冬のはじまりと道草時間を愛おしむ、鎌倉暮らしの街歩き
鎌倉に越してきて二度目の冬。住んでいる街のすてきなところを文字にしてみたくて、鎌倉の今をおさんぽでお届けします。冬のはじまりを愛おしみながら、みなさんにすこしでも鎌倉を歩いている気分になってもらえたらうれしいです。前回は急須を探して、午後三時からのぷらりまち歩きでした。
さて師走のせわしない休日を過ぎ、おっとりした平日のある日。お昼は急遽会うことになった友人と食べることに。今日は陽射しはあるけれど、風が冷たいなあ。上にも下にも、あちこちがそれぞれに色づいた世界、きれい。歩行禅ということばがあるそうだけれど、ほんとうにあるくだけで身も心も清まるし、しずかに弾む。今までフォルムがしっくりこなくて避けていたニューバランスのスニーカーを初めて買ってみたんだけれど、これ歩きやすい。
待ち合わせは、鎌倉駅そばのなると屋+典座さん。小町通りを入ってわりとすぐの二階にあり、季節の食材をふんだんに使用したていねいな精進料理の定食をいただける。はす向かいには和菓子の長嶋屋さん。
なると屋さん、にぎやかな小町通りを入ってすぐの場所にあるとは思えないくらい静かで、とても落ち着くのです。お店へ入った瞬間から心ほぐれるお出汁の香りが鼻腔いっぱいに満ちてきて、やさしいおばあちゃんに会ったときみたいな、どこまでもやわらかい枕とシーツに包まれた時のような、えもいわれぬ安心感でいっぱいに。温かな店内は湯気のあがったとでもいうような、ほっこりしたお顔のお客さんたちで月曜から満席。ほんとうにみんな、とてもいい顔をしている。
月替わりの創作ごはんをいただく。いつだったか、いちじくのお椀におどろいたこともあったけれど、師走の内容もまたひとひねり。干し柿のお椀です。赤だしでもまったく違和感なくて、おいしい。あと、ここのごま豆腐がすごく好き。毎日食べたいくらい。季節を味覚でたっぷりあじわう。ごちそうさまでした。
友人とたっぷり話をして別れ、そのまましばらくお散歩を。西口方面へまわり、好きな書店へ。本屋さんをのぞくときって、好きな人たちに会いにいくみたいにうれしくなる。今日は、なにが待っているかなあって。
西口ロータリーすぐそばの、たらば書房さん。新刊をチェックします。今日はいちどに沢山買っちゃった。これから寒くなるから家に篭っての読書がはかどりそう。
時計をみると、午後三時すぎ。それでもまだまだ見どころ沢山まわれちゃうのが、コンパクトな街・鎌倉のいいところ。まっすぐ帰ったらいいのに、ついつい「あ、あのお店ものぞいていこう」と思ってしまう。気になる雑貨屋さんへ立ち寄ろうと、こんどはふたたび駅の反対側、東口方面へ。鎌倉駅からみて東南に歩いていく。
こちらが、てしごと雑貨などを置いているうつわと手仕事 廻り道さん。一品一品のセレクトにこだわりをぐっと感じるお店。駅からはすこし距離があるけれど、そのぶん雑踏から離れ、暮らしているようなゆったりした気分で歩ける場所。こういうった個人の温かな思いや信念でできているお店があちらこちらにあるから、鎌倉の街はいつでもたのしい。冬らしい雑貨たち、ほっこり可愛かった。
廻り道さんからすこし駅側に戻ったところに、HANG-GUさんという素敵な韓国料理屋さんが。日本人向けのマイルドなやさしさの加わった、ひとつひとつが丁寧に作られたおいしい韓国料理や発酵料理がいただける。韓国料理というと焼肉のイメージがあるけれど、こちらは季節のものや地物をふんだんに使った医食同源の料理を出してくれるところがうれしい。寒くなってきたから、そろそろまた温かい食事をいただきに行きたいなあ。
さらに歩いていくと、今まで気がつかなかったペインティンググッズのお店を発見。専門店って、いいなあ。わからないこと、詳しく教えてもらえそう。今はなんでもそろって便利なスーパーとかデパートはふつうだけれど、昔は魚は魚屋さんだし、豆腐は豆腐屋さんだし、布団は布団屋さんで、文房具は文房具屋さんだったわけで。
