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ズーカラデルは空洞を見つめる〜「がらんどう」と「がらがらどん」のこと

がらんどう。伽藍堂。何もなく広々とした空間を意味する言葉。思えば2020年、これほどまでこの言葉が似合う1年はなかったと思う。楽しいことは少なく、ワクワクすることも実際減った。ぽかんと空いた空洞のような1年。

『がらんどう』というタイトルのアルバムで今年メジャーデビューを果たしたバンドがいる。北海道出身、3ピースバンドのズーカラデル。本来であればきっとこの夏、各地のフェスにもいっぱい出て名を知らしめた先で出すはずだったアルバム。きっとこの作品を提げて年末までのツアーが決まっていたであろうアルバム。「がらんどう」がどのタイミングで名付けられたかは分からないが、この作品を取り巻く空気を言い当てるのに実にぴったりくる。

しかし内容はどうだ。ネガティブとポジティブを行き来しながらも最後にはエイヤ!と希望を引きずり出すような曲が多いではないか。緩やかな絶望感やふと気を抜くと持っていかれそうになる闇のそばで何かが起きる予感、何かを起こしてしまえそうな予感を信じて待っている曲ばかり。鼓動のようなビートで<響け変な歌声>と宣誓する「トーチソング」、<くだらなくてだけど離せないもの>として音楽を来るべき奇跡に備え放つ「夜明けのうた」。僕らを奮い立たせ、きっと良い予感のする方へと導いてくれる。

つんのめったグルーヴで未練も全部でたらめに踊り飛ばす「TAPIOCA」、<できればもっと簡単にちやほやされたい>という卑しさを歪んだギターに込める「スターイーター」。どれもこれも身近などん底から這い上がるエネルギーをくれる。彼らはある意味で、暗い気持ちを全く否定せずそのままに受け入れる。綺麗事のない、清濁を兼ね備えた“人間の味”がする音楽なのだ。

某コンビニのCMソングを引用しながら、君への愛しさを募らせる「ころがる」をはじめ、生活の匂いを纏った楽曲たちも魅力的だ。立ち行かない日々の肩こりをそっとほぐしていくような癒しがある。恋の悲しさを淡々と噛み締めるように歌う「グッドバイ」はかなりあっさりと終わるのだけど、そこにはむしろ不意に襲ってくる感傷のような手触りがある。生活に寄り添う、というよりも生活を見つめる。日々沸き起こる感情の観察眼が抜群なのだ。

アルバムは「夢が覚めたら」という曲で終わる。音楽を聴いているうちに掛かる魔法はまるで夢のようなもので、覚めてしまえばそこには何もないかもしれない。しかしこの曲はそこからの一歩を音楽の中で確かに踏み出させてくれる。がらんどうは確かに怖い。空虚で真っ暗で何もない。しかし何もないからこそ何でもできる。最初から僕らの手には何もない、だから失敗したとていつでも戻ってこれる。何もなくて何でもある「がらんどう」へと。

https://eplus.jp/sf/detail/2716560003-P0030017?P6=001&P1=0402&P59=1

このメジャーデビュー盤を提げたライブが10月20日に開催され、その公演を配信で観た。観客席を減らした恵比寿LIQUID ROOMにて座席指定/歓声禁止で行われたこのライブ、タイトルは「がらがらどん」であった。アルバムにちなみつつもどこか拍子抜けする題に頬が緩む。実際、ライブも久々ということもあってメンバーも探り探りなら、やっと始められたというポジティブなムードが漂う。メジャーデビュー後初の有観客ライブだが派手さはなく、その再会の喜びが最大の演出になっているような彼ららしい祝祭だった。

ズーカラデルはライブの場でも日常であり続ける。このライブを配信で観ている人への目線を描いた弾き語りを足して歌われた「パーティーを抜け出して」は特に、現場とこちらの生活を繋げてくれるようでじんわりきた。<嫌いなあんたがいつか幸せになりますように>(「漂流劇団」)や、<間違えてるのは世界のほうだよ>(「リトル・ミス・ストレンジ」)など、”一般的“とされている感覚からはみ出るような言葉たちも熱のある演奏や心地よいリズムに乗れば優しく響き渡る。日常でありながら日常を遠ざける穏やかな昂りだ。

ライブの終盤で歌われた「アニー」は最初にMVが作られた曲ながら今なお代表曲でありズーカラデルを象徴する1曲として輝いている。<ねえ 素晴らしくないけど 全然美しくもないけど YOU&I 泥だらけの僕らの世界を歌えを何度も>というラインは、コロナ禍を経て更に涙なしでは聴けない。僕たちはどうやら弱いし、参ってしまう夜もいくつもあって、それでも、それでも、と世界と生きる。どうしようもない空洞を抱えながら歩いていく。ズーカラデルは2020年をありのままに生きるために必要な力をくれる。偶然、だけども必然的なこの年のメジャーデビュー。がらんどうだっていいじゃないか。


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