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マチューとの出会い(フランス恋物語㊵)

Échangeの会

6月2週目に入ったある日の夕方。

私は、”和風美人な肉食系女子”ミヅキちゃんに連れられて、パリのあるカフェに来ていた。

ミヅキちゃんとは先日も一緒にジヴェルニー日帰り旅行に行ったり、最近よく一緒につるんでいる心強い女友達だ。

今日、私たちはエシャンジュの会(多国籍の人が集まり、お互いの言語を教え合う会)に参加し、あわよくばフランス人の彼氏候補が見付かればいいなと考えていた。

私の条件は「なるべく日本語がペラペラな人」で、ミヅキちゃんの方は「日本語ができなくてもいいから、英語が通じる人」だ。

二人とも「フランス語力が未熟なので、相手選びは負担が少ない方がいい」と、現実的なことを考えての選択である。

「・・・では、行きますか。」

「いざ、出陣!!」

気合を入れて、私たちはそのカフェの扉を開いた。


カフェに入ると手前のテーブルに受付があり、私たちはそこでアンケートを受け取り、自分の名前、話せる言語、希望する学びたい言語などを記入した。

隣で、話せる言語の欄に"Japonais, Anglais"と書くミヅキちゃんを見て、"Japonais"しか書けない自分を情けなく思った。

「あぁ、なんで私はこんなに語学が苦手なんだろう。一応、関西弁と標準語のバイリンガルではあるけれど需要ないしな~」などと、バカなことを考えたりした。

しばらくすると、私の方が先に呼ばれた。

Mathieu

指定されたテーブルには、20代前半のフランス人男性が座っていた。

ガタイががっしりしていて、きつめの目が印象的な野性味溢れる男・・・という印象だ。

どちらかというと優しめな雰囲気の男性が好きな私の好みとは違ったが、地中海を思わせるブルーの瞳は綺麗でいいなと思った。

「Enchantée. Je m'apelle Reiko.」

「初めまして」と自分の名前を告げて、彼の向かいの席に座る。

「こんにちは。俺はマチュー。よろしく。」

なんと彼は、淀みない日本語で自己紹介を始めるではないか。

「!!!!!!!!!!」

いきなり日本語で自己紹介するフランス人に今まで会ったことがなかったので、私はとても驚いた。

しかも自分のことを”俺”って・・・。

マチューは私の驚きをよそに、どんどん日本語で自分の考えを提案してゆく。

「俺は日本語能力試験一級を持っているから、日本語には困らない。

ここには、日本人とナマの日本語を話したくて来ている。

今日は1時間あるから、先に30分日本語で雑談をして、残り30分は俺がレイコにフランス語を教える。

これでどうだろう?」

特に異論はないので、私はその提案を受け入れることにした。

慣れすぎた日本語

それにしても・・・「日本語能力試験一級」って、ネィティブの日本人でも難しいと聞いたことがある。

それをパスしてるということは、かなりの日本語レベルなのに違いない。

確かに、日本語による30分の雑談は問題なく進んだ。

現在大学生で、経済を学んでいるという。

こんなに日本語ができるのに、外国語学部の日本語学科専攻でないことにも私は驚いた。

マチューの話す日本語は訛りも少なく、目を瞑っていると日本人の男の子と話しているのではないかと錯覚を覚えるくらいのレベルだ。

確かに、これなら私が今一番に掲げている「日本語がペラペラなフランス人」という条件にピッタリだろう。

・・・ただ、一つどうしてもひっかかる点があった。

彼は日本語に慣れすぎているせいか、その口から発せられる言葉は露悪的で下品に感じられるものだった。

フランス語レッスン

残り30分となり、私たちは会話をフランス語に切り替えた。

さすがにトゥール時代に比べたらフランス語に慣れてきたとは思うが、やはりところどころで詰まってしまう。

私が「Je ne comprends pas.」(分からない)と言うと、マチューは初めにフランス語で説明しようとした。

それでも「Je ne comprends pas.」と言うと、日本語に切り替え詳しく説明してくれる。

それはとても分かりやすくて、東京で学んでいたフランス語スクールの先生を思い出させた。

