【検証】ばあちゃんが大好きな焼きいも、ふかしいも
あなたは、おいしい!!と感じた食物・瞬間を思い出せますか?
職場で聞いてみました。
・新婚旅行時に北海道で食べた、イカそうめん
・大学生のときよく行っていた、王子公園駅の近くの王子飯店の肉飯
・こどもと釣った小鯖をさばいて、竜田揚げにしてビールのあてにして食べた時
・ヨーロッパ旅行中、お出汁が恋しくなった時にベトナム料理店で食べたフォー
非日常な食体験を思い浮かべた人が多かったです。
認知症でわたしの名前を忘れてしまった祖母(88歳)にも聞いてみました。
「ふかしいもかなあ。さつまいものツルも茹でて食べたら甘くておいしいの。」
どうやら、幼少期のことを思い出して答えてくれたようです。
(数年前にわたしの初任給で、ばあちゃんにおいしい懐石料理をごちそうしたけど、もう覚えてないよな…。)
心の中で少し切ない気持ちになりましたが、
「きっと、ばあちゃんには、ばあちゃんなりの“おいしい”があるんや。」と自分を納得させます。
みなさんから出てきた、思い思いの“おいしい”。
うーん・・・・
おいしいと思う瞬間、わたしたちには何が起こっているの?
申し遅れました、食べることが大好きなシャープ社員のサッサンです。
「おいしい!」に対するギモンが解消されるWebinarに参加したので、内容の一部をこちらにまとめようと思います。
講師は東洋大学 食環境科学科 准教授/博士の露久保美夏先生。
テーマは
おいしい! 楽しい! ヘルシー!「“おいしい”を科学する」。
祖母がなぜ約80年も前に食べたふかし芋を“おいしい!”食物として答えたのか、
その秘密が少し解明できるかもしれないと期待し、参加しました。
このnoteは
前半:露久保先生のセミナー内容(ダイジェスト版)
後半:5種類の芋で焼きいもを作って、祖母の“おいしい”を検証してみた
でお送りします。
まずは、露久保先生のセミナー内容です。
おいしさの構成要素
露久保先生によると、おいしさの構成要素は大きく3つ。
・食物の特性
・人の特性
・環境要因
セミナー内で出た具体例などを出しながら、
おいしさの構成要素3つについて、ご説明していきます。
①人の特性
ここでは、ある人の高校時代の思い出を例にご説明します。
ある日の部活終わりのこと。
お腹がペコペコの状態でいつもであれば、何を食べてもおいしい!と感じてしまいそうな空腹レベルです。
ファミリーレストランで、いつも頼む大好きなペペロンチーノを注文して上機嫌♪
しかし、商品が無事運ばれてきて気付いてしまったのです。
目の前に座っているのは、つい最近お付き合いが始まったばかりの彼女さん。
なんなら、この日は部活終わりの初デート。
にんにくのにおいが不安になって、大好きなペペロンチーノの味がわからなくなってしまいました。
食後のデザートに甘いパフェを食べて、なんとかにおいを緩和させようとしたけれど、
パフェの味もよくわからない。
空腹(生理的特性)で、いつもならとってもおいしい食物のはずが、
緊張・不安(心理的特性)で、味がわからなくなってしまった。
これは“おいしさ”の構成要素のひとつ、「人の特性」の一例です。
それぞれの人がもつ特性によって、わたしたちの感じる“おいしさ”が変わります。
②環境要因
露久保先生によるとこんなことがあったそうです。
とある老舗の鰻屋さんがお店を改装してリニューアルオープン!
以前から大人気で、常連さんも多かったお店。
リニューアル後に複数の常連さんから言われたある言葉に悩まされることとなります。
「以前と鰻の味が変わってしまっている。前のほうが良かった。」
お店の人はビックリ。秘伝のタレは何も変わっていないし、焼き方も全く同じ。
ではなぜ、そう言われてしまったのか?