隣は額縁屋さん。人生でもし額縁がひつようなシーンがあれば、真っ先に来たいと思っている。入り口にマン・レイの展示ポスターが。「マン・レイと女性たち」、来年一月まで葉山の神奈川県立近代美術館にてやっているんだった。こちらも行きたいところ。同時期に開催中の内藤礼さんの「すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している 2022」も気になる。
さらに駅方面へもどると、大好きでなんども通っているベトナム料理とフォーの人気店、Pho RASCALさん。ここは昼食時つねに並ぶだけあって、今までにさんざん食べてきたフォーの中でいちばんおいしい。ほんとうにおいしい。フォーでこんなに差がでるの?というくらい、どんな魔法がかかっているの?と思う。ここのフォーがどこより好きです。
いつも頼むのが、ベジタブルフォー。鎌倉野菜がこれでもかとのっていて、お出汁も透き通ってきれいで、脂が少なくとってもやさしい。運ばれてきたその一杯をひとめ見るだけで丁寧に作られているのが伝わってくる。癒しの食事です。
ふたたび鎌倉駅が近くなってきた。寒いけれど、でもまだまだ歩いていたい。なんでもない街のふとした一角に、今日のすべてがぎゅっと凝縮されてつまっているような気がして、このままその宝ものをいくつも集めながらどこまでも歩いていたい。
由比ヶ浜大通りへ入っていく。この通りは素敵な個人のお店が沢山あって、みるたびいいなあ、こういう小さなあたたかい力が街の顔をいいものにしているんだなあ、と思う。そんな街に暮らせてしあわせだなあと。
お気に入りの古本屋さん、公文堂書店。行けば必ずなにか買ってしまうので、積読注意です。
どんどん増してくる寒さに早足になりながら、それでもまだ電車に乗ってしまいたくない。鎌倉は、夜に向かってちゃんと街が静かになっていく。丁寧に均一に、ボリュームをそうっと落としていくように、店々は閉まり、人びとは家路についていく。冬は特に、いっそう静けさが深く、濃くなる。
長谷の交差点まで出てきた。最近あちこちの和菓子屋さんでいちご大福、はじまっているんだよなあ。でもね、それ以外のあれやこれやも冬だとなぜか美味しそうに見えちゃうんだよなあ。あつあつのお茶と一緒に食べたらたまらないだろうなって。こたつがあればなお最高。
そろそろ帰るかと江ノ電乗り場へ。夕陽があまりにきれいだったので、気持ちはもうお家だったけれど七里ガ浜へ出ていってしばし眺める。毎日おなじなのに、毎日ちがう景色。なにもちがわないのに、なにもかもちがう景色。
みごとなまでの富士山のシルエット。潔く気持ちがいい。江ノ島もきょうはうれしそう。
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うつくしい夕陽をポケットにしまい込んで、寒空のした、やっとおうちへ到着。ふー、今日もなんでもない、いい日だった。ただいまあ。
さいごに、今日たらば書房さんで買った本たちを。坂口恭平さんや気になっていた井戸川射子さんなど。なにかを買っていちばん豊かな気持ちになれるのが、わたしにとっては本です。みなさんはどうですか?この小さな四角の紙の束のなかでまだみたこともない景色がそっと息をひそめていると思うと、それがこの手元にあると思うと、こんなすてきなできごとってほかには中々ないよなあって思うんです。
そうそう、鎌倉駅そばの東急で魚や納豆を買ったんだけれど、いちばん興奮する数字の並びをたたき出しました。「1121」やったーーー。車のナンバーとかでも、この並びを偶然みつけた日はもうたまらない。誕生年、月、日の並びなんですけれど(単純です)、わたしにとって最強の並びです。
師走も半ばとなり寒さがきびしくなりそうですが、みなさんにも、なにかあたたかな気持ちになれるできごとがありますように。それでは、このへんで。
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