「彼氏候補というよりも、フランス語を教えてくれる友達として仲良くなっておいたらいいかも? 何か困った時に助けてもらえそうだし。」

・・・レッスンが終わる頃には、そんな打算的な考えが自分の中で働いていた。

終了時間ギリギリになると、時計を見たマチューが私に日本語でこう言った。

「今日はありがとう。またレイコと話したいから、連絡先交換しない?」

もちろん異論はないので、素直にそれに応じた。

Palais de Tokyo

エシャンジュの会が終わると、私はミヅキちゃんと合流した。

この後、前から行ってみたかったPalais de Tokyo(パレ・ド・トーキョー)前のテラスでディナーをする約束をしていたのだ。

Palais de Tokyoの建物は、1937年、パリ万国博覧会のフランス美術の歴史を紹介するパビリオンとして建設された。
「トーキョー」の名は、セーヌ川沿いの道が1918年第一次世界大戦の同盟国・日本の首都にちなみ「Avenue de Tokio=東京通り」と呼ばれていたことに由来する。
パリ解放後の1945年2月26日に、その通りの名は、第二次世界大戦の敵国である日本由来の名称から友好国アメリカ合衆国にちなんだ「ニューヨーク通り」(Avenue de New-York)に改名された。
しかし、建物の通称はPalais de Tokyoのまま残り、現在に至る。

6月に入ると晴天の日のパリはすっかり夏らしくなり、夜もそこまで寒くない。

私は夏の夜、テラスで夜風に当たりながら、お酒を飲んだり食事をするのがすごく好きだ。  

今日は本当にいいお天気で、ここから眺めるエッフェル塔とセーヌ川の組み合わせはまさに格別だった。

Girls talk

私たちは”Vin rosé”(ロゼワイン)で乾杯すると、今日の報告会を始めた。

ミヅキちゃんの方は「相手は日本語学習中のフランス人女性だが、今後のお互いの勉強のために連絡先交換をした」というものだった。

私は「相手のフランス人男性が日本語能力試験一級レベルなのは良いが、彼の話す言葉が下品なのがひっかかる」と、正直にマチューの欠点を報告した。

「そっか~。日本語ができすぎると、そんな問題もあるんだね。連絡先は交換したの?」

「一応ね。日本語ができる人だから、フランス語教えてもらうのはすごくわかりやすかったし、友達としてはいいかなと思って。」

すると、ミヅキちゃんはいたずらっぽい目でこう言った。

「でも、マチューはレイコちゃんのこと気に入ってるかもよ?」

「そうかなぁ。『日本人とナマの日本語を話したい』と言ってたから、ただ日本人の友達がほしいだけじゃない?」

私が反論すると、さらにミヅキちゃんは核心を突いた質問をしてくる。

「ぶっちゃけ、マチューは彼氏としては、アリ?ナシ?」

・・・食べていたグリーンカレーが詰まりそうになった。

「う~ん、微妙・・・。言葉遣いを直してくれれば考えてもいいんだけど。でも、そう簡単に直らないよね。」

「そうかな~。もしかしたらレイコちゃんの指導で直すかもしれないよ。ほら、レイコちゃん日本語教師だし。」

ミヅキちゃんは、「日本語ペラペラのフランス人」という条件をクリアしたマチューを私に推したいようだ。

「まぁ・・・様子見るよ。また何かあったら相談するね。」

そう言って、報告会は終了した。


食事が終わると、私たちはセーヌ川沿いの小道を散歩した。

22:00ちょうど、エッフェル塔がキラキラと点滅するタイミングに恵まれ、その美しさに私たちは歓声を上げた。 

気持ちよい夜風とロマンチックな風景で上機嫌になった私が行った。

「パリ最高だね!!今度は彼氏とこれを見たいね。」

すると、ワインでほろ酔いのミヅキちゃんはこう答えた。

「確かに~。でも、レイコちゃん、もしかしたら近いうちにマチューと見てるかもよ?」

すっかり忘れていたその名前を言われて、私は面食らった。

「いやいや、それはないって!!」


しかし、この後図らずも、私とマチューは急接近してしまうことになるのである・・・。


ーフランス恋物語㊶に続くー


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