見出し画像

なぜ人間だけ威張っているのか! パーマン『動物解放区』/動物たちの反乱①

「猿の惑星」という映画がある。幾度かリメイクされているので、ほぼ全年代の方が知っているタイトルだとは思うが、第一作を劇場で見た世代にとっては、オールタイムベスト級の衝撃を受けたという人も少なくない。

「猿の惑星」一作目は、1968年4月に全世界公開された。衝撃的なラストという看板を引っ提げて登場したSFアクション大作で、映画を見慣れていた人でもラストでは度肝を抜かれたとされる。

この文章を読んでいるような人は「猿の惑星」についてはよくご存じだろうからネタバレOKで書いてしまうが、本作のラストで、地球から遠く離れた猿が支配する星にたどり着いたと思っていた主人公が、実はこの星は進化した猿に人類が乗っ取られた未来の地球であることを知ることが衝撃的であった。

支配する者と支配される者の倒錯が、本作衝撃の核心であり、そうした価値観逆転が、SFファンならずとも興奮をさせたのである。


藤子先生も当然本作の衝撃を受けたど真ん中の世代となる。その衝撃からSF短編の傑作『ミノタウロスの皿』を描いたのではないか、といった記事を書いているので、もしよろしければご一読下さい。


さて、本稿で取り上げるのは、そんな「猿の惑星」が来日する数カ月前に発表された作品で、今読むと「猿の惑星」を先取りしたかのような、支配者と被支配者の関係をテーマとしている。

気楽な作品の多い「パーマン」の一遍ではあるのだが、笑いの中にも怖さが混在する、妙に後味の残るお話となっている。


「パーマン」『動物解放区』
「小学四年生」1968年1月号/大全集4巻

パーマンとブービーが夜の見回りをしていると、一人の長身の男性に話しかけられる。要件を聞くと、犬山さんという家を探しているという。パーマンが知らないと答えると、「道を忘れちゃったんですよ」と去っていく。

・・・その男性かと思った人物は、なんと顔が犬! 犬が犬山家を探しているのである。パーマンが後を追うのだが見失ってしまう。そこへちょうど歩いて来た人に「この辺をイヌの人が通らなかったか」と尋ねると、「ばかな!」と強く否定する。

パーマンたちが去った後、この男が正体を現すのだが、何とその姿はウマ人間。そして気になることを言う。

「ボケの間抜け野郎。人間に顔を見せるとは! 計画がバレたらどうする」

ウマ人間の言う「計画」とは何なのか? いきなり謎めいたスタートで、読者のワクワク必至である。


妙な出来事はさらに続く。帰宅したパーマンがマスクを脱いでみつ夫に戻ると、「パーマンの正体見いちゃった」と天井から声が聞こえてくる。慌てて「誰だっ」と天井にはね飛ぶと、ネズミが一匹「見いちゃった見いちゃった」と走っていく。

「なんだネズミか」と安堵するみつ夫。確かに人間にパーマンの正体が見られたらまずいのだが、安心はできように思われるが・・・。案の定、後になって布団に入った後で、ネズミが喋ったという異常事態に気がついて、怖くなってしまう。


みつ夫は家族に邪魔されないように押し入れの中で寝ていたのだが、起きてみると既に午後二時。いくら日曜日でも、ここまで起こしてくれないとは酷いと、一階に降りていく。

すると食卓では、イヌの夫婦と子供のネコという3人(匹?)で、ご飯を食べている。「この漬物なかなかうまいよ」などと、昔からこの家で住んでいたようなやりとりをしている。

みつ夫は目が覚めていないと思い込み、もう一回布団に入る。そしてまた寝る。どんだけ寝るんだろうと思っていると、今度こそ目が覚めたと言って起き上がる。

ところが居間に行くと、先ほどの三人(匹?)が談笑しながらテレビを見ている。(画面には砂糖首相訪米の文字・・)。どうも、おかしい・・・と目の前の光景を受け入れられないみつ夫。


不可思議な出来事が徐々に積み重なっていく流れが、ミステリアスで、かなり引き込まれる。

みつ夫は、風に当たってこようと外へ出ると、町はひっそりとしている。やはり様子がおかしい。するとサブとカバ夫が道で四つん這いになっている。そして「ウーワンワン」と吠えたててくる。

