見出し画像

2020.08.16 羊文学 online tour “優しさについて”@BASEMENTBAR

羊文学のオンラインツアー、最終公演は観客としても演者としても思い出深いという下北沢BASEMENTBAR。2019、2020年にそれぞれリリースされたEP『きらめき』『ざわめき』を再現する公演。まずは「きらめき」から。前2回の公演と違い、ステージ上にいつも通りのセッティングを行いフロアからバンドを映し出すスタイル。かっちりと演出のついたこれまでと異なり、ありありと3ピースバンドの演奏にフォーカス。「あたらしいわたし」のじゃかじゃか感と跳ねっぷり、「ロマンス」の豪快に展開するギターサウンドとキュート(かつ不気味)に振り切れた塩塚モエカの歌唱など、「きらめき」に刻まれたオープンさを余すところなく放出。前2週とは全く違うバンドのようだ。

一方、「ソーダ水」のように奥深くに響き渡る音像の中で澄み渡る歌声が漂う、という彼女たちの従来の持ち味も洗練。「ミルク」のように淡々とした中で徐々に感情が躍動していく、、というような構成を表現するのがとてもうまいバンドだとつくづく思う。シンプルなのに研ぎ澄まされた切なさ。そして、このツアーのタイトルにもなった「優しさについて」が前半の終曲。これまで以上に丹念に音を紡ぎながら、柔らかな余韻を残していく。

後半は最新作『ざわめき』の再現。じっくりと時間をかけて構築した冒頭から「人間だった」の静かなる熱情と言えそうなストイックな演奏へと繋がっていく。この現状を予告していたかのような1曲には思わず身震いしてしまう。続く「サイレン」でも激しく揺れ動く心の内が浮遊するバンドグルーヴに乗る。「夕凪」もまた、『ざわめき』は羊文学の持つ鮮烈な気分をよりグレードアップした音に乗せた核心的な1作だ。ライブでも緊張感が迸る。

「夕凪」では一転、穏やかで日常的なフィーリングを滴らせる。これもまた、言うなれば1つの感情の移ろいだろう。圧巻の音圧で耳を征服してくる「祈り」の眩しさはハイライト。やりきれぬ思いかのように打ち鳴らされる最後の音塊の数々にひれ伏した。きゅんとなる感情を切実に歌う「恋なんて」を颯爽と届けてEP再現ブロックは終了。そして最後に届けられたのは長らく温めてきたという新曲「砂漠のきみへ」である。

後に告知されたが、この楽曲を持って羊文学はキューンミュージック内のF.C.L.S(Suchmosのレーベル)からメジャーデビューを果たした。そう考えれば、オンラインツアー自体がこれまでに歩んできた道のりを振り返ったお礼参りのように思える。<大人になっていくきみ>をモチーフに、これまでの延長上でありながらよりさっぱりとしたアレンジに手を伸ばし、迷える日々に水を捧げるような「砂漠のきみへ」を、この状況下でのメジャーデビュー曲に選んだのは偶然なんだろうか。

ちなみに8/19にリリースされたメジャーデビューシングルは「Girls」とのダブルA面。こちらもまた素晴らしい!苛立ちとか、面倒くささとかをまるっと含めて、ここではないとざらついたギターと共に囁くような。塩塚モエカの抱える心象は、等身大などという言葉で希釈されるべきものではないが、ギリギリの世界に生きる10代や疲れきった大人たちの心の柔らかい部分にすっぽりと収まっていきそうな可塑性を持つ。羊文学のメジャーデビューは、疲弊する現代を優しく、そして鋭く治癒してくれるはず。


-setlist-
1. あたらしいわたし
2. ロマンス
3. ソーダ水
4. ミルク
5. やさしさについて
6.人間だった
7.サイレン
8.夕凪
9.祈り
10.恋なんて
11.砂漠のきみへ


#音楽 #日記 #備忘録 #ロック #邦楽 #邦ロック #ライブ #ライブ日記 #ライブレポート #ライブレポ #イベントレポ #イベントレポート #コラム #エッセイ #音楽コラム #バンド #羊文学


この記事が参加している募集

#イベントレポ

26,187件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?