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ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ①~ はじまり編

この連載は、2016年6月14日~7月18日にかけて行われた「ロシア・レナ川河口におけるコクガン調査」の回想録です。渡り鳥のコクガンを追って、北緯72度の北極圏まではるばる行ってきました。これがきっかけでコクガンの研究に携わるようになり、現在の職にもつながっています。今の私の原点になったような調査でしたが、北極圏で行って調査するというのはいかに厳しいことなのか、渡り鳥は自力で北極圏まで渡って戻ってくるという偉業を毎年やっているのかと、改めて感服しました。ここではそんな珍道中を連載していきます。

レナデルタ全体行程↓

全体行程

レナデルタ最後の日↓

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レナデルタ衛星写真(NASAより)

2016年当時、私はとある一般社団法人に勤めていました。そこでの仕事は、環境保全活動のための資金集め、いわゆるファンドレイジングというやつです。環境保全に関わってはいますが、現地調査などない仕事です。そんな中、5週間にもわたりお休みをいただいて、ロシアの北極圏の調査に参加してきたのです。今回は、「どうやって5週間も休めたのか」からお話しします。

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■ はじまりは突然に

2016年3月19日(土)、雁の里親友の会の池内俊雄氏より一本のメールが入ってきた。
「レナ川河口でのコクガンの捕獲調査の時期が決まりました。行く希望があればご連絡下さい。」

かねてより北極圏に憧れを抱いていた私は、直感的に「行くしかない」と思った。
そう、なぜ私が北極圏に憧れを抱いていたのか。。。それはまたの機会に。

期間は、6月15日から約1か月。色々乗り越えなければならないハードルがあるが、最大の難関は期間の長さであった。私も一応、働いている身である。1か月も仕事を不在にすることができるのであろうか…。そんなことを思いながら、年度末の慌ただしい業務も悶々とこなしていった。

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上司に相談するならば、機嫌が良い時を狙わなければならない、と思っていたところ、年度末業務が落ち着いた4月5日、上司と打ち合わせの機会があった。
「今年も1年間お疲れさまでした。まぁ頑張りましたねー」と。
おぉ、なんか褒められているぞ!?ここだ!今しかない!!!と思い、上司に切り出す。
「あのぉ…、コクガンの調査に誘われてまして。6月15日から1か月ほど、北極圏に調査に行きたいんです。」 上司の表情が一気に曇る…
「仕事どうすんの?」 と、ぼそっと。当然である。
「なんとかします!」 と、その場を切り抜けようとする。
「即答はできません。その間の仕事をどうするのかも含めて考えてみてください。」
短い会話に見えて、実に長い沈黙があった(ような気がする)。さすがに無理そうな気がする、というのが第一印象であった。

しかし、次の日、なんと上司から
なかなかあるチャンスではないし、前からロシアに行きたいとずっと言っていたし、前向きに検討します。」との言葉!
その後、期間は短縮できないかとか、フィールドでも連絡をとれるようにしろとか、仕事を洗い出して誰がフォローするか決めろとか、色々言われたような気もするが、もはやあんまり上司の話は聞いていなかった。

前向きに検討します → 行ける!

と確信した私は、社内外問わず周囲の方々に「1か月ロシアに行くんですよー」と、既成事実を作ることに奔走した。
そして、行くことを全体に、できるだけ仕事の〆切が調査期間に重ならないように調整していった。さすがに上司ももはやダメとも言えないのであろう。どうしても調整できそうにないものは、きりの良いところまでなんとかやりきって同僚に引き継ぐ、ということで調整することとなった。

しかし、その時点で自分が持っていた有給は20日。5週間だと5日ほど足りない。総務担当の方に確認すると
 総務「足りない部分は欠勤ということでいいのかな?」
といわれたので、
 私「いやです。帰ってきてから休日出勤するから代休を先に使わせてください」
と回答。今にして思えば、わがままでむちゃくちゃな要求だと思うが、なんと、その要求が通ったのである!
びっくり。

かくして、私はロシアへの切符を手にしたのであった。
つづく

ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ①~ はじまり編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ②~ 資金集め編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ③~ 準備編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ④~ 出発編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑤~ ヤクーツク編

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