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北村志帆(佐賀県職員) - 「デザイン」を通じた外部の目線/声によって、地元に自信を持てる環境をつくる

editor's note
佐賀県庁にて政策にデザインの視点を取り入れる「さがデザイン」プロジェクトに従事してきた北村志帆さん。関わり人口としてデザイナー、クリエイターが外からの視点で地域を見つめ、高付加価値化して形にあらわすための入り口として機能している「さがデザイン」の仕組みをインタビューしました。
行政の縦割り組織の構造を変えることがむずかしいのであれば、横串で刺せる組織を内部に作ればいいという発想から「さがデザイン」は機能しはじめました。佐賀のまちにデザインが取り入れられていき、目に見える形でまちとしての魅力を増していく。デザインされたランドスケープ・空間がやがて地域の固有性となる。行政のあり方が変わっていく先端の事例です。

表紙画像:さがデザイン執務スペース「ODORIBA」

行政組織における「横串」としての「さがデザイン」

「さがデザイン(※1)」は、2015年から始まった佐賀県庁の政策部にある、少し不思議な立ち位置の行政組織です。行政は何層もの構造があるので、最終的な意思決定がなされるまでには時間がかかり、その過程で幾度もたたかれてとがったアイデアが面白みのないものになってしまいがちです。佐賀県では、それらのアイデアを、「さがデザイン」を通すことでクリエイターを投入してさらに磨き上げ、内容によっては何層も飛び越えて知事まで意見を上げることもあります。行政の縦割りのなかで横串を刺す役割も持ち、関係課も巻き込みながらプロジェクトに落とし込んでいきます。このような柔らかな組織構造によって、行政の施策にデザインの視点を取り入れることがコンセプトです。

相談するクリエイターとはつながりを大切にしています。つながりを続けていくと、「また佐賀県がなにか面白いことをやり始めたぞ」と、どんどん新しいつながりが生まれていきます。仕事を一緒にさせてもらっているクリエイターの方々は、「さがデザイン」のネットワークに価値を見出していただけることが多いですね。行政を通じてデザインの仕事をやることの社会的意義はすごく大きいのではないかと思います。

100名ほどのクリエイターが関わっていますが、リストは作っていないんですよ。いわゆるグラフィックやプロダクトのデザイナーだけじゃなくて、映像クリエイター、サウンドデザイナー、建築士、さらには書家など、さまざまな方がいらっしゃいます。リストで管理したり認定したりするとちがう形になっちゃうから、名刺くらいは保管してありますが、あえてゆるい感じにしてどこかに属している感はまったく出さないようにしています。

さらに、クリエイターと担当課のやりとりの場に居合わせることで、私たちのリテラシーも上がっていって、「さがデザイン」のメンバー誰もが県庁内のコンサルのようなことができるようになっていきました。各課から相談されることに対してなんとなくパターンも見えてきて、まずコンセプトを確かめる必要があること、そもそもこの事業はなんのためにやっているのかなど、必要な問いは共通していることがわかってきました。

佐賀城内エリアリノベーション「こころざしのもり」

立場の違う人たちが共感者として集まる大切さ

予算がなくてもプロジェクトは作れるのではないかと考えています。共感したら身銭を切ってでも時間やお金、スキルを投資したいと思う確率って高まるじゃないですか。やりたい人が集まって、その輪に参画することで自分たちの価値を高めたいと思っていただけることが理想です。立場の違う人たちが共感者として集まるプロジェクトになっていることが大事ですね。公的な私たちが加わることで発信力が高まり、見い出される価値があると考えています。そこに至った背景や、なぜ応援しているのかを私たちもきちんと考えて打ち出す必要があります。

「さがデザイン」の効果を、はっきりと数値として示すのは難しいと思うんです。ただ、県内に心地いい空間が確実に増えてきている実感はありますね。イケてないより、イケてるほうがいいじゃん、というのはありますよ。空間が変わることで、今まで来ていなかった人たちを自然と呼び込むことに成功している動きも生まれてきています。県庁内でも、よくある職員食堂だった場所が、空間にデザインを取り入れることで高校生をはじめ一般の方たちが来てくれるようになりました。県庁に高校生が来る状況が生まれたってすばらしいことじゃないですか。