原因と思われる変化を探してみると、「換気」にあったそうです。
改装前は炭火焼をした時に出る鰻やタレの香りがお店の中に充満していたのが、
改装後は換気の機能が増したことで改善されていました。
「食事環境」が変わったことによって、
入店時や食べている時に香ばしい香りを感じにくくなってしまい、
お客さんが今まで感じていた“おいしさ”から少し離れてしまったことで
評価が変わってしまったと推測されたのでした。
これらは“おいしさ”の構成要素のひとつ、「環境要因」の一例です。
食べる環境によっても、わたしたちの感じる“おいしさ”が変わります。
③食物の特性
まずは、化学的特性である、 “味”。
これは口腔内に広く分布する味蕾によって感じています。
また、味には「基本五味」と呼ばれるものがあります。
今回注目したいのは、それらが体にとってどういった意味があるのか?ということです。
【甘味】
体にとっては、エネルギー源。
さらに、甘いものを食べると脳の中で快楽物質が出てくるので
ストレスがかかったときに甘いものを求めるというのは理にかなっているそうです。
【塩味】
体にとっては、体液バランスの調整に必要なミネラルの供給。
ただし、強すぎる塩味は健康を害することに繋がりかねないので
“適度”に摂取することが大切だそうです。
【うま味】
体にとっては、生物に不可欠なアミノ酸、核酸の供給。
【酸味】
体にとっては、新陳代謝の促進や腐敗のシグナル。
長い期間保存・放置してしまった食物があるとき、あなたならどうしますか?
腐っていないか心配になると、まずは見た目の確認をする方が多いはず。
その次に…においの確認をしませんか?
酸っぱいにおいがしてきたら、「ちょっとやめておいた方が良いかも」と
腐敗の判断をするひとつのシグナルとして使っている方もいるのではないかと思います。
すべての酸っぱいにおいが腐敗したことを示すわけではありませんが、
わたしたちの日常でも食物の特性を理解し、何気なく生活に活かしていることがあるそうです。
【苦味】
体にとっては、毒を含んでいるものの警告。
腐敗のシグナルである酸味、毒物の警告をする苦味は体が本能的に拒否をする反応を示すので、幼いこどもが苦手とする傾向がみられるのは、ごく自然な反応とのこと。
自分自身が安全・健康に生きていたいと思うからこその、生物として生きる意欲の現れなんだとか。
そこから様々な食経験を積むことで、色んな味を受け止められるようになっていくので
苦いもの、酸っぱいものでも食べられるようになるそうです。
さらに、 “におい”の情報も感じ方に大きな影響を与えるそうです。
においの情報が伝達される脳の場所は、記憶や感情をつかさどる海馬や扁桃体などに直結するところにたどり着くとのこと。
そのため、記憶や思い出、喜怒哀楽といった感情を呼び起こすことも多々あるそうです。
みなさんは漂ってきたにおいで、特定の誰かを思い出した!なんて経験はないでしょうか。
ちなみに、食物に関係する香りは、色んなタイプがあるそうです。
食品そのものがもつ香りや、調理などをした時に漂う香り、熟成させた時に出る香りなど、様々な香りがわたしたちの“おいしい”を構成しているのです。
さらに、物理的特性で“テクスチャー”の影響もあります。
テクスチャーは、口の中の食感をイメージすると良いそうです。
総合的なおいしさの判断をする際に、食物によってテクスチャーが重視されるものと、味が重視されるものがあります。
以上が露久保先生のセミナー内容(ダイジェスト版)です。
身近な“おいしい!”を検証してみた
ここからは、露久保先生のセミナー内容を踏まえて、 “おいしい”を検証してみた結果です。
後ほど個性があるさつまいもが5種類登場します。
まずは、祖母がおいしいと言った約80年前に食べた“ふかし芋”の食物の特性・人の特性・環境要因について考えてみました。
認知症の症状には波があり、祖母から得られる情報は限られていたため
母にも聞き、わかる限りの情報をまとめました。
家族6人(4人きょうだい)で、東京に住んでいてそれなりに良い暮らしができていた。
しかし、戦争が始まり、子どもたちだけで熊本に疎開することになり状況が一変したそうです。
食物も豊かにある状況ではなかった中で、唯一と言っていいほどの楽しみだったのが、甘いおやつを食べる時間だったとのこと。
“ふかし芋”がおいしいものとして記憶に残っているのは、単に「甘くておいしい」だけではなく、そういった「人の特性」や「環境要因」が大きな影響を与えていたのだとわかってきました。
しかし、わたしは約80年前を知りません。
知る限りの要素を文字で入れてみたものの、わかるようで、わかりません。
ばあちゃんの食べたふかし芋はどんなテクスチャーだったの?
ばあちゃんいわく「甘い」けど、もし今わたしが食べても「甘い」と感じるくらい甘かった?
