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ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑳~ 調査を振り返って

今回は、持ち物レビュー、費用レビュー、そしてあとがきを少々。たいして面白くありませんが、振り返りは重要です。

■ 持ち物編

持ち物は、こちらの記事で書いたとおりである。総重量は45kgほど。この中で、いらなかったもの、あればよかったものを。

<調査機材>

・スコープ(やや不要)
 意外と使わなかった。双眼鏡でほぼ事足りるというのもあるが、高倍率のコンパクトデジカメ、ニコンのP900を持って行っていたので、遠くはこれで確認したり撮影したり。

<個人装備>

・ヘッドライト(不要)
日本での調査や登山だと必須だが、考えてみれば白夜。必要になるはずもなく…
・胴長(不要)
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑥~ ヤクーツク編その2 で書いたが、実際に今回のツンドラでの調査では、胴長は確かに不要であった。股下までの特長は、履くのもすぐだし、蒸れない。ツンドラでは股下までで充分であった。
緯度がもう少し低ければ必要になるのかもしれない。
・コンロ(不要)
念のため、ホワイトガソリン式のものを持って行ったが、そもそも調理器具は向こうで揃えてくれているよな…
・ソーラーチャージャー(あってよかったもの)
大活躍。Ankerの3000円くらいの安いものを買っていったが、普通にデジカメも充電できた。しかし、くもりの時に接続しっぱなしにすると、逆にバッテリーから放電した締まったので、扱いは注意!
・変圧器(不要)
そもそも今の時代、変圧器が必要な機械はほとんどないのではないか…
・防寒着(足りなかった)
厚手のダウンやスキーウェア的なものが必要だったか。厚手のものを借りれたからよかったものの…。かさばるので、端から先方に借りる前提でもいいかも。
・紙パンツ(不要)
衛生面やフィールドでの洗濯の手間も考えて、紙パンツを持って行って使い捨てしようかと思っていたのだが。そもそもあまり汗をかかなかった。これも、もう少し低緯度になると違ってくるかもしれない。
・薬類(足りなかった)
怪我したりした時の救急セットはそれなりに充実させていたのだが、薬類をあまり持って行ってなかった。ベッドも変にふにゃふにゃだったり、寝る環境が悪いので、肩こりや腰に負担がきたりする。サロンパス系や腰のサポーターなども持っていくべきであった。
・星座早見盤(不要)
なんで持って行ったんだろうか… 登山の時にはあると結構面白くて、つい持って行ったのだが、、、いや、白夜で星なんて見えるはずもない。

フィールドが変われば、荷物も変わるだろうが、次の調査の参考に。

■ 費用編

今回の調査では、ロシア側の調査受け入れ費については、雁の里親友の会が出してくれ、旅費や生活にかかる費用は個人負担、という形であった。

個人費用としては、現地でかかったものは、おおよそこのくらい。記録していないものもあるので、だいたい45万くらいか。ここから削れる費用もあまりないような感じである。

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ロシア側の調査受け入れ費としては、下記のようなものがあると思われる。(私が交渉に携わったわけではないので、正確にはわからない)。

・ロシア人研究者の人件費(フィールドに入った人2人分)
・ロシア人研究者の旅費
・レナデルタ保護区入場料
・ボート借料
・ガソリン代(600リットル)
・装備運搬費(チクシ→ボート出発地点まで)
・食料 4人×20日分
・ヤクーツクの永久凍土研究所への謝金
 (調整もかなりしてもらっているので、たぶん払っているはず)
・保険代
(フィールドで何かあったときのため、ヘリで迎えに来てくれるような体制にしてくれていたらしい。)

ざっと、150~200万くらいではなかろうか。当初の計画であれば、ボートでなく、ヘリコプター(180万くらい)で調査地まで行く予定であったので、さらに金額は高くなるだろう。

まぁ、ロシア研究者がやっている調査のついでに、日本チームが乗っかるのであれば、まだ費用は抑えられるであろうが、今回のように日本チームが海外調査を企画して、北極圏のへき地でロシア研究者の協力をあおぐとなると、それだけで簡単に200~300万くらいはかかってくるだろう。

この調査で、北極圏の調査とはどんなものか、何にお金がかかるのか、ということを知れたことは、今後の研究生活の中でも大いに役にたつ財産となったと思う。

■ 調査を振り返って

今回、1か月という長期間にわたり、北極圏でコクガンの調査を実施するという貴重な機会をいただくことができた。調査にお声がけいただいた池内俊雄氏をはじめ、1か月間生意気な若造に付き合ってくださった佐藤達夫氏、調査を受け入れて下さったロシア科学アカデミー永久凍土研究所鳥類学室、レナ・デルタ国家級自然保護区の方々、不在の間仕事をフォローしてくださった職場の方々、調査にご支援、応援をいただいた方々、全ての温かいご支援により、無事調査を終えることができた。
調査を終えて改めて感じたことは、

「やりたいことを普段から宣言しておく」

ことが大事だということ。普段から「ロシアで調査してみたい」と言っていなかったら、まず、池内氏にお声がけいただくことはなかっただろう。仮に声がかかったとしても、職場で「なんで急にロシアなのか?」と言われていたであろう。理解を示していただいた周囲の方々に改めて感謝を申し上げる。

この調査が出発点となり、現在もコクガンの渡り研究を継続中である。私を憧れのツンドラに連れて行ってくれたコクガンには、きっちりと研究成果をあげ、さらにそれをもとに保全につなげて、恩返しをすることが使命だと感じている。

研究成果を保全につなげていくには、まず第一に「多くの人にコクガンのことを知ってもらう」必要がある。
どうしても、研究成果の発信だけだとつまらないし、単調になるので、それにまつわる苦労話や裏話も含め、今後も発信を続けていこうと思う。

ここまでミニ連載に目を通してくださって、ありがとうございました。
(了)

【過去記事】
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ①~ はじまり編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ②~ 資金集め編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ③~ 準備編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ④~ 出発編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑤~ ヤクーツク編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑥~ ヤクーツク編その2
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑦~ チクシ編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑧~ チクシ生活事情
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑨~ いよいよチクシ出発
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑩~ レナデルタ潜入
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑪~ METEO散策
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑫~ 調査拠点到着
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑬~ 北極圏の洗礼
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑭~ シギチ天国
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑮~ コクガンコロニー上陸①
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑯~ コクガンコロニー上陸②
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑰~ 続・ニェルパーハ島探検!
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑱~ フィールドでのとある一日
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑲~ 旅の終わり

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