デザインというと見た目だけのことだと思いがちなのですが、どちらかというとやっていることは「コト」のデザインのほうが多いです。政策が行き渡っているかの検証もしますよ。「さがデザイン」で外からの視点が入って、デザインを通じて外からの声が自然と聞こえるようになることで、地域の人たちにはもっと地元に自信を持ってほしいです。

1)さがデザイン…佐賀らしい「モノ」と「コト」をデザインの視点で磨き上げ、新たな価値を付与することにより、人のくらし、まち・地域を心地よくし、豊かなものにすることを目指した組織。外部のデザイナーやクリエイター、コンサルタント等とのネットワークを構築し、事業・施策の相談窓口として福祉、教育、産業などあらゆる部局にわたるプロジェクトにデザインの視点を導入している。

北村志帆(佐賀県職員)
佐賀県出身。東京や中国の民間企業での勤務経験を経て2006年佐賀県庁へ入庁。県庁では農産物等の輸出支援のほか、上海デスク代表として県内企業の海外取引支援に従事。その後、政策にデザインの視点を取り入れる「さがデザイン」プロジェクトに従事。現在、国内の自治体で唯一の組織「コスメティック構想推進室」室長。

第五章 地域の活動熱量・関わり人口 - 考察
地域の活動熱量 
地域内に地域の魅力を向上させる主体的な活動を起こすリーダーやコミュニティがあること

関わり人口 能動的に地域を行き来する訪問者と、地域住民の双方向に良好な関係があること

第五章 地域の活動熱量・関わり人口 - インタビュー
地域の資源を見つけ、磨いて、価値化することで、創造的な産地をつくる
新山直広(TSUGI代表 / RENEWディレクター)

行政は黒子に徹し、「めがねのまちさばえ」をプロデュース/発信していく
髙崎則章(鯖江市役所)

産地の未来が「持続可能な地域産業」となる世界を思い描いて
谷口康彦(RENEW実行委員長 / 谷口眼鏡代表取締役)

ものをつくるだけではなく広める/売るまで担う新時代の職人
戸谷祐次(タケフナイフビレッジ / 伝統工芸士)

顧客との接点を増やすことが、産地にもたらす価値
内田徹(漆琳堂代表取締役社長 / 伝統工芸士)

暮らしの良さを体感する中長期滞在
近江雅子(HÏSOM / WATOWAオーナー)

私たちがいなくなっても、地域文化を守ってくれる人がここにいてほしい
臼井泉 / 臼井ふみ(島根県大田市温泉津町日祖在住)

地域の方々が輝けるようにサポートをする行政の役割
松村和典(大田市役所)

使い手を想像し対話から生まれる作品と、新しい関係性
荒尾浩之(温泉津焼 椿窯)

里山再生と後継者育成を結ぶ
小林新也(シーラカンス食堂 / MUJUN / 里山インストール代表社員)

「デザイン」を通じた外部の目線/声によって、地元に自信を持てる環境をつくる
北村志帆(佐賀県職員)

継続的な組織運営と関係性の蓄積が、経済循環を生み出す
山出淳也(BEPPU PROJECT代表理事 / アーティスト)

価値観で共鳴したコミュニティが熱量を高めていく
坂口修一郎(BAGN Inc.代表 / リバーバンク代表理事)

文化庁ホームページ「文化観光 文化資源の高付加価値化」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/93694501.html

レポート「令和3年度 文化観光高付加価値化リサーチ 文化・観光・まちづくりの関係性について」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/pdf/93705701_01.pdf(PDFへの直通リンク)
これからの文化観光施策が目指す「高付加価値化」のあり方について、大切にしたい5つの視点を導きだしての考察、その視点の元となった37名の方々のインタビューが掲載されたレポートです。

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