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ブラック・スワン理論と後知恵バイアス


ブラック・スワン理論(Black swan theory)は、「ありえない、起こりえない」と思われていたことが急に生じた場合にこそ、「非常に強い衝撃を与える」という理論。とりわけ予測できない金融危機自然災害をよく表している。

元ヘッジファンド運用者でもある研究者、ナシーム・ニコラス・タレブが2006年に刊行した著書『ブラックスワン(The Black Swan)』で言及したのがきっかけで、使われるようになった。

欧州では近代まで、全ての白鳥が白色と信じられていたが、1697年にオーストラリアで黒い白鳥が発見されたことにより、鳥類学者の常識が大きく崩れることになった出来事から名付けられたもの。

金融市場に関しては、ブラックスワンの出来事は非常に否定的であり、広範な破壊と悪名高い不確実な結果を残す。その特徴としては以下のようなものがあると、上記のナシーム・ニコラス・タレブは述べている。


1 劇的で広範囲に及ぶ結果を示す可能性を秘めている。

2 予測不能の性質を持つ。そして

3  通常、「後知恵バイアス」が伴う。


後知恵バイアス(あとぢえバイアス、英: Hindsight bias)は、物事が起きてから、それが予測可能だったと考える傾向をいう。

何か事件が起こってから、ああ、実はこうだったのだ、と考えることがある。例えば911のテロ事件にしても、犯人たちの行動の一つ一つを事前に追っていたとしたなら、テロ事件が起こることも予測できたかもしれない。

新型コロナウイルスも同様にこれらの要件を満たしている。パンデミックが突然発生し、どの国もそれに対処する準備ができていないことがすぐに明らかになった。それは確かに「予期せぬ」要件を満たしてることになる。

金融の例でいえば2008年のリーマン・ショック。政治的にはは2016年6月の英国EU離脱、12月の米国のトランプ大統領当選などが挙げられる。

しかしながら、物事の後ろ側から見た光景と前側から見た光景は兎角違うものだ。そこを認識していないと物事を正確に捉えることができず、歪んだバイアスに引き込まれてしまう。

つまりイベントが過ぎ去った後、多くの個人がイベントが実際に予測可能であったことを合理化してしまう傾向があるということだ。

今日では、確率論や従来からの知識や経験からでは予測できない極端な事象が発生し、その事象が人々に多大な影響を与えることを総称したものとなっている。また、ヘッジファンドの運用会社の中には、ブラック・スワン理論に基づいた投資戦略を持つファンドを運用しているところもあるほどだ。

ここで私たちができることは、何か情報を得た時、それが日常の些細なことであっても、後知恵バイアスでないかと疑ってみることだ。情報の受け取り方や認識に問いかけをすることによって、致命的な事態も避けることができるかもしれない。

私たちは情報を客観的に疑問視する能力が欠けていることをまずは認識する必要がある。自らの偏見や信念を肯定する情報ばかりを選び、不都合な情報を避けてしまう傾向があるのだ。ポール・サイモンの言葉を借りるなら、「人は自分が聞きたいことを聞き、残りは無視する」のだ。現代のスピード化社会では、人は正確さよりも速さを、熟考よりも反応を求める。

人は小さな噓よりも大きな噓を信じやすい。そして何度も繰り返せば、大衆は遅かれ早かれその噓を飲み込んでしまう。

ナポレオン・ボナパルトは「話術において本当に重要なことはたった一つしかない。すなわち、繰り返しだ」と言ったとされている。間違った話を何度も聞くと、人は答えがわかっていない問題だけでなく、正確な答えを自分で知っている場合でも、作り話のほうを信じてしまうことが、研究を通じて明らかにされている。  

そんな中でこそ、情報を疑い、自分の頭で考える力を普段から気をつけて養っておくことが大切だ。


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