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酔翠夢紫 (すいせい_むし)
2020年9月3日 21:50
今日は、7月のとある日。 昼過ぎに、学食に来た。菊田こと涼介との待ち合わせ場所だ。 貧乏学生でごった返し騒がしいピークタイムを過ぎて、徐々に人の減っていく学食の窓際の席に彼は一人で座っていた。何も言わず歩み寄った。 「涼介、お待たせ」と言って、隣に座る。涼介はテーブルの上に譜面を置いて、書き物をしているようだった。 「大丈夫、ちょうど曲のネタが浮かんだから書いてたとこ」とのこと。 「楽
2020年8月23日 18:21
ある日の昼頃、大学で部活が一緒だった菊田から連絡が入った。オフィスを離れエレベーターホールで内容を思案しながら、電話を折り返す。 「今度、数人で晩メシでもどうよ? 藤川さんも誘って、さ?」という中身。藤川は俺の彼女・桜子の苗字だ。二つ返事で快諾した。桜子もきっと喜んでくれるはず。 オフィスに戻ると、営業課で直属の先輩の大貫さんが意地悪く言う。「篠崎、ヒマそうにしてっけど頼んだ資料終わってるん
2020年6月12日 19:38
学祭はいよいよ2日目。 代わる代わる部員たちの熱のこもったステージが繰り広げられる様子を見ながら、MJG全体のポテンシャルが上がっていることを感じていた。 学祭では代々、部長のリーダーバンドがトリという伝統があるため、菊田組の【菊座衛門】は今年度のラストステージと決まっていた。桜子さんと俺のバンドは、そのひとつ前の出番だった。 「そろそろだろ。篠崎、楽しみにしてるぜ」控室でビールを飲んでい
2020年6月11日 14:43
秋の訪れを感じさせる頃、俺はスタジオで練習していた。他のメンバーもいる中で、佐々木さんもいた。俺はサックスを提げたままピアノに座り、コードを鳴らしながらサックスを吹いていた。 実のところ佐々木さんには、俺から一方的に気まずい空気を感じている。 というのも先日のこと、生まれて初めて告白とやらをされたのだ。佐々木さんから。 「篠崎先輩のことが好きなんです!」 ある日の練習帰り、欅並木の途中
2020年6月10日 14:48
桜子さんが内定をもらったのは、日本に本社のある某有名楽器メーカーだった。俺はあとでそのことを聞いてびっくりした。あの人、本当に俺のアドバイスを真に受けたらしい。桜子さんの大事な人生の岐路に、俺がいた事は何だか少し誇らしいといえばそうなのだが。 さてMJGといえば、毎年恒例の夏合宿に突入していた。仕切りは既にD年に任せているので副部長としてやることはあまりない。部員が呑み過ぎで度を越したバカをや
2020年6月9日 15:01
5月のある金曜日の夕方、セッション前の練習も兼ねて部室もスタジオも部員であふれていた。俺は部室で当時異常に安かったマックのハンバーガーをカーペットの上に6個並べて、黙々と食べていた。玲奈をはじめとする沢渡・荒川姐・沢木のガルバン部隊からは「副部長、何かの宗教儀式みたいで気持ち悪いです」と言われていたが、しょうがない。腹が減ったし、この後のセッション用の燃料だ。黙々と食い続ける。 「てめーこんな