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小林新也(シーラカンス食堂 / MUJUN / 里山インストール代表社員) - 里山再生と後継者育成を結ぶ

文化観光高付加価値化リサーチチーム「session」

editor's note
小林新也さんは刃物ブランドの海外展開を手がけて成功してきた経歴をもちながら、地場産業の後継者問題の深刻さに向き合い、原料と職人の距離を近づける産地づくりのため温泉津に里山を切り拓こうとしています。すべてが地産であるという文脈をつくることによって、文化と地場産業を高付加価値化させていく取組みを伺いました。
商品のブランディングを手がける方だと思って訪ねたら、この土地を買いましたと言って、ユンボ(パワーショベル)を自分で動かして山を開墾していました。話を伺うとすべては繋がっているのです。産業の後継者問題の解決策として里山を切り拓くという途方もない仕事は、地産素材、職人、工芸品の一連を繋ぎ合わせ、高付加価値化する上での土壌づくりとして、これ以上ない先見の一歩でした。

地場産業における構造上の課題

地場産業の後継者問題に取り組んでいて感じることは、どこも分業による合理化が進みすぎたことがかせになっていることです。生産工程のうちの一つの材料屋さんが辞めてしまっただけで工程全体が共倒れになり、崩壊してしまう寸前の状態です。めちゃくちゃ危ういんですよ。これまでの地場産業はさまざまな職人の仕事で成り立ってきましたが、この産業形態自体は、正直すでに終わりが見えていると思っています。

近代以降、技術が合理化してしまうよりも前の時代の技法を守りながらものづくりをしている方たちが、最後の生き残りとしてまだいらっしゃいます。すでに高齢者になっており、弟子は一人もおらず、育てたこともありません。その方たちから学ぶには今しかないので、急いで後継者育成をやらないと間に合いません。さらに大きな問題として、資材も原料もその辺では手に入らなくて業者から買うしかないなかで、需要が減ったこともあって一つひとつの値上げが頻繁に起こっており、職人が弱い立場に置かれてしまっているのです。これは産地の構造的な問題です。

ヨーロッパにおける地域経済の循環

シーラカンス食堂(※1)を立ち上げ、これまで8年間、刃物ブランドの海外展開をやってきて、日本市場とはまったく異なる価格設定をしながらも広域に販路を獲得することに成功してきました。海外でどういうアプローチをするといいか、ものづくりのビジネス上で必要なことは習得してきたつもりです。海外の人が見ている日本は、昔の日本のイメージなんです。今でも神道の考えが残っていると思われていて、日本は職人の国だという世界観をもって、展示会や物販イベントに足を運んできている。テクノロジーも発展しているのに、一方では古いものも残っている不思議な国だと思われていて、日本の手仕事を見るとみんなめっちゃ感激してくれるんです。

ヨーロッパの人たちは文化的な生活水準が高くて、日本の職人技術の価値が届いていると感じています。僕らがヨーロッパの展示会に参加してきたなかで、ヨーロッパの地方では規模は小さくともそのエリアでの地域経済が循環しているところがたくさんあることを知りました。そうした小さな小売店が、僕らの持っていくものをたくさんコンスタントに仕入れてくれるのです。

原料と職人さんの距離の近さ

日本にも、昔は問屋を介してもすぐに売り場があって、その売り場には商品に詳しい店主がいました。店主が使う人のニーズを直接耳にしているから、問屋を通していても職人にその声が届いていたのです。でも今は地場の問屋からさらに大きな問屋を介して、商品は大きなチェーン店に並びますから、使う人の声が職人に届きません。職人がデザインする思考にならないので、日本のものづくりには商品のデザインが進化していかない課題もあります。販売価格も日本では小売希望価格が先行します。上代がまずあって、それに対して卸値・下代という発想が当たり前ですが、ヨーロッパでは逆なんです。いくらで卸せるかが先行して、自分の店ならいくらで売れるかを考えます。だから同じ町でも価格が違っていて、お客さんは値段が高くても行きつけの店で買ったりします。生活に密接した関係性があったり、その店のメンテナンスが上手だからだったり、いろんな理由があるのですが、そこには今の日本の状況とは大きな差があると思います。

持続可能性が大切だと、最近になってようやく世の中では言われ始めましたが、その基盤となるものづくりの状況や、ものづくりを取り巻く環境が危ういことにほとんどの人が気づけていないと感じます。このような危機感をもった中で、島根の温泉津に足を運ぶたび、ここでの暮らしは物理的にも自然が近く、原料と職人さんの距離が離れていないことに驚いてきました。なんなら職人さんが自分で原料を持っていて、隣で原料を掘ってはこっちの工房で工芸をつくるといった具合です。「これだ!」と思いました。そして、みんな優しいし、余裕がある。すり鉢屋さんに土が欲しいとお願いすると、「あげる、あげる」と言ってくれます。料金もいらないと言う。「だってこれ、あそこで掘ったやつやから」と。

