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珈琲の大霊師281


「で、どうだ?そっちは。新しい情報はあったか?」

 昼時、キャラバンから少し離れた木の下で、傭兵風に軽めの鎧を着込んだジョージが、ウェイトレス姿のルビーに尋ねる。

「この間の情報のウラが取れたさ。やっぱり、見込み利益をどう分配するかで上の連中は揉めてるみたいさね」

「・・・ま、そうだろうな。こっちの筋からも、同じ情報が来てる。革命派の連中も、里暮らししか知らないもんだから、味方に巻き込んだ連中がこうも俗物だとは予想だにしなかったんだろうな」

「おかげで、こっちは色々と工作できるってわけだ」

 ジョージの肩に現れたネスレがジョージと悪い笑みを交わし合う。嫌なコンビだとルビーは苦い顔をした。

 実は、何度か模擬戦をしているが、ネスレの運用と戦略の前に、ルビーは6戦5敗していた。最初の1回目こそ本気のルビーの疾走に着いていけなかったジョージだったが、1度見てしまえば対応力の差が出る事となった。

 ルビーが力を込めるタイミングで毎回何かしらの妨害にあって実力を出し切れずに、完封されてしまうのだ。

「私も、何かできればいいんですけど・・・」

 と、申し訳なさそうに立っているのは、コック姿のカルディだ。本来であれば、ジョージ以上に土の精霊の力を使う事ができるはずのカルディだったが、泥の王の記憶が薄れて無くなってしまっているカルディには、土の精霊と同一化した体の中に、もう一度精霊を見出す事はできなかった。

「気にすんな。カルディは、キャラバンで変わらず情報収集しててくれ」

 ふとジョージは視線を上げる。その先には、霊峰アースの隣山。その中腹に、時々輝く物が見えた。それを、ジョージの目は追っていた。

 その隣山の中腹には、モカナがいた。肩の上にいるドロシーが、何故か真っ黒になって、いつもの澄んだ水とは違う泥だらけの水をその手から大量に吹き出し、池に注いでいた。

「・・・ごめんねドロシー。あとで綺麗にしようね」

「あぎゃぎゃ!!おもぢろい!!」

 心配そうに見つめるモカナに、ドロシーは楽しげに応えたのだった。


「俗物どもめっ!!」

 バンッと、着ていた外套を机に叩き付ける色白で長身の男がいた。

 男は肩を怒らせて部屋に入ってくるや否や、声を荒げてそう怒鳴ったのだった。

「・・・今日も話が進まなかったの?兄さん」

 心配そうに奥から出てきたのは同じく色白の女。その容貌は男と良く似ていた。

「ああ・・・。里に何があるかは我々ですら分からない事が多いというのに、それを分ける相談を今するなどと・・・。どう考えても道理に反する!!その上、私は里にしか居た事がないから世間知らずだなどと言われてはな!!」

「・・・。こうしてる間にも、10番の速度で里では時間が流れてる。あっちには、私達の10倍も準備する時間がある・・・。援軍を頼んだのは、失敗だったかしら・・・」

「いや・・・あの里には、大勢の人間が攻め寄せた事は無い。中の人間達だけで考えていては、何年経っても外の本気の脅威には対処できまい。私達が無知であったのと同じようにな。・・・が、このままでは埒が明かない・・・。何か良い知恵は無いものか」

 その家の外に、1つ影が身を潜めていた。

 それなりに往来のある中でも、誰も気に咎めない。

「・・・って言ってるよ、ジョージさん」

 その影よりも誰にも気付かれない存在が、その影に話しかける。

 影は、ニヤリと笑った。

「やっぱりなぁ。閉所にいる連中じゃ、外の連中の強かさは予想がつかないよなぁ。ま、概ね予想通り。行動は、3日後だ」

 そう言って、ジョージはスッと何事も無かったかのように立ち上がり、その場を去っていったのだった。

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