員が船長を連れてくるのだが、てっちゃんたちが掃除をしているので、「うそつき」と船員にげんこつを食らわす。・・・まあ定番のギャグである。

「疲れたから休ませて」と言うと、船長は倉庫へ入れと命じる。倉庫では、海賊は大勢いるので、こっちも味方を作ろうということで、倉庫内に置いてある大量の樽を改造して、全てロボット化させる。

樽型ロボットを使って、海賊たちと交戦するてっちゃん。ほぼ制圧したところで、いつの間にか姿を消していた親分が、船底に閉じ込めていた女の子を人質にして戻ってくる。「降参しないと撃つ」と言って、拳銃を女の子に突き付ける。残念ながら、てっちゃんたちの逆転負けだ。


するとそのタイミングで「島が見える」と、見張りの声が上がる。宝島と思しき島があり、さっそく上陸しようということになる。宝の地図には、ヤシの木の根元に埋めてあると書かれている。その島には、ヤシの木は一本しかなく、その根元を海賊たちは威勢よく掘っていく。このあたり、超スピードで展開している。

ところが、いくら掘っても、何も出てこない。てっちゃんは「もっと深く掘るんだよ」とけしかけると、そのまま深く掘り進め、やがて自力で地上に上がれないほどになってしまう。まさに墓穴を掘ってしまった海賊たち


外国の軍艦が海上に見えたので、これで海賊たちは逮捕となることだろう。しかし、肝心な宝島は見つからなかった訳で、仕方なく、日本へと帰国するてっちゃんたち。

すると、「宝はあったかね」と宝の地図を置いていった男性が、再び窓から闖入してくる。「何も無かったよ」と答えると、「そんなはずはない、隠してるんだろう」と言って掴み掛かってくる。

すると、窓から続々と別の男性が入ってきて、男を捕まえる。男は「家に帰りなさい」と言われて、連行されていく。てっちゃんは、「あの人夢を見てたみたい」とようこちゃんに伝えるのであった。


本作は、結局は宝の地図は、男の夢想で、宝など最初から無かったというオチである。それだけでも変わったラストだなあと思うところだが、この終わり方については、もっと奥深いものだったと想像できる。

それは、今紹介したラスト近辺では、単行本用にセリフが改変されているのではないかと考えられるからだ。

男を追っている男性たちは白衣を着ているし、いかにも危ない男をわざわざ捕まえて、そのまま家に帰れというのも妙である。また、「あの人夢を見てたみたい」というてっちゃんの指が、自分の頭を指しているようにも見える。

その辺から察するに、初出においては、男は精神病患者という設定だったのではないだろうか。セリフについても、「家に帰りなさい」ではなく「病院に戻りなさい」、「あの人夢を見てたみたい」は「あの人頭がおかしかったみたい」、というようなことだったのではないだろうか。


もし仮にそんな改変があったとすると、今では絶対に描けないような衝撃的なラストだと言える。セリフ改変の真相については気になる部分ではあるが、作品が読めるだけで幸せということで、特に深掘りしないこととしたい。



この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?