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クラムボン 2021“爽秋編”@名古屋CLUB QUATRRO

9月の終わりに愛知に引っ越してから初めてのライブ。せっかく名古屋に来たのだから東名阪ツアーを開幕に選びたかった。クラムボン、2年ぶりのワンマンツアーで2年ぶりの名古屋ライブ。近作から「蒼海」と「タイムライン」という、じっくりと聴かせる2曲から始まるあたり、結成26年目の威厳を感じる。そこから「サラウンド」でぱっと光景が開けるあの感じ、メンバー紹介を交えながら軽快に調子を掴んでいく「シカゴ」の高揚感と鉄壁の運びですっかり空気を温めてしまった。普段は止まらない歓声やシンガロングでお馴染みのバンドゆえ、声のない空間はメンバーに新鮮だったはず。しかしその状況を逆手に取り、メンバーが今演りたい曲と思い思いの盛り上がりができる曲を流れを含めて自由な発想でセトリになったと最初のMCで伝えられた。

堅いビートでチルを生む「夜見人知らず」、原田郁子(Vo/Pf)が穏やかに語りかける「便箋歌」と全く異なる質感の2曲を並べ、そこに名カバー「波よせて」で更なる一体感。思わず声が出かかるくらいに一緒に歌いたい1曲だが、そんなコーラスパートが来る度にメンバーが「わかるわかる!」ってな顔でこちらに微笑みかけるものだからグッときた。声が出せないからこそ生まれる交感というのが確かにあると実感できる。こういう時間もいつか懐かしく思えてくるのだろうな。そんな風に思っていると、ミト(Ba)が語るには「いわくつきの1曲」を演るのだという。それはクラムボンが初ライブで披露した未発表曲「眩い」。楽曲自体はかなり荒削りで、テンポの切り替えや歌割もかなりアバンギャルドかつアングラな仕上がり。貴重すぎる1曲だった。

郁子さんのMCがトガリすぎていたことや、郁子さんがパフォーマンスとして曲間に宮沢賢治「やまなし」の朗読をしていたことや、ミトさんがSUPER BUTTER DOGのカバーを熱唱していたことなど、本人たちにとっては気恥ずかしすぎるだろうがあまりにも面白い話が飛び出し続けた後、メジャーデビュー曲「はなれ ばなれ」がプレイ。「眩い」からどんな経路でここに辿り着いたのか、と思うようなポップさに安心する。そう、このライブは爽秋編であり、総集編でもあるのだろう。誰も知らないクラムボンから、皆が歌えるクラムボンまでを網羅した久々のワンマンツアーだ。「GOOD TIME MUSIC」の陽気さも「yet」のシリアスさも全てまるっと今のクラムボンのモードとして届く。この多彩さを考えれば「眩い」も一側面だったことが納得できる。

「東京パラリンピック2020」の開会式で聖火点灯時の楽曲として流れた「KANADE Dance」も披露されたが、この曲の浄化作用は凄まじいと思った。どんな場所に持っていかれても決して壊せない結界が貼られている。来るべき時に、あのバースを全力で歌って祈りを捧げたいと思った。その余韻を引き連れて「Folklore」が揺蕩うような時間をくれる。どこまでも連れていかれそうになるサウンドスケープ、この曲がワンマンライブの終盤で堂々となることの希少さたるや。クラムボンの異端性と孤高性の象徴だろう。本編ラストは「Somewhen,Somewhere」。ミトのMCにもあったが、《いつかまたどこかで君に会える日まで 終わりじゃなく始まりを重ねていく》というラストフレーズは今回のライブ全体を貫くテーマとして高らかに鳴っていた。

アンコールではニューウェイブな「sonar」と、近年の定番曲となった「Lush Life!」が最後の曲として演奏された。今回のツアーに備え、全てのアルバムを聴き直したが本当にどんなことでもやっているバンドだと改めて思った。ここまでドープになるのか、、?という思いにもなりかける2000年代のアルバム群を経ると、ここにきてまたフレッシュでポップな楽曲も真ん中に踊り出始めていることが面白いと思う。基本フォームは崩すことなく、しかしそれでいてどこまで逸脱してもクラムボンを維持し続けているからこそ、どこまでポップに突き抜けても、どこまで実験性を高めても、安定した支持を受け続けているのだろう。そのセンスフルな在り方はワンマンライブだからこそたっぷりと堪能することができた。次はめちゃくちゃ歌ってやるからな!

<setlist>
1.蒼海
2.タイムライン
3.サラウンド
4.シカゴ
5.夜見人知らず
6.便箋歌
7.波よせて(Small Circle of Friends)
8.眩い(未発表曲)
9.はなればなれ
10.GOOD TIME MUSIC
11.yet
12.KANADE dance
13.folklore
14.Somewhen,Somewhere
-encore-
15.soner
16.Lush Life!

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