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小説が生まれる時:宮本輝

宮本輝さんの小説を初めて読んだ時、その言葉の一つひとつから浮かぶ情景が、体中の細胞に満たしていくような、不思議な感覚を覚えた。

以来ずっと、宮本輝さんはわたしの最も好きな小説家の一人だ。その宮本輝さんが話している珍しい講演がAudibleに収録されていた。

「小説が生まれる時」という題名だ。

語り口はスムーズで、ユーモアのセンスに溢れている。書くことに才能のある人は、得てして人前で話すことが苦手な人が多い。村上春樹さんも自分で話すことは苦手だと言っていた。

それなのに宮本輝さんの語り口は、落語家のように聞きやすい。
神経不安症になってから小説を書き始めたこと、太宰治賞芥川賞受賞のこと。そして結核で2年間入院したこと。

芥川賞受賞後、入院するハメになって、その時に多くの小児病等の患者が癌であったこと、周りの人の死に会ったこと。その時の経験がもしなかったら、芥川賞受賞のせいで天狗のようになっていただろうと。宮本さんは言う。

生きることと死ぬことに身近であった体験が、宮本さんの中で何かを変えた。

小説を「書くこと」に関しては、それは乾いた雑巾を絞って、一滴の水を絞り出すような作業だと言う。

長い文章を削ぎ落として、また削ぎ落とす作業を繰り返し。一滴の光り輝く滴りへと続く長い道だ。

シベリア鉄道の暗く、長い旅の中で、粉雪が舞うその雪が一日一日と 降り積もっていくのを見つめるような、そんな体験。それが書くと言うことなのだと、井上靖氏がその著書「心萎えた日に」で述べていたことを例に出していた。

「書くこと」についての深い意味を考えさせられる、そんな気がした。




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