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てっちゃん、ノラ人間になる。『動物たちの反乱』/動物たちの反乱②

前回の記事で、「パーマン」の中の異色作である『動物解放区』という作品を取り上げた。詳しくは下記を参照してもらいたいが、動物が人間に代わって支配者側に回ってしまう「猿の惑星」のような壮大なSFネタであった。

また、人間も動物も植物も地球人と考えた時に、人間だけが威張っていていいのかという主張が、本作の中に登場するが、これは後に絶滅動物を扱った話や、「ドラえもん」のキー坊のエピソードなどで、藤子作品に頻出するテーマの先駆けであった。


ところが、本作よりもさらに5年ほど前に、同様のテーマで描いている作品がある。それが「てぶくろてっちゃん」という小学生向けの「ドラえもん」や「キテレツ大百科」の原点と言えるような作品の中の一遍である。

「てぶくろてっちゃん」は、今読み直すと、後の藤子ワールドで頻繁に描かれるテーマが数多く登場する。藤子Fノートでは、過去も一度「てぶくろてっちゃん」を取り上げた記事があるが、これは人と人、人と動物が入れ替わるという、藤子先生大好物の入れ替わりネタを扱った作品である。


「てぶくろてっちゃん」『動物たちの反乱』
「たのしい三年生」1962年12月号/大全集2巻

それでは本作の中身を簡単に見ていこう。前回記事にした『動物解放区』とかなり似た展開が見られるので、その点にご注目。


まずは「てぶくろてっちゃん」の概略のおさらいから。

本作は講談社の小学生向け雑誌「たのしい一年生」~「たのしい三年生」にて学年繰り上がり方式で連載された作品。不思議な道具を作ることのできるてぶくろをしたてっちゃん(てつお)と、女の子の友だちようこちゃんが、作った道具でひと騒動を起こしていくお話である。

不思議な道具きっかけでお話が転がっていく部分が、その後の「ドラえもん」に通じるということで、藤子児童漫画の原点と言われることもある。


本作は冒頭から、てっちゃんが「動物の脳みそを人間並みにする」薬を作り出し、色々な動物にかけて試してみる。

最初はネズミ、次に野良犬。賢くなったイヌに「いいお天気だね」と話しかけると、「さよう、冬型の気圧配置だね」といきなりてっちゃんを上回る知識を披露する。

イヌは空腹だということで、「食べ物をくれたまえ」とお願いされるのだが、残りご飯を持ってくると、「残飯は衛生に悪いよ」と人間同等の対応を求めてくる。

イヌは自分で料理を始めたり、てっちゃんの日記を勝手に読んだり、タバコをふかして新聞を広げ、パパの着物を着てTVを見たりする。(見ているTV番組は「名犬アホラシー」)

そんなイヌを見たパパは、「出て行け」と激怒し、家から追い出してしまう。「人権蹂躙だ」と偏差値の高い腹を立て方をするノラ犬。


その夜。頭が良くなったイヌとネズミのコンビで、人間への不満をぶちまける。ここが、いかにも藤子っぽい部分である。

「人間ばかりうちの中に住んで、おいしいものを食べて、われわれ動物を、ばかにしとる」

そして「何とか敵を討ちたい」ということになり、てっちゃんが作ったクスリを盗み出して、これを町中の動物たちにかけてやろうと画策する。このあたりの流れは、まるっと「パーマン」『動物解放区』に引き継がれている。


翌朝。てっちゃんが起きると、既に学校に遅刻してしまう時間。何で起こさなかったのかと怒って居間に行くと、ネコとブタとウマの3人(3匹?)が、食卓を囲んでいる。そして、「今日からこの家はわしらのものになった」とてっちゃんに伝える。

そんなバカな、と驚くてっちゃん。そこでネコがTVをつけると、昨日のノラ犬が映し出され、演説をぶっている。

「わしは新しい総理大臣である。動物の皆さん、ついにわれわれの天下がきたのだ。今こそ憎い人間どもを追い払って・・・」

ちなみに『動物解放区』では、演説していたのはニワトリの大統領だった。


てっちゃんはパパとママの姿がないことに気がつく。「どこへ隠したんだ」と動物たちに叫ぶと、「黙れ」と逆上される。

すぐに110番をして警察を呼ぶのだが、姿を現わしたのはゴリラの警官。そして逆にてっちゃんが捕まってしまう。このあたりも『動物解放区』とよく似ている。

牢に閉じ込められたてっちゃんだったが、すぐに出されてイヌの総理大臣の元へと連れて行かれる。そこで、イヌからてっちゃんのクスリをカラスに頼んで空からばら撒いたのだと聞かされる。そして、人間たちはある所へと閉じ込めたとも。

「なぜ自分は閉じ込められなかったのか」と聞くと、「クスリを作ってくれた恩人だから」という。「大人しくしてれば可愛がってやるぜ」と、ペット扱いしてくるのだが、てっちゃんは「お断りだい」と一人出ていく。


さて、町はすっかり動物たちに支配されている。てっちゃんはノラ人間扱いされて、居場所がない。そこで考えたのは、賢くなるクスリを効かなくするクスリを作ればいいのでは、ということ。この展開も完全に『動物解放区』へと引き継がれている。


そしてここからは急展開。クスリはたった一コマで完成し、空から散布するための飛行機も一コマで作り上げる。ゴリラ警官とカラスの見回り隊に見つかってしまうが、クスリを掛けると、元の動物へと戻ってしまう。

そして、町中にクスリをばら撒いて、町の動物たちは四足歩行の姿に元通り。猛獣たちは動物園に帰すのだが、動物園の檻の中に人間たちが閉じ込められている。この部分も『動物解放区』と一緒であった。


改めて読み直すと、本作と「パーマン」の『動物解放区』は、かなり似通っている。ざっと抜粋すると・・

・賢くなるクスリで動物が賢くなる
・動物たちは人間たちに不満を抱いており、立場が取って代わられる
・動物の総理大臣・大統領がスピーチを行う
・元に戻るクスリを使って対抗する
・主人公が目覚めると、家族が消えて代わりに動物一家が住み着いている
・警官に助けを呼ぶとゴリラ
・人間は動物園の檻に閉じ込められている
・・・

まるで同じお話なのである。

気に入ったモチーフは、また別の作品でも何度も使っていくのが藤子F流。『動物たちの反乱』→『動物解放区』と読んでいくと、藤子先生の創作パターンが読み解けて、かなり楽しいので、是非皆さまもお試し下さい。



様々な切り口で藤子作品を紹介しています。


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