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入れかわりの原点は「てぶくろてっちゃん」でした。 藤子F「とりかへばや」物語 ④

「てぶくろてっちゃん」『人体入れかえ機』
「たのしい二年生」1961年11月号別冊付録/大全集2巻

藤子F先生の作家史を眺めていくと、その後の分岐点となるような重要な作品が浮かび上がってくる。藤子先生と言えば「オバケのQ太郎」から「ドラえもん」に繋がる生活SFギャグという大ヒットの潮流があるわけだが、その水流を遡っていくと、辿り着くのが「てぶくろてっちゃん」である。

「てぶくろてっちゃん」は講談社での学習誌をメインとしていた頃の作品で、初めての学年繰上り方式での連載であった。学年繰上り方式とは、最初の連載が「たのしい一年生」で、翌年4月から「たのしい二年生」で連載が続き、さらに翌4月からは「たのしい三年生」で掲載される、というような連載形態のこと。学年が上がると同時に、マンガの主人公たちも読者に合わせて成長していく、という方式である。


「てぶくろてっちゃん」は、不思議なてぶくろで色々なものを作って遊ぶ、というお話なのだが、繰り上り方式で通して読んでみると、一年生では紙工作のレベルだったものが、二年生・三年生となると、作る道具も複雑なものとなり、ストーリーも読み応えを増していく。

本作で対象年齢別の描き分けを経験し、これがその後の「ドラえもん」などにも援用されていったように思われる。


「てぶくろてっちゃん」は、毎回不思議な道具を作って遊ぶ、もしくは騒動が起こるというのがパターンなのだが、これは丸っきり「ドラえもん」のストーリー構造と同じである。よって、ドラえもん、オバQの原点、というような言われ方をされるのだが、改めて読んでみると、確かにその通り。

その後のFマンガに繰り返し現れるモチーフがいくつも登場しているのも大きな特徴のひとつ。それをどれか一つ紹介しようと考えたのだが、以前シリーズで考察した藤子F「とりかえばや」物語の原点ともいえる作品があるので、こちらをメインに取り上げたいと思う。


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タイトルは『人体入れかえ機』。48ページという大ボリュームで発表された大作で、「てぶくろてっちゃん」全38話の中で最大の分量を誇る。おそらく48ページの企画が出てきたときに、大作に相応しい題材を考えた結果が、体が入れ替わるというアイディアであったと思われる。

本作の主人公の名はてっちゃん。ヒロイン(おともだち)がようこちゃん。二人でてぶくろをつけて、色々なものを作る、というのがメインストーリーとなる。

本作では冒頭からいきなり「体を入れかえる機械だよ」とてっちゃんが道具を取り出す。ライトが左右二方向に光る仕掛けで、光が当たった二つが入れ替わってしまう、というもの。

本作での入れ替わりのルールは、単純に形が取り替わるというもので、例えばネコと金魚を取り換えると、ネコの形をした金魚が泳ぎ、金魚の形をしたネコが歩き回る、というような感じである。

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さっそくてっちゃんは、ようこちゃんと自分に光を当てて、体を入れかえてしまう。男の子になって嫌がるようこちゃんを無視して、女の子の体で外へと出ていってしまうてっちゃん。入れ替わりモノ定番の騒動の始まりである。

野球をやろうとしている男の子たちに声をかけるてっちゃん(外見はようこ)だが、「女のくせに」と今では問題となるような発言で無視される。代わりにてっちゃんとなったようこが連れていかれ、てっちゃんはおまま事に誘われる。

てっちゃんは、「父さんだぞ酒を持ってこい」などと言って女の子たちにドン引きされる。一方のようこちゃんも、野球がさっぱりうまくいかず嫌になってしまう。男の子と女の子のカルチャーギャップを見せるお馴染みのギャグシークエンスだ。

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二人は元に戻って、これでお終いとなれば良かったのだが、てっちゃんは犬になりたいなどと言い出して、ようこちゃんの静止も聞かず犬と体を入れかえてしまう。しかもよせばいいのに、入れかえ機をようこちゃんに預けてしまう。

最初は、立って歩く犬、ということで珍しがられるが、四つん這いで歩くてっちゃん(実は犬)を見かけたパパが、飛んできて、犬となっているてっちゃんを気味が悪いと追い払い、てっちゃんとなった犬を連れていってしまう。

てっちゃんの姿をした犬は、顔を舐めてきたり、電柱でおしっこしたりするので、パパとママが心配して医者を呼ぶことに。

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犬となったてっちゃんは、ようこちゃんに人体入れかえ機を返してもらおうと歩き回るが、犬の飼い主に捕まって、犬小屋に繋がれてしまう。犬の名前はノロであることが判明。


てっちゃん姿の犬は、診察に来た医者の注射を嫌がり家から脱出。

犬のてっちゃんは、しばらくこのままでいるしかないと落ち込むが、そこに偶然ようこちゃんが通りがかる。

ようこ「あら、てっちゃん。ここで飼ってもらっての、良かったわね
てっちゃん「冗談言うな。縄を解いてくれ」

と、ようこちゃんの天然なのか意地悪なのか分からない発言には思わず笑ってしまう。

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ようこに連れられ、てっちゃんの自宅に戻るが、犬は既に脱走済み。そこで周囲を探すと、公園でパパと犬が追いかけ回っている。

そして狙いすませて入れかわり機のスイッチを押すが、犬となったてっちゃんの動きが早く、今度は犬とパパが入れ替わってしまう。ここで、犬姿のパパ、パパ姿のてっちゃん、てっちゃん姿の犬、という三角関係へとこんがらがる。

犬はどこかへ行ってしまい、また探すことに。

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パパの姿になったてっちゃんは、人の家の壁に落書きをしている子供を叱り、「大人になると面白いな」と、調子にのって、自分も落書きを始めてしまうのだが、「大人のくせに」と家主に怒られてしまう。大人になるのも楽ではない

犬になったパパは泣きっぱなしで、ようこちゃんに慰められりする。とそこに、寝転がっている犬のてっちゃんを発見。入れかわり機を使って、ようやく犬は元の体に戻り、パパはてっちゃんの姿となる。

最後は、パパとてっちゃんを入れかえれば全て元通りなのだが、パパとなったてっちゃんは、それを拒否。しばらくこのままで良いと言い出す。

そして、代わってほしかったら、お小遣いを値上げしてと申し出るのだが、今度はパパが拒否。明日から自分の代わりに会社に行きなさい、自分は遊んで暮らすから、と言って逃げていってしまうのであった。

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入れかわりのお話としては極めてシンプルだが、子供向けとしては結構複雑で奥深い。てっちゃんは、①ようこちゃん(女の子)、②犬、③パパ(大人)の姿に変身していく。

見た目が変わるだけだが、取りまく世界は一変する。「とりかえばや」の物語の魅力通り、もしも女の子になったら、犬になったら、大人になったら・・・という、子供の想像力を喚起させるお話となっている。


F先生がこの体を入れかえるテーマを気に入って、その後何度も登場させているのは以前の記事の通り。ご興味ある方は、下記の目次から飛んでもらえると幸いです。


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