さらに、ウシ人間とブタ人間が現われ、「のら人間がいた、収容所へ連れていこう」と言って、カバ夫たちの首ををロープで結えて引っ張っていく。

どうやらみつ夫は、いつの間にか人が動物となり、動物が人となった世界に迷い込んだようである。価値観がガラガラと崩れる音がする・・。


みつ夫もウシ人間とブタ人間に追いかけられ、パーマンになって対抗しようとするが、マスクとマントが無くなっている。お巡りさんの姿が見えたので、ヘルプを求めると、ところがそれはゴリラ人間であった。

みつ夫は、方々から集まってくる動物人間たちに追われるのだが、何とかドブから地下用水路へと潜り込んで、難を逃れる。動物たちは町の人間を捕まえて檻に閉じ込め、駅と街道に非常線を張り、他の町との連絡を絶つ作戦らしい。


町中が動物たちに占領されてしまうという、「パーマン」らしからぬ本格SFの世界観になってくる。

みつ夫はマスクとマントは昨晩のネズミに取られたのではと思い、家へこっそり戻るのだが、ゾウ人間に捕まってしまう。ゾウ人間は、ニワトリの大統領の元へとみつ夫を連れて行く。

ニワトリ大統領は、かなり過激なスピーチをして、動物たちをまとめ上げている。ここを抜粋しておこう。

「地球上には人間よりはるかに多くの動物が住んでおる。それなのになぜ人間だけ、あんなに威張っているのか!動物をいじめるのか。われわれはついにトサカにきたのである!!」

さらに続けて

「世界中の人間どもをぶっ殺せ。地球を我ら動物たちの手にとり返せ!!」

と、子供の読者もビビる、かなりのアジりかたなのである。

ここでの動物の主張は、かなり過激でセンセーショナルにしてあるが、藤子作品では、こうした動物側・自然側から見た人間への怒りを表現するお話は結構多く見られる。半分本音と言っても良いかも知れない・・。


みつ夫は犬山博士と一緒に閉じ込められることに。この犬山博士こそが、今回の事件の発端であった。博士は語り出す。

・頭の良くなる薬を発明し、ニワトリで実験した
・効き目がありすぎて悪賢くなった
・こっそり薬を持ち出し、イヌやネコや動物園のけものたちまで利口にした
・夕べ博士の知らない間に集まり、計画を練り、夜明けに突然人間たちを襲った

人間たちは、動物が急に立ち上がって口を聞いたことで、ビックリしてしまったらしい。皆、気付いた時には動物園の檻の中に閉じ込められてしまった。

この話を聞いて、カバ夫とサブはショックのあまりにおかしくなったのだとみつ夫は思う。


さて、この事態を打破するため、博士は頭の悪くなる薬を作ろうと画策する。動物たちにはもっと頭の良くなる薬を作れと言われているので、これを逆用しようというのだ。

しかしこの目論見も、こっそりネズミに聞かれてしまい、ニワトリ大統領にチクられてしまう。ニワトリは「ケシカラン、死刑にしろ!!」と配下に指示を出し、犬山博士とみつ夫は銃で狙われてしまう。


絶体絶命のピンチ。それはまるで、「ドラえもん」の大長編のようである。しかし銃口を向けた動物たちの様子がおかしくなる。フラフラクラクラしだして、元の動物の姿に戻っていく。

動物たちは、互いに追いかけまわったりと、大騒ぎ。どうやら、夕べの薬の効き目が一斉に消えたようである。この薬の効き目が切れて助かるという展開は、その後の『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』でのスモールライトの効果が切れて助かった流れと同じである。


ということで、猛獣は元の檻へ、人間は檻から外へと出して、一件落着。このことをブービーとパー子に話すと、ブービーに「キーキー(頭の良くなる薬をみつ夫が飲めばよかった)」と小バカにされる。

ラストは、ゴリラそっくりの人間を見つけて、ゴリラ呼ばわりし怒られるというオチにて終了となる。


繰り返しになるが、本作は「猿の惑星」にも似た、動物と人間の支配関係が入れ替わるちょっとしたSF作品となっている。

冒頭からどんなお話になっていくんだろうというスケール感、ワクワク感があり、途中では動物に殺されそうになるなど、わりとシリアスな展開も挟まれる。かなり密度の濃いエンタメ作品と言えるのではないだろうか。


さて、次回では、本作の元ネタともなりそうなお話をチョイスしてみよう。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?