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シャベルP
2019年9月1日 03:28
――――――――――――――――――――最終章 珈琲の大霊師―――――――――――――――――――― ――大陸北部 二つの国が、国境を挟んでにらみ合っていた。 物々しい装備、血を求める鈍色の武具。そして、血走る目。 彼らは総じて気が立っていた。それも無理は無い。 その原因は、彼らの国境に突如立てられた1つのテントにあった。 彼らの王、両国の王は、昨夜前線の
2019年8月31日 07:30
時を遡って、ジョージがアラビカ家を見つけて1ヶ月経った頃。 ジョージと、タウロスは、洞窟の中にいた。「・・・・・・どかせそうか?」「いや、こりゃきついな」 タウロスの下半身が、土砂で埋まっていた。 ジョージは、ネスレに土を掘り返させるも、次々に新しい土砂が上から落ちてきて、手に負えない。「そう・・・か。まさか、お前のような奴と最後を迎える事になるとはな・・・。やはり、俺は
2019年8月30日 06:16
多くの思いが交錯した1世紀が経過した。 タウロスの里があった霊峰アース周辺には、タウロスの里を首都とする国が発足し、10倍の速度で進むという特性を利用した産業が国の根幹を成していた。 かつてタウロスの里と呼ばれた首都には、大きな宮殿が建ち、開かれた山から外界を見下ろしていた。 その1室、最も豪奢で大きな部屋に、1人の少女が向かっていた。 その肌は薄く緑がかっていた。 少女は、
2019年8月29日 00:20
――1年後 タウロスの里と外の境界線である滝の外には、リフレール、ルナを始めとして珈琲商会の面々が顔を揃えていた。「長かったですね・・・。やっと会えます」 リフレールが、相変わらずの美貌に光を受けて燦然と輝いていた。その隣にいるルナの腕には、赤子が抱かれていた。「まったくね・・・。厄介なもんだよ。外の人間は一度入るとこっちの時間で1年は出られないなんて」 タウロスの里と外界と
2019年8月28日 00:58
ごりごり ぱきっ ごりごり ぱきっ アラビカ家に泊まった翌日、聞きなれた音がして起きた。 この音は、珈琲豆を砕く時の音だ。丁寧に、一粒ずつ潰している。その丁寧さには、いつも感心させられる。 とんとんとん 階段を下りて1階に来ると、同時に鍋から吹き零れた雫がじゅわっと湯気を上げた。 湯気の中でくるくる回るドロシーの後
2019年8月28日 00:31
――――――――――――――――――――第36章 大団円の向こう側へ―――――――――――――――――――― ジョージ達は山を登っていた。メンバーは、モカナ、ルビー、ジョージ、リルケの4人に、案内役でコートがついた。「アラビカ家の人達は、姉さんが出て行ってから、ずっとタウロスに反発してて、ある日突然居なくなったんだ。その後、皆で探そうとするとタウロスがそれを咎めるから、結局
2019年8月23日 00:25
まず最初の大きな事件。 それをタウロスは良く知っていた。最も大きな二つの大国が激突し、タウロスが選んだ王の国が大勝し、最終的に相手の国を併合するのだ。 そうして、大陸最大の国家ができる。 その後は、どうやった所でその大国が全ての国をなぎ倒しておしまい。 ゆえに、この歴史を選んだ時の勝負は短時間で終結すると決まっていた。 遊戯を始めて、歴史遊戯の中で4年が経過した。 タウロ
2019年8月11日 23:50
「武力で改革ってのは、無しにして欲しい」 全員が珈琲を飲み終わったのを見届けて、ジョージがそう切り出した。「しかし、それでは金をかけて準備した我々の立場がありません!」 案の定、損得勘定に敏感な商人がジョージに食ってかかる。「それを無駄にするとも言ってない。まあ、ここまで大勢はいらないな。10分の1でいい。金は・・・まあ仕方ない。珈琲商会が負担する。こっちにも得がある話になる予定だ
2019年8月10日 00:41
私は・・・幻を見ているのだろうか? これは珈琲だ。タウロスの里にしか無いという、珈琲。それも、里とは違う香りの珈琲だ。 そんなはずはない・・・。珈琲を管理しているのは、アラビカ家。他の人間は、珈琲を入れる技術において、こんな見事な香りを引き出す事はできない。 1人だけ、心当たりがある。だが、そんなはずは・・・あの人が・・・彼女が下界でうまくやっていけるはずはない・・・。頼り無くて、珈
2019年8月9日 00:19
村で一番大きな家で、2人の男が顔を突き合わせていた。「議論はやはり纏まらんな。あの里から出てきたという男も、世間慣れしていないのが丸分かりだ。このままでは、君達にタダメシを食わせるだけで終わってしまう」 片方は、ジョージを雇用した傭兵隊長。もう片方は、イリェの将軍だった。「ええ、我々も実績を残せないのでは困ります。そこで、閣下に少々お耳に入れたいことが・・・」「ふむ?」 将軍
2019年8月7日 21:42
「で、どうだ?そっちは。新しい情報はあったか?」 昼時、キャラバンから少し離れた木の下で、傭兵風に軽めの鎧を着込んだジョージが、ウェイトレス姿のルビーに尋ねる。「この間の情報のウラが取れたさ。やっぱり、見込み利益をどう分配するかで上の連中は揉めてるみたいさね」「・・・ま、そうだろうな。こっちの筋からも、同じ情報が来てる。革命派の連中も、里暮らししか知らないもんだから、味方に巻き込んだ連
2019年8月7日 00:28
冷ややかな目で、頬に大きな傷のある傭兵隊長が1人の男を見下ろす。 商業国家イリェが急きょ行っている傭兵の募集に対し相当量の応募者が殺到していて、今日はすでに82人目の面接だった。 目の前にいる男は、少々頼りない体つきだが目つきの鋭い男で、得物は槍。都市で衛兵をしていた男、と申告されている。肩の力が抜けていて、自然な空気を纏っていた。「衛兵だが、武術より工作が得意とあるが、どういう意味
2019年7月31日 23:24
何度、洞窟の中を行き来しただろうか? 入り口の近くから、徐々に奥に進んでは戻り、進んでは戻り、道にも随分と慣れた気がする。 最近じゃ、リルケの補助無くても一度通った道は通れるようになった程だ。こうして何度も行き来を繰り返している内に、神経が研ぎ澄まされているのが分かる。元々、他人より鋭敏な方だと思っていたが、暗闇の中で、触れてもいない壁がなんとなくどの程度の距離にあるか分かる。 そん
2019年7月31日 00:21
洞窟の中は、ただただ暗い。最初に持ってきた松明が切れたら、後は洞窟内に存在するヒカリタケやらの発光キノコや植物の明かりを頼りに歩かなければならないらしい。 試しに松明を消してみると、漆黒の闇。なるほど、ここで生活すれば確かに感覚は研ぎ澄まされそうだ。人間の重要な感覚の1つ、視覚をほぼ失うに等しいんだからな。「でも、あたしがいるからあまり修行にならないかも?」 リルケがおどけて言う。リ