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【読書録】『そして生活はつづく』星野源

音楽家であり、俳優であり、最近では「うちで踊ろう」が大ブレイクした、超売れっ子のマルチタレント、星野源さんのエッセイ集。

今時の若者が、今時の話し言葉で、独り言をつぶやいている感じ。何度もクスッと笑わせてくれた。下ネタやお下劣ネタも満載で、えっ、そんなことまで書く? 伏字にしなくていいの?と、ドキッとさせられた箇所もあった。以前、別記事で書いた「思わず笑ってしまった本」リストに追加してもよいと思うくらいの面白さだ。私の大好きな浅田次郎先生のエッセイと、ちょっと感じが似ているかもしれない。

星野源さんは、紛れもない天才だと思うが、普段の生活においては、世間でいう、「残念な人」であるようだ。だらしなくて、友達もできなくて、請求書も溜め込み、洗面台をビシャビシャにし、周りからダメなやつだとレッテルを貼られるタイプだとか。だからこそ、独特の感性をお持ちなのかもしれない。もしかしたら、天才には私生活がだらしない人が多いのかもしれない。

私が一番面白いと思ったのは、『子育てはつづく』という作品。星野さんのお母さんの話だ。とにかくおもしろいかった! (以下、ネタバレですのでご注意ください。)

近所の子が遊びに来ると彼女は、「こんにちは、美人のようこちゃんです。」「これからは、美人のようこちゃんと呼びなさい」と言い続け、最終的には近所の子ども全員が彼女のことを「ようこちゃん」と呼ぶようになっていった(p44)。

(お父さんが赤ちゃんの源さんをたかいたかいしている写真を見て)「源はね、このとき、宇宙から落ちてきたのよ」「そう。だから源は、宇宙から落ちてきた星の王子様なの」(※お父さんも話を合わせる。)幼い私は、その話を思いきり信じた。その後、友達にその話をして「ばかかよ」と言われるまで、私はしばらく宇宙人としての自覚を持つようになる(p44)。

(「たけや~、さおだけ~」という竿竹屋の呼び声を聞いて)「ようこちゃんね、実は『たけやさおだけ星』という星の王女なの」「迎えにきたみたい……帰らなきゃ」「さようなら!」そう言い残してようこちゃんは出て行ってしまった。家に一人残された私は、もう二度と会えないんじゃないかと思って泣いた。しかし、1時間ほどして、ようこちゃんはスーパー「マルエツ」のビニール袋をぶら下げてあっさり帰ってきた(p45)。

(風呂場からお母さんの「キャー」という悲鳴が聞こえてかけつけると)そこには栓を抜いてお湯が徐々になくなりつつある湯船に浸かったようこちゃんが、必死の形相でこちらに手を伸ばしていた。「源、吸い込まれるー!排水溝に、吸い込まれるー!」私は泣きながら必死にようこちゃんの手を引っ張った(p47)。

こうやって子どもを使って遊んでいたそうだ。しかし、それは母の愛情であって、遊ばれていたのではなく、遊んでもらっていた、と気づいたという。次の台詞が泣かせる。

「だって、学校行って帰ってくるたびに源の顔が暗くなっていくんだもん。それを無理に頑張って言うのも嫌だし、だからせめて家の中だけは楽しくいてもらおうと思って、いろいろしたの」(p50)

ユーモアいっぱいの「おかん」は偉大だ。

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実は、私も、子どもの頃、私のおかんに、同じように遊ばれたことがある。備忘を兼ねて、この機会に、ベスト3のエピソードを書いておく。

【死んだふり】
なんの前触れもなく、突然、「ウッ」と言って胸を押さえて倒れ、悶え苦しみ、声を振り絞って「わたしは…もう…だめだ、死ぬ…。小さい妹と、弟の、世話を頼んだよ…」と言って、直後にバタッと意識を失うふりをする。そのあと、「ウソだよーん」と言ってすぐに生き返るのだが、小さい私は、同じ手口に何度も騙され、泣かされた。

【牢屋に入るというウソ】
多分私が4歳くらいの頃、母が原付の後ろに私を乗せて、交通違反の2人乗りをしていたところ、たまたま警察に見つかり、違反切符を切られた。母は罰金を払いに行くのに、「おかあさんはこれから牢屋に入りに行くよ。元気でね、さようなら…」と言って、私を家に一人残して出ていった。私はどうしていいやらわからず、一人家で泣いていたら、しばらくして、罰金を払った母は、素知らぬ顔をして帰ってきた。

【美容師の資格を持っているというウソ】
私が子どものころ、私の髪はすべて母がカットしていた。いつも、ちょっとゆがんだマッシュルームカットで、いつも、NHKの「チコちゃん」のようにされていた。友達が美容院に行って素敵な髪にしてもらったのを見て、私も美容院に行きたいと言うと、母は「私は美容師の資格を持っているのだから美容院に行っても同じだ」と言った。後々までそれを信じていたが、真っ赤なウソだった。

こうして書いてみると、ようこちゃんほどではないが、私のおかんも、なかなかやるではないか。

ちなみに、別記事で書いた『おかんメール』という本も大変面白いので、おかんネタが好きな方にはお勧めだ。

すっかり話がそれたが、おかん以外のすべてのエッセイも、とても楽しい本だった。星野さんをますます応援したくなった。


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