「暮らす」ことでしか、地域の問題は解決しない

以前から、里山再生と後継者育成を結ぶようなことをやりたいと思っていました。そんな矢先にコロナがきて、材料や燃料を物流に頼り続ける危うさを痛感しました。考えてきた構想を形にするのは、今しかないと感じています。地場産業を支える原材料を地域内で調達できる体制をつくり、そしてその地で後継者を育てることです。産業の生産量は減っていきますから、すべてが地産であるという文脈をつけて高付加価値化していきます。

いま自分が一番苦しいのは、突きつめると「暮らす」ことでしか、地域の問題は解決しないんじゃないかと思っていることです。いくら地域や社会がこうなるべきだと僕が思ったとしても、それだけではなにも変わらないじゃないですか。僕はデザイナーという仕事からスタートしているので、さまざまな地域を知っていて物事や人のつながりを運ぶ、いわば「風の人」が重要だと身をもって知っています。けれど今は風の人はめっちゃいるんです。「暮らす」人が明らかに足りなさすぎです。「暮らす」人が増えない限りは、守りたいものは守れないなと実感するのです。月の半分は温泉津に来て、月の半分は兵庫に住む暮らしを続けてもう2年になるのですが、それでもまだ、ここに暮らしているという感覚が足りません。里山を取り戻すにも、暮らすことでしか絶対に取り戻せない。暮らし始めることで初めて暮らしそのものとして地域や自然環境の一部になって、本当の意味でやりたいことが実現すると思っています。

シーラカンス食堂…小林新也氏が2011年に立ち上げた、デザインイノベーション事業・海外卸事業・刃物製造後継者育成事業の三本柱で事業展開をしている企業。地域経済の好循環復興と大切にすべき伝統文化の継承を目標に地域資源を生かしたデザイン活動を行なっている。

小林新也(合同会社シーラカンス食堂/MUJUN代表社員・クリエイティブディレクター・デザイナー/合同会社里山インストール代表社員・チーフデザインオフィサー)
1987年兵庫県小野市生まれ。2010年大阪芸術大学デザイン学部プロダクトデザインコース卒業後、グローバルとローカルを行き来した視点とイノベーションを基調にデザイン活動をしつつ、職人の後継者育成を主軸としたものづくりから海外卸まで一貫して行っている。活動はNHKEテレ「デザイントークスプラス」やNHK World「BIZ STREAM」などで取り上げられている。

第五章 地域の活動熱量・関わり人口 - 考察
地域の活動熱量 
地域内に地域の魅力を向上させる主体的な活動を起こすリーダーやコミュニティがあること

関わり人口 能動的に地域を行き来する訪問者と、地域住民の双方向に良好な関係があること

第五章 地域の活動熱量・関わり人口 - インタビュー
地域の資源を見つけ、磨いて、価値化することで、創造的な産地をつくる
新山直広(TSUGI代表 / RENEWディレクター)

行政は黒子に徹し、「めがねのまちさばえ」をプロデュース/発信していく
髙崎則章(鯖江市役所)

産地の未来が「持続可能な地域産業」となる世界を思い描いて
谷口康彦(RENEW実行委員長 / 谷口眼鏡代表取締役)

ものをつくるだけではなく広める/売るまで担う新時代の職人
戸谷祐次(タケフナイフビレッジ / 伝統工芸士)

顧客との接点を増やすことが、産地にもたらす価値
内田徹(漆琳堂代表取締役社長 / 伝統工芸士)

暮らしの良さを体感する中長期滞在
近江雅子(HÏSOM / WATOWAオーナー)

私たちがいなくなっても、地域文化を守ってくれる人がここにいてほしい
臼井泉 / 臼井ふみ(島根県大田市温泉津町日祖在住)

地域の方々が輝けるようにサポートをする行政の役割
松村和典(大田市役所)

使い手を想像し対話から生まれる作品と、新しい関係性
荒尾浩之(温泉津焼 椿窯)

里山再生と後継者育成を結ぶ
小林新也(シーラカンス食堂 / MUJUN / 里山インストール代表社員)

「デザイン」を通じた外部の目線/声によって、地元に自信を持てる環境をつくる
北村志帆(佐賀県職員)

継続的な組織運営と関係性の蓄積が、経済循環を生み出す
山出淳也(BEPPU PROJECT代表理事 / アーティスト)

価値観で共鳴したコミュニティが熱量を高めていく
坂口修一郎(BAGN Inc.代表 / リバーバンク代表理事)

文化庁ホームページ「文化観光 文化資源の高付加価値化」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/93694501.html

レポート「令和3年度 文化観光高付加価値化リサーチ 文化・観光・まちづくりの関係性について」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/pdf/93705701_01.pdf(PDFへの直通リンク)
これからの文化観光施策が目指す「高付加価値化」のあり方について、大切にしたい5つの視点を導きだしての考察、その視点の元となった37名の方々のインタビューが掲載されたレポートです。

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文化観光高付加価値化リサーチチーム「session」
文化庁が推進する文化観光事業のうち”文化資源の高付加価値化促進事業”のリサーチを担当している民間チームです。文化・観光・まちづくりのあるべき”関係性”とは?それらの関係性を高めていく文化資源の”高付加価値化”とは?をテーマに、皆さんとともに考え、発信していきます。