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スランプ、昔モテていた人 & ゼロ・リセット

1冊目である「諦める力」が大ヒット後、「逃げる自由」は為末 大氏の続編とも言える2冊目。相変わらずタイトルの付け方は絶妙だ。

「諦める力」には意外性があって、アスリートだけでなく夢を追いかける全ての人々の参考になる本だと感じたけれど、人生相談形式になっているこの2冊目は、最初は、まあ実践編としてこんなものかなという感想で読み進めていた。

ところがどっこい。

「過去の栄光が忘れられず、キャリアに行き詰まっています」という表題に対する答えが傑出している。エリートして歩んできた質問者がキャリアに行き詰まり、「これまで栄光の道を歩んできたのでプライドを曲げることができません。どうしたらよいでしょうか」と相談している。

それに対する著者の回答が鋭い。

シチュエーションはまったく違うのですが、なんとなく「昔モテていた人」を想像してしまいました。ふわふわと漂いながらいろんな人と付き合っているうちに、いつしか周りに誰もいなくなっていたというようなパターンです。同じモテる人でも何かのきっかけでふわふわした生活に終止符を打って結婚するパターンもあります。違いはどこかの時点で「相手が求める自分のバリューとは何か」に気づくかどうか、だと思います。

回答全てをここで書き写すことはできないけれど、著者の考えは以下に集結されると思う。

転職活動が思うようにいかないのは、今まで「自分が圧勝する試合」ばかりに出てきたということの裏返しとも考えられます。「ノーベル賞受賞者を一〇人以上輩出する世界のK大学」に所属し、「世界の自動車メーカーT社」で働いた経験があるとはいっても、そこで「勝てるか勝てないかわからないレベルの試合」に出て結果を出したのでなければ、それは自信にはつながりません。

ただ、「世界の○○」という「プライド」だけが残ります。だから「地方大学の特任助教」のポジションをむげに断ってしまう。プライドの問題は、これまでの人生をゼロリセットして「さあ、スタート」とやれば全部解決するのですが、これは言うほど簡単なことではありません。

アスリートの世界だと、毎回実力が目に見えるかたちで出るので、そのたびにこれまでの実績も含めてゼロリセットになります。どんなに強い人でもその試合に負けたら負け。それを受け入れて次のレースでどうやったら勝てるかを考えます。

このゼロリセットの考え方は、人生でものすごく大切なコンセプトだ。
さらに著者は続ける。


(中略)。。。特に苦しいのは、一度は輝いた選手がスランプにはまるパターンだ。それまで簡単にできていたことができなくなる。意識しなくてもできたことを意識してしまってこんがらがる。一生懸命にやっていても、頑張っていないように思われる。このどん底状態も苦しいが、さらにその先には世間から忘れられるんじゃないかという恐怖もある。  スランプのときは何をやってもうまくいかない。どこかですっと抜けられたりするパターンもあるけれど、決まった方法があるかといったらない。スランプから抜けられたとしてもなぜ抜けられたのかわからないこともある。


スランプにはまって潰れてしまう選手とそうでない選手を乱暴に分けてみると、「あのときを忘れられるかどうか」に尽きる


アスリートは諦めるなと言われ続けて育っているから、自分に対する期待値を下げることには抵抗があるけれど、短期で期待値を下げることは長期的には諦めないことにつながる。

「あのときを忘れられるかどうかに尽きる」

それは含蓄のある言葉だ。
言い換えれば「ゼロリセット」

華族の未亡人


これで思い出したエピソードがある。第二次大戦の終戦の焼け跡の日本で、
昔は華族の一員として豪勢な暮らしをしていた、ある婦人がいた。

夫亡き後、敗戦後の焼け野原となった土地で、彼女は生きていくために靴磨きを始めた

上等の着物しかもっていなかったので、それを着て橋のたもとで靴磨きをはじめると、「上品なべっぴん」が靴磨きをしている、とうわさになった。

その儲けたお金で彼女はバラックを改装した小さな飲み屋をはじめたら、それもまた繁盛した。

彼女はプライドを捨てて、「自分にできること」をしたのだ。

華族であった自分を、さっと切り替えて生きるための行動に出る
この思い切りと行動力がゼロリセットの力だ。


スランプを超えていく


話を戻そう。さらに著者はスランプに対しての見解を述べている。

よくなっているということをちゃんと自分に認識させてあげるためには今日にフォーカスしたほうがいい。「あのとき」と比べていいかどうかではなく、昨日より今日はよくなったかどうかを自分に話しかけてあげることだ。  メダルを取ってそのあとスランプにはまったときずっと悩んだ。

そして、最後の最後はもう、メダルなんてなかったことにしようと決めた。メダリストからスタートするのではなくて、今ここの等身大の自分がすべてだと思うようにした。

そうすると不思議と具体的に何をやるのかが頭に湧いてきた。もう一回ここから山に登ってみようという勇気が湧いてきた。

つまり、スランプから抜け出して、「強運」をつかむための必要十分条件は「逆境」を通り過ぎることではないのか。それはなにも逆境に向かっていくことではない。時にはスルリと交わすことも大切だ。






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