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『ぐれーとえすけーぷ』作:犬木久太朗【5分シナリオ】

■登場人物
ミコ(19)女性。ネカフェ難民。
ヒカリ(16) 女性。ネカフェ難民。


○ネカフェ・個室・前
ネカフェの個室扉。
中でガタガタと聞こえたと思ったら扉が開く。男がズボンのベルトをしめながら出てきてどっかへ行く。

〇同・同・中
乱れた衣服を直すミコ(19)。
パソコンデスクにくしゃくしゃの一万円札。

〇同・ドリンクバー
グラスに注いだメロンソーダを口に含み、ぐちゅぐちゅと口をゆすぐミコ。
店員がやってきてドリンクバーの機械を掃除しはじめる。受け皿をはずし、たまった飲み物をバケツに捨てる。空になった受け皿を消毒して戻す。
目が合うミコと店員。
まだゆすいでるミコ、気まずい。
じっとこっちを見ている店員。
ピンと来てないような表情をつくり、口を膨らませたまま踵を返し立ち去るミコ。
ミコが手にした空のグラス。

〇同・個室・前
自分の個室に向かうミコ。手にしたグラスにメロンソーダ色の液体。
となりの個室の扉が開きヒカリ(16)が顔を出す。

ミコ「おつかれ」

ヒカリ「おはよー。あ、ひとくちちょうだい」
言ってミコの持ってるグラスを取る。

ミコ「あ!」
言う間もなく飲み干すヒカリ。
慌ててグラスを取り返すミコ。

ヒカリ「え、なんか......」

眉間にしわを寄せ、不思議なものを飲んだという顔をしているヒカリ。
緊張の面持ちで見守るミコ。

ヒカリ「なんか......めっちゃうまい」

ミコ「え......ほんとに?」

ヒカリ「めっちゃうまい!」

マックス笑顔のヒカリ。

ミコ「......ならよかったけど」

内心引いてるミコ。首をかしげグラスを見る。

ヒカリ「ねーミコちゃん今日ヒマ?」

ミコ「え、うんヒマ」

ヒカリ「ニシダさん飲もうって」

ミコ「(嫌そうに)ニシダかー」

ヒカリ「ニシダさんも友達つれてくるって」

ミコ「ニシダの友達なんて終わってんじゃん」

ヒカリ「なんで?」

ミコ「ニシダが終わってんだから」

涙ぐむヒカリ。

ヒカリ「ねぇひどい」

ミコ「え、ごめん冗談だって」

ヒカリ「(涙声で)終わってるとか言われたら悲しい」
しくしく泣きだすヒカリ。

ミコ「ごめん、ごめんって」

ヒカリを抱きしめジタバタしてるミコ。
顔をあげるヒカリ、涙目でミコを睨んで。

ヒカリ「もう言わない?」

思わず顔を赤らめるミコ

ミコ「うん、言わない」

ヒカリ「じゃあ許す」
と言って笑う。

ミコ「(ほっとして)あんたそんな本気? ニシダ」

ヒカリ「本気だよ。なんで?」

ミコ「ううん。てかなんか腹減った!」

ヒカリ「わたしもー」

ミコ「カレー行く?」

ヒカリ「カレー行くー!」

ミコ「行こー」
と歩き出すミコ。

ヒカリ「あれ、飲みは行くでいいんだよね?」

ミコ「それは別」
と駆け出す。

ヒカリ「なんでよー!」
と後を追う。

〇同・ドリンクバー
ドリンクバーコーナー特設ブース。
白飯をたたえたジャーとカレーの入った保温鍋。
「お昼限定無料カレー。おひとり様一杯まで」と張り紙がしてある。
カレーに向かって客たちの長蛇の列ができている。

列の先頭。
ひとりの男性客が並々に盛ったカレーライスにさらにルーをかけていく。

ミコ(声)「カレーってさ、スプーンのうえのカレーとご飯の割合が変わるだけで全然違う食べ物になるわけ」

皿のカレールーに注がれるルー。細かく刻まれた野菜も踊る。

ミコ(声)「カレーとご飯、全部ぐちゃぐちゃに混ぜてもおいしいし」

慎重にルーを足している男性客の表情は真剣そのもので目は血走っている。

ミコ(声)「先にルーだけを味わって飲み込んだあとに、真っ白いご飯を食べる。それもまたいい」

うしろに並んだ客も先頭の男性客の真剣な様子を固唾を飲んで見守る。

ミコ(声)「でも......」

注がれ過ぎたカレーが皿の縁からゆっくりとあふれ出す。

ミコ(声)「カレーはカレー」

焦った男性客、体勢を崩して転ぶ。落とした皿からカレーが床にぶちまけられ、悔しさにむせび泣く。うしろに並んだ客たちももらい泣きしている。

列の後方。
並んでいるミコとヒカリ。

ミコ「行こっかな」

ヒカリ「え?」

ミコ「飲み」

ヒカリ「マジ?」

ミコ「うん。カレー飽きたし」

ヒカリ「大好きー!」
とミコに抱き着くヒカリ。
遠くにカレーをこぼした男性客が店員に引きずられていくのが見える。

                                (犬)


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