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珍しいハッピーエンドな宝探し「オバQ」『為左衛門の秘宝』/藤子Fの宝探し④

「宝探しごっこ」は、古今東西、子供たちが大好きな遊びの一つであることは間違いないだろう。子供に限らず、大人だって宝を求めて宝くじを買ったりしているので、老若男女問わず宝探しに興味関心があるのかもしれない。

いずれにせよ、宝探しが好きな子供たちは、宝探しの物語も大好物だと思われる。

そして、子供たちの喜ぶお話を描かせたら右に出るものがいない藤子F先生も、色々な作品で、色々な切り口を使って「宝さがし」の物語を紡いでいる。


これまで、「藤子Fの宝探し」と題して、宝探しがテーマとなっている「ドラえもん」2作(+1)と「てぶくろてっちゃん」1作を紹介してきたが、本稿では「オバケのQ太郎」から一作選んでお届けしたい。

これまでのシリーズ記事は以下。


「オバケのQ太郎」『為左衛門の秘宝』
「別冊少年サンデー」1965年1月号/大全集2巻

子供たちにとってのお宝と言えば、真っ先に思い浮かぶのは「お年玉」である。僕も小学生の頃の日記を見つけて読んだ時に、貰ったお年玉の金額が書いてあって、さぞかし子供の僕は喜んでいたんだろうな、と思ったものだった。

藤子作品に登場する少年たちは、基本的に少ないお小遣いで苦労していることが多いが、その分「お年玉」にかける情熱をたぎらせている。

貰った金額に一喜一憂し、高額のお年玉をくれる親戚は神さまみたいに見える。逆にお年玉をくれない親戚に対しては、常に不満いっぱいだ。


本作でも、正ちゃんが集めたお年玉の金額を計算して、予定よりだいぶ足りないと不満を述べる場面から始まる。藤子作品で頻出のお正月シーンである。

するとQちゃんが、まだお年玉を貰っていない金尾町の為三おじさんの所へ行こうと言い出す。為三おじさんは有名なけちん坊で当てにはできないが、行くだけ行ってみようということになる。

ところが、為三おじさんは、想像以上のけちん坊、いや、倹約家で、家には暖房の類いはなく、お餅を焼くにも電灯の熱を使うので三日ほどかかるという。直接的にお年玉もねだっても、まるで無視。

これ以上長居は無用と言うことで帰ろうとすると、急に「お年玉をやろう」と二人を呼び止める。しかもその金額は、一億円! 腰を抜かす正ちゃんに、為三が出してきたのは、時価一億円の小判を埋めた宝の地図である。


為三曰く、今から150年前のご先祖、為左衛門が埋めた小判であると言う。いかにも胡散臭い話ではあるが、正ちゃんQちゃんは大乗り気。すぐ掘りに行こうと言って飛び出して行く。

この話を陰で聞いていたのが、為三の息子タメ吉。父親になぜ大事な地図をやったのか問い質すと、為三は「為左衛門は変人で、あれは出鱈目な地図だ」と説明する。しかしタメ吉は、万が一があるのではと思い、正ちゃんたちの後をつけていく。


巻物には昔の言葉が書き連ねてあって、正ちゃんたちには良く読めない。そこで先生の家を訪ねて解読してもらうことにする。

先生によると、宝は二子山の千年杉の根本に埋めた、二子山は相模国本古津(ポンコツ)村にある、という。丁寧に今の地図と照合してくれるのだが、その部分をQちゃんが破って、「小判掘ったら返します」と言って、去っていく。


場所も分かったので、いよいよ宝探しに出発。ところが、スコップを取りに家に帰る途中に、タメ吉が宝の地図を横取りしてしまう。Qちゃんが機転を利かせて奪い返すものの、タメ吉も地図を覚えてしまったことで、この後の宝探し競争のライバルとなる。

別の作品でも書いたが、宝探しの冒険には「宝の地図」と「トレジャハンターのライバル」が必要不可欠なのである。


相模国・本古津村に到着したQちゃんと正ちゃん。地元の子供に二子山や千年杉の場所を尋ねると、聞いたことがないという反応。宝の地図は150年前(本作の設定では1815年頃=江戸後期)のものなので、山はともかく「千年杉」がまだ残っているとは考えづらい。

そういうことで、地元の農家の105歳の爺様にお話を聞くことに。すると千年杉は爺様の子供の頃に切り倒されているが、場所は覚えているという。

105歳の牛歩のような案内についてのんびり歩いて行くと、二子山があった場所は現在団地が造成されており、千年杉は団地の四号と五号の間に生えていたと教わる。これで、あとは掘るだけ。


