文化庁 文化観光高付加価値化リサーチ 第五章 関わり人口 - 考察
0.関わり人口とは?
文化観光における関係性とは観光地と観光客といった主客の関係ではなく、文化を中心とした地域内部と外部の相互交流だ。カテゴリーによらない、地域文化に愛を持って主体的に関わる外部者のことを「関わり人口」と定義する。関わり人口としての地域との関係性は、人や地域によって異なり、多種多様であることが重要だ。
1.関わり人口を考える上での問題意識
観光、ワーケーション、多拠点生活、移住、定住。地域との関わり方にはさまざまな形がある。人口減少の進行する多くの地域において、観光が促進されることで外貨が流入してくること、また地域を魅力的と感じて移住してくる人々が増えることはよい傾向と考えられる。しかし関わりの「数」を増やすことだけを目指すと摩擦が起きやすい。地域がその地域らしさを深めていくための関わりの「質」を高めることが必要となる。
はたして、どのような関わり方が望ましいのか。地域と、その地域を行き来する訪問者とのよい「関係性」を探ること。これは文化観光のテーマと響きあっている。文化と、その文化への理解を深め支えていく方法を探ること。また地域と、その地域の文化が持続していく方法を探ること。どちらの問題意識にも応答するものとしての「関わり人口」のあり方を検討する。
2.文化観光が生み出す「関係性」とその価値
文化観光の価値は、地域内外の関係性のあいだで生まれる。まず外部からの“まなざし”で地域の文化に光をあてて価値を見出す。それによって地域が内部から熱量を伴って動き始める。その過程で生まれてくる新しい価値観が、地域の内外に共有されて広まっていく。文化と観光を起点としてこのような展開を生み出していく。
観光客がただ観光地や観光コンテンツを消費するのではなく、地域の成り立ちや文化を理解するとともに、地域の人々と交流を深め、地域と共鳴し融和していく。まさにそこに価値が生まれる。文化観光の体験は、訪問者にとって自身の世界を広げていく豊かな体験となり、ふたたび同じ地域に訪れたくなる動機となる。同時に、地域の側にとっては地域のファンを増やし、新しい価値を生じさせ、文化の支え手をつくっていくことでもある。
3.地域と関わる最初の接点をどうつくるか
地域の文化や、人々の生活に触れる機会をつくることが、訪問者が地域に愛着を持つための文化観光の最初の接点となる。暮らしのなかで地域の人々が切にしている価値観。地域の文化や地場産業の担い手たちの情熱。それらを直に体感し、観光客というよりも個人として地域に接していく。そのような体験のできる場のあることが、地域と外から訪れる人々の距離を一気に縮め、特別な関係への始まりをつくりだす。
たとえば、地域の人々の日常の場であるカフェやバーは訪問者を観光客として扱わない。そこでなされる店主や常連客とのフラットな会話が訪問者を地域へと巻き込んでいく。島根県温泉津に近江雅子さんがつくったゲストハウス“WATOWA”は、地域内外のさまざまな人々が関係性を築くことのできる場だ。WATOWAの入口にあるコインランドリーの奥にはオープンキッチンのレストランがある。ここで料理をするのは全国から期間限定で滞在しているシェフたちだ。扱う食材はすべて地域のもので、近江さんが生産者の人たちを紹介して直接仕入れる。地元の食材がこれまでと全く違う料理になっていくことに驚く地域の人たち。温泉津ならではの豊かな食材で料理に腕を振るうシェフたち。レストランに併設されたゲストハウスに滞在している訪問者。地域内外の関係性のあいだに、新しい価値が生まれる場であり、関わり人口が地域に愛着をもってファンになっていく場でもある。
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