戦時中ってどんな環境だったの?
今読んでくださっているかたでも、想像できるかたのほうが少ないのではないかと思います。
思い出のふかし芋は、当時、疎開先という特殊な場所・過酷な環境下で食べたもの。
あの頃とまったく同じ“おいしい”は二度と再現はできないかもしれない。
でも、令和のこの時代に生きる ばあちゃんの“おいしさの構成要素”はきっと、見つけられるはず。
「ばあちゃん、最近は焼きいもが好きやで」
母の助言とわたし自身の興味もあったことから、今回は焼きいもで検証することにしました。
家で使っているトースター「ヘルシオグリエ(AX-GR1)」で焼きました。
メニュー集を参考に「強」で挑みます。
同時に食べ比べをしたいので、一度で5種類全てを焼きました。
※直径5cm以下のもの・さつまいも1~2本ではないので、推奨とは少し異なる作り方をしています。
設定できる加熱時間は最大15分。15分ごとにいもに爪楊枝を刺し、固さチェックをしました。
丸っぽい2種類(安納いも・マロンゴールド)は火が通りにくくなかなか柔らかくなりませんでした。
また、今回は、全種類とも15分×3回で計45分加熱しました。
焼き始めてから25分後にやっと、皮が焼けた香ばしいにおいと芋の甘い蜜の香りが入り混じった“焼きいものおいしいにおい”が漂ってきました。
それぞれの焼き上がりはこんな感じです。
【反省点】
安納いも、マロンゴールドは中央付近がまだ少し硬かった
→もう少し焼き時間を取った方が良かった
今回は特に、「食物の特性」について考えます。
“味”と“テクスチャー”について主観でまとめてみました。
わたしや母が食べておいしい!と感じたのは「マロンゴールド」。
最もねっとり感があり、くちどけが好みでした。
また、ねっとりしているぶん甘みが口の中に余韻を残す感じがして、おいしい!と感じました。
ばあちゃんはどれをおいしいって言うんだろう?
祖母は、にんまりしながら「なると金時」をむしゃむしゃとおかわりしていました。
食感はどう?味は?と理由を聞いてみたものの、詳細は分からず。
ただ、「これがおいしい」という言葉は聞けました。
「なると金時」が好きなことから、令和の時代を生きる祖母が好きな「食物(焼きいも)の特性」は
自然なあっさりとした甘みと、ほっくりとした特性であることがわかりました。
好きな味とテクスチャーの傾向はなんとなくわかったので、今回はよしとします。
ちなみに、公式レシピを無視してアホほど時間をかけて作ってみてもおいしいようなので、
次はこちらのパターンも検証あるのみ。
今後ヘルシオグリエで焼きいもを作る予定があるかたはご参考までに。
また、ウォーターオーブン「ヘルシオ」でもおいしく作ることができるので
お持ちのかたはCOCORO KITCHENにて是非検索してみてください。
もちろん、今回検証した「食物の特性」に加えて、「人の特性」「環境要因」もおいしさに大きな影響を与えます。
祖母は歯がほとんどないけど、入れ歯はもう今となってはしていなくて…
とか
四世代が祖母の家に集まってご飯を食べるときは笑顔が増えるんです
など
構成要素に関わる色んなエピソードがあるのですがここでは割愛させていただきます。
セミナー・祖母から学んだこと
同じ食物だったとしても、その瞬間の人の特性や環境要因によっておいしさの感じ方は変わる。
そのため、おいしい!と思えることはとっても、尊くて
同じおいしさは二度と味わうことができない(かもしれない)。
わたしの名前は忘れてしまった祖母ですが、
わたしが孫である、ということはまだギリギリ認知してくれています。
食卓を囲んで“家族と一緒に食べている”とお互いに感じられること、
一緒に同じ料理を食べて「おいしいね」という会話ができること、
そんな当たり前にも思える瞬間にこそ、幸せがあるのかなと思います。
一緒に食べてくれる人、食事をしている空間、健康状態が良好なこと…
“当たり前”と思ってしまいがちなことの1つ1つの要素が、おいしさに繋がっているのです。
おいしい!の構成要素を深掘ると、小さな幸せに気付くことができました。
ふだん食事をする時は「食物の特性」に目がいきがちですが、
時には「人の特性」や「環境要因」にも目を向けて、
おいしい!をつくる様々な要素に気付き、感謝を伝えることができる人でありたいと思います。
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