しかし、千年杉が生えていた場所に行ってみると、先に地面を掘っている人たちがいる。クレームを入れると、男たちは水道工事のために掘っているのだという。

そこで、代わりに掘りますと申し出て、工事の人を休憩させ、その間に掘り当てようと考える。一方、正ちゃんたちが掘り出したのを草陰から見ていたタメ吉は、先に掘られては困るということで、一計を案じることに。

それは、白い袋を被ってQちゃんのフリをして、こっそり正ちゃんだけに「家が火事だって」とウソをつく作戦。見事に引っ掛かった正ちゃんが、家へ走り出すのだが、Qちゃんが後を追ってきて、「どうしたんだ?」と尋ねたので、そこで騙されたと気がつく。


戻ってみると、タメ吉が一生懸命に掘っていたのだが、水道管を破ってしまい、水浸しになっている。工事の人たちも戻ってきて、「とんでもないことしたな」とカンカン。すかさず逃げ出す、正ちゃんたち。

「もうあそこへは戻れない」と落胆していると、先ほどの105歳の爺様の息子が走ってきて、さっき話した山は「らくだ山」で、二子山は反対方向にあるという。千年杉の位置もしっかりと教えてもらい、宝探しの再出発となる。


これもまた木陰でこっそり聞いていたタメ吉が、先回りしようと走り出す。すると、見るからにヤバそうな犬がいて、犬嫌いのオバQ対策に使おうと考える。

千年杉の生えていた場所に後からやってきたQちゃんに、「大人しく帰らないと犬をけしかけるぞ」と脅すタメ吉。ところが、その犬は「狂犬」で、急に騒ぎ始めて、タメ吉をすごい勢いで追いかけていく。

ちなみに「狂犬」とは、狂犬病に掛かって、やたらと噛みついてくる犬のこと。狂犬病は恐ろしい病気で、狂犬病の犬に噛まれるなどして人間にも罹ると、致死率は100%に近いと言われている。

日本では1950年に「狂犬病予防法」が施行され、1956年には狂犬病は国内では撲滅したとされる。本作は1965年の作品なので、既に撲滅されている状況であり、安心して(?)ギャグとして使ったものと思われる。


狂犬に追われていくタメ吉を見て、さすがに可哀想ということで、正ちゃんは保健所へ電話をしに行く。Qちゃんは残り、お宝を掘ることに。

すると、このあたりかな、という場所で、二人の侍(!)が穴を掘っており、千万両のツボを掘り出してしまう。Qちゃんが「それ僕のだぞ」と飛び出して行くと、なんとそれは映画の撮影であった。

ちなみに「映画の撮影で小判を掘る」というアイディアは、後に「ドラえもん」の『宝さがし』というお話にも使われている。


どうやら、宝の地図は出鱈目だったよう。ところが電話から戻ってきた正ちゃんはまだ諦めきれず、無我夢中でそのあたりを掘り出す。しかし、今度もまた水道管を破ってしまったらしく、大量の水が噴き出してくる。

またやってしまったということで、逃げ帰る。家に戻り、水道管破りの罪で捕まえにくるかも・・・とビビる二人だったが、そこへ「ごめん」と誰かが訪ねてくる。「そら来た!」と飛び上がる正ちゃん。


ところが、訪ねてきた男性は、思いもよらないことを言い出す。

「このスコップを忘れたのは君たちかね。わしゃ、地主だ。温泉を掘り当ててくれてありがとう。これはほんのお礼です」

目の前に置かれた札束は、3つ。1億とは言わないが、100万くらいはあるのではないだろうか・・。

正ちゃんたちが水道管を破ったと思っていたのは勘違いで、温泉を掘り当てたというのである。そんなに浅く掘っただけお湯が出てくるものなのか不明だが、まあ、良かった。


実は藤子作品の宝探しは、ほとんど良い結果を得られないパターンばかりなのだが、本作は一発逆転、ハッピーエンドと言える作品に仕上がっている。

また、本作は「お年玉」の話題から始まって「宝探し」に発展していったお話だが、似たようなパターンの作品も存在する。

「オバQ」で言えば、『もらえないお年玉』(1966年)、「ドラえもん」でも『のび左エ門の秘宝』というお話がある。繰り返すが、子供たちによってのお宝は、何と言ってもお年玉なのである。


「オバQ」のことも語っております。


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