藤井風のライブに行ったら、感性がトンだ。
やわらかな風が吹く5月中旬。
小田急線沿い。家族の気配が漂う住宅街を追いかけると、吹き抜けのホームにたどり着いた。
ひらけた改札口を出て、人の波に乗って歩みを進めること約8分。見上げた空にうつる景色がビルから木々へ変わる頃、相模女子大学グリーンホールが見えてきた。
それは『Fujii Kaze alone at home Tour 2022』が行われる本日の大舞台だ。
まさかチケットが当選するだなんて思っていなくて、当日は仕事中もソワソワが止まらなかった。
そう、わたしははじめて生・藤井風を拝むことができたのです。さらに運が良く、最前列でした。
折角なので、レポという名の散文を書き落としておこうと思います。
はじめての生・藤井風に浮き足立つ心をそっと抑えながら会場をのぞいてみると、既に人がたくさん!年齢層はさまざまで、おそろいのバケットハットを被った老夫婦やお母さんに連れられた小さな女の子、学校終わりの学生さんなど、たくさんの人が風さんのライブに訪れていた。
わたしは相変わらず1人参戦だったのだけれど、同じように1人で来場している方も多かったと思う。たくさんの人が集まっている様子を見ると、風さんが老若男女から愛されていることが感じられて嬉しい気持ちになる。楽しみすぎて、すでに感極まる思いだ。
さて、会場についてグッズよりも、入場もよりも、何よりも先に行動したのが、リクエストカードだ。風さんに歌ってもらいたい渾身の1曲をリクエストできるというリクエストカード。よく配信で行なっているように、舞台上で即興でリクエスト曲を演奏&歌唱(つまりカバー)をしてくれるというスペシャルな企画だ。
リクエストカードを受け取り、早速記入台へ。
しかし、風さんのオリジナル曲をリクエストするのかと勘違いしていたわたしは、藤井風の『旅路』をリクエストするという新手な所業をしてしまった。笑うほかない。
『旅路』への熱い想いを記入してしまって恥ずかしいので、せめて風さんが読んでくれていたらいいなあと思う。
会場は1700人以上を収容できる大ホール。弧を描くように並んだ椅子は、びっしりと人で埋めつくされていた。
ステージの左右脇には「ガーデン」らしきお花が植えられていて、その後ろに大きな垂れ幕が下がっていた。垂れ幕とステージの隙間から、たまに人の影が揺れるものだから、開演前からドキドキしっぱなしだ。
風さんが、すぐ、そこにいる。
いつも耳を澄まして会いに行っていた人が、すぐ近くで息をしているという事実が、とてつもなく特別なことに思える。ライブ前はいつも緊張で肩を強張らせてしまうな。
ブーーーー、と開演のブザーが鳴る。
大きな垂れ幕が、ゆっくりゆっくり上がっていく。
すると、ステージに見えてきたのは風さんの「my home」だった。中央にピアノが鎮座し、ピアノを囲むようにソファー、ダイニングテーブル、冷蔵庫、洋服ラックなどが並んでいて、ポストや扉、2階へつづく階段もある。ツアー名である「Fujii Kaze alone at home」が思い浮かんだ。
パステルピンクとパステルパープルの、マーブル柄のスウェットパーカーを着こなした風さんは、ソファーにだらっと座り、小さなギターをポロンと鳴らす。まるで、おうちで歌いたい歌を、好きに歌うように「藤井風」のライブははじまった。
はじめは『sunny』など、ギターとピアノの弾き語りでさまざな洋楽カバーが歌われた。すでに夢見心地。多幸感。すべての曲名が分からなかったのが悔しい。
今回のセトリを、覚えている範囲で書いておこう。大好きな『ガーデン』からはじまり、リクエスト曲に書いてしまったくらい聴き入っている『旅路』でフィナーレを迎える神セトリでした。
リクエストコーナーでは、風さんのおうちに宅配便でキーボードが届いて、「寝そべり紅白」を思い出させるスタイルで演奏が開始。わたし個人的にフジファブリック『若者のすべて』のカバーは心が震えました……。
目の前に最高級の食材が出された気分で、こんなに贅沢な時間を過ごしていいのかと、マスクに手元を押しつけて心の悲鳴を抑えたものです。どのカバーも素晴らしかった……!!
そして、ピアノの弾き語りによる風さんオリジナル曲。言わずもがな、まるで体の一部のように鍵盤を踊る指先と、空気をふるわす甘美な歌声。一音一音に愛が込められているパフォーマンスに、わたしの心はすべて持っていかれました。
ほんと、つねに、夢見心地。未だに夢だったんじゃないかと疑うほど、非日常な空間でした。こんなに居心地の良い「home」に招いてもらえて幸せ者です。
なかでも印象に残ったのは、『ロンリーラプソディ』。「曲のなかに息を吸う場所があるから、みんなでいっしょに息を吸いたいと思います」という風さん。
ブレスに近づくと「息を吐いて……」とアナウンス。
「息を吸って……」
「身体のなかにある空気をすべて吐いてぇ……」
「吸って……」
風さんの声に合わせて、会場のみんなが一斉に息をする。声を出せないご時世のライブで、こんな風に会場が一体化する経験ははじめてだ。なんて美しいのだろうか。
それから『燃えよ』のピアノ伴奏が圧巻だった!!指先が滑らかに鍵盤の上を走り回って、風さんと一緒に遊んでいるようだった。もう、かっこいいの、なんのって。
ピアノの知識が乏しいことが、悔しくなるくらい素晴らしい演奏で「すごい、すごい!すっ、すご……!」を心のなかで何度も繰り返した。(圧倒的な才能の前では語彙力も失われてしまうのだな。)
『damm』と『まつり』は、おうちカラオケ風な演出で面白かったな。ジャケットをひるがえしながら(2度の生着替えがあった)、踊りうたう姿が美しいのなんの。ミラーボールみたいな光の当て方など、照明の演出も華やかだった。
なんだかもう、いろんな幸せがいっぱいにステージから飛び散って、やさしい雨になって浴びせられた気持ち。雨でひたひたになった衣服からは羽が生えて、観客はふわふわと風の吹くままに歌の揺りかごのなかで、揺らされるのだ。
永遠に聴きつづけたいと思う音楽に出会えて、わたしは幸せだ。藤井風さん、愛しい時間をありがとう。
またライブに行ける機会があったら、いいな。
藤井風さんの感性に、ベタ惚れです。
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