見出し画像

珈琲の大霊師285


「武力で改革ってのは、無しにして欲しい」

 全員が珈琲を飲み終わったのを見届けて、ジョージがそう切り出した。

「しかし、それでは金をかけて準備した我々の立場がありません!」

 案の定、損得勘定に敏感な商人がジョージに食ってかかる。

「それを無駄にするとも言ってない。まあ、ここまで大勢はいらないな。10分の1でいい。金は・・・まあ仕方ない。珈琲商会が負担する。こっちにも得がある話になる予定だからな」

「・・・?といいますと?」

 得と聞いて商人の目が鋭く光る。同じように、王子も身を乗り出した。

「俺達は、これからタウロスの里に入って・・・外部との交易をするように手配をするつもりだ。聞けば内部の問題は食糧不足。なら、外から輸入すれば良い話だ。対価として、里の進んだ技術で生産したものや、珈琲なんかを輸出とする。軍には、それを運搬する役目を担ってもらいたい」

「・・・運搬の為に軍を残す・・・。それには過剰戦力では?」

 と、今度は将軍が口を出す。戦うばかりが能ではないとばかりに、コスト面の事を言っているようだ。

「いや、よく考えてみてくれ。里のものは、絶対に下界じゃ手に入らない希少品ばかりだ。そんなものを民間に運搬させてみろ。・・・どうなる?」

「・・・山賊が集ってきますな」

 将軍が納得したように頷いた。

「そういう事だ。この『輸送事業』は、今回の件の為に集まった3国で取り決めればいい。元々隣国なんだ。あんたらが、この里を外部の国家の圧力から守ると同時に、その流通の最初の部分を3国で独占し、利益を得ればいい。ま、うちには便宜を図ってもらうぞ?うちは里の珈琲だけありゃあいい。10倍時間が違うから、年に10回収穫できるはずだ。そうなれば、1回1回は里の耕作面積の関係上少なくても年間では、多分そこそこの量になるだろ。それでも希少には違いないが、元々他の豆と比べても圧倒的な美味さのある珈琲だ。高値で流通させればいい。もちろん、輸送費は払う。また、他の品については一切手を触れない。どうだ?」

 一気に計画を伝えると、ニカとコートはあっけに取られ、王子、商人、貴族、豪商、村長の5人は早速頭をつき合わせて話し合いを始めた。

「流石は世界を股にかける商会の会長ですな。これならば、血も流れず損もしない。アナンザとヤモンドは、商売のツテに弱いのではないですかな?そちらには、常備軍を運用して頂いて、我がイリェが商品を流通させる。2国には、我が国から軍の運用費と警護の費用をお支払いしますぞ?」

「いや・・・それでは旨味が少ない。まずは、どんな商品があるかを全て把握してからでしょう。例えば、我が国は綿や羊毛の生産が盛んです。里には、過去の大霊師の事例から言って優れた加工技術があるはず。それは、我がアナンザに優先権を・・・」

「むむむ・・・」

 早速王子と豪商が知略を巡らせるなか、他の3人も利益を得ようと目を光らせるのだった。



「・・・なんつーか、凄いさジョージは」

 と、木の幹に寄りかかったルビーがぽつりと呟く。すると、耳のよいカルディがそれを聞いて近寄った。

「珍しい、ですね。ルビーちゃんが、ジョージさんを褒めるのは・・・」

「はん・・・モカナがいつも褒めるから面白くないだけさ。・・・モカナがいなけりゃ、もっと素直に言える・・・かもしれないさ。・・・あそこの5人だって、多分国じゃそこそこ偉い連中さ。ジョージは今でこそ珈琲商会の社長かもしれないけど、あいつはただの衛兵上がりの旅人だった時から、ずっとああだったさ。多分、珈琲商会が無かったら無かったで、ジョージにはやりようがあるんさ」

 と、少し離れた場所で珈琲を片手に5人と交渉するジョージを、人差し指で跳ねるしぐさをする。

「戦争も、結局殆どどっちにも被害無く収めて、ツェツェには珈琲って売り物があるって教えてくれたさ。もちろん、モカナがいなけりゃできなかったさ?でも、モカナもよく言うけどジョージが居なかったらそれこそ無理だったさ。あたいに恥かしい格好させて、皆の前に出させたのも、交渉を上手く進める為の手だったんだろうさ」

 と、ルビーは少し口を尖らせる。あの時のメイド姿を思い出したのかもしれない。

「・・・ルビーちゃんは、ジョージさんを、良く見てる・・・ですね」

「そんなんじゃない・・・さ。でも、親父がモカナ達に着いてって勉強してこいって言ったのは、多分きっとこういう事だったんだって、今なら分かるさね。ツェツェは戦闘民族だけど、それだけじゃやっていけない時代さ。腕っ節じゃなくて、頭と口で戦えるようにならなきゃいけないんさ。それを・・・あいつの側で盗んで来いって、そういう魂胆だったのさ親父は・・・」

 と、強い光を目に点すルビーは、やはり王女であった。いつか、自分が上に立ち、大勢の命を預かる人間として。

「あの頭が欲しいさ・・・」

 ルビーは、そう言って指を噛んだ。ゆらり、とリフレールにも似た陽炎がその肩から立ち上っていた。

只今、応援したい人を気軽に応援できる流れを作る為の第一段階としてセルフプロモーション中。詳しくはこちらを一読下さい。 http://ch.nicovideo.jp/shaberuP/blomaga/ar1692144 理念に賛同して頂ける皆さま、応援よろしくお願いします!