chiru-ko

Twitter:@sekihinchildren 思いつくまま、心のままに綴る場所。

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最近の記事

rose-rosy-rosarium(3)

スティーヴはフィルの隣に腰掛け、タバコを取り出して火を付けた。血の付いたフィルターに構わず煙をくゆらせている。煙草が吸えるくらいなら大丈夫だろう、とフィルは思った。 「さて、スティーヴ」フィルもタバコに火を付けた。「今日の俺達はなんでここまで来たんだっけね?」 スティーヴは下を向き、深呼吸してゆっくりと「いちおう、気分転換」と言った。 ・・・手を血まみれにするのが気分転換かい、まったく。 「ねぇ、フィルはさ、・・・ギター弾くのが嫌になった時ってないの」 「GIRLの時はあった

    • rose-rosy-rosarium(2)

      「あそこがバラ園の入り口ぽいな」とフィルが指差す向こうには薄いピンクのバラのアーチが立っていた。「アレか!!わーい、やっと着いたね」ようやく笑ったスティーヴに、フィルはホッと胸をなで下ろした。「時間はあるからゆっくり行こうぜ」こいつは自分の好きな物があると一目散に飛び出して行ってしまう。子供の時に飼っていた犬そっくりだ。自分が行きたいって言ったくせに、ロクに花も見ないのか。多重咲きの美しいピンクのつるバラ達が、まるで歓迎するかのようにテラーツインズの頭上に広がっているというの

      • rose-rosy-rosarium(1)

        ” bed of all roses " (仕事・状況などが)最良なこと "Everything is not roses" 万事好調とは行かず " Every rose has its own thorn."(諺)綺麗なバラにはトゲがある=完全な幸福は無い ・・・だよねぇ、と口の中で呟き、くすりと笑ってリック・サヴェイジは顔を上げた。 Hey,Sav!「おーい、サヴ!Sa—v?」  ハッと気付くとフィルがサヴの顔を覗き込んでいた。「あ?あぁ、・・・ごめんフィル。

        • 早世するギタリスト達

          手芸なら何でも出来ると言って良いくらい器用な母は、手の込んだ模様編みのセーターを作っては問屋経由で売っていた。編み物仕事のBGMは洋楽ヒットパレードなどのラジオ番組やレコード、叔母が作る「お好みカセットテープ」だった。KISSやローリング・ストーンズなど、好きな曲が掛かれば仕事も捗りご機嫌であった。 「…えっ?」 調子良く編み機をザーザー言わせていた母が怪訝な顔をして手を止めた。「どうしたの?」向かいで塾の宿題をやりながら訊くと、ちょっと黙ってて、と指を唇に当てる仕草をし

        rose-rosy-rosarium(3)

          短歌1

          2020.11.11 ベースの日に寄せて。 ○ たはむれの 投げキス残し去る君の ベースの余韻 刺さったままで ○ ヒステリア 君が爪弾くリフレイン 私の中の五番目の弦 2年前の10月末から約1ヶ月、魂を持って行かれた状態でうわの空だった。そんな時は長い文章を紡ぎ出すよりも短歌の方がしっくり来る。 良い歌が詠めたらまた上げていきます。

          ジョーのクルクルの秘密

          ジョー・エリオットはくせっ毛である。  生まれついてのサラサラストレートヘアーってアングロ・サクソン人種では少ないのではないだろうか。(少なくとも俺の周りでは見たことがない)ジョーとの付き合いは、奴がATOMIC MASSのオーディションを受けに来たときからなので、もう何年になるだろうか… 大柄で目立つ雰囲気のその男は「ジョー・エリオット、18歳だ」と名乗った。ギターもドラムもそこそこ演奏できるのは分かったが、 俺達と大して年が変わらないのにこの貫禄は一体どこから来ている

          ジョーのクルクルの秘密

          Midnight Rose

           今夜はちょっとビールを飲みすぎたようだ。ベッドサイドの時計はとっくに0時を回っている。今日は久しぶりにジョーとサッカーを見に行き、延長戦の末にシェフィールド・ウェンズデイは全く良いところなく負けてしまったのだ。贔屓チームの負けが込むと杯が進む。というか、飲まずにいられるか。話はいつしかバンドのこと、音楽のことになり、ジョーとサヴは肩を組みやっとのことでこの合宿所に帰ってきたのだった。なんとか2人はシャワーを浴びた。 ジョーはロクに髪を乾かさないまま、ほぼ墜落睡眠状態で寝て

          Midnight Rose

          浴衣(5)

          「痛ぇぇぇ!」見つめ合うツインズの後ろではジョーがリズム隊の二人の肩をぎゅうっと掴んでいた。「おいおい何じゃありゃあ…フィルの野郎調子に乗りやがって…」「ジョー、痛いってば!」「あ、悪い悪い、ちょっと一言言わないと…コラーッお前ら、イチャつきすぎだぞ!」ジョーはおもむろにプリキュアのお面をかぶり直してツインズに近づいていった。  「…最近大胆になってきたな…おお痛ぇ。」 サヴの肩にはジョーの爪痕が出来ていた。あんなキスくらいで怒るようじゃ、真夜中のベッドシーン見ちまったら

          浴衣(5)

          浴衣(4)

          お祭りは俺達の宿泊場所から歩いて数分の場所でやっていた。綺麗な浴衣を着せてもらいテンション高めのスティーヴがニコニコしているのを見るだけで暖かい気持ちになってくる。「みんな早くー!もう始まってるよ!」 ステージでもないのに先頭で駆けだしていくのは本当に珍しい。「分かったから落ち着けよ、逃げやしないって」と苦笑いするジョーもどこか表情が柔らかい。大柄な彼が選んだ浴衣はどうも丈が不足気味で、にょきっと出た手首と足首が夏風に吹かれている。  「お面がいっぱい売ってる」と入ってす

          浴衣(4)

          浴衣(3)

           スティーヴの選んだ浴衣地は、けぶるブロンドの髪と抜けるような白い肌を引き立てる、ピッタリの色味だった。夕焼けの雲のような、フラミンゴのような、独特のピンク色だった。この国独特の色なのかもしれない。それに合いそうなくすんだ黄色の帯を用意してもらった。「お鏡どうぞ」と勧められたスティーヴは「うわー、俺が可愛すぎる」と大はしゃぎ。いや、まったくだ。「ねぇ、フィル?」 急に振られて俺はぎょっとしてしまい、「顔色が良く見えるな」と言ってしまった。  「もう!病人みたいな言い方するなよ

          浴衣(3)

          浴衣(2)

          この宿の人気サービスのひとつが宿泊客への柄物浴衣無料貸出だそうだ。もちろん着付もやってくれるし、日本風の履き物や小物も貸してくれる。俺たちはソロゾロと連れ立って行ってビックリした。浴衣は普通に日本人が着るようなしっかりしたもので種類も豊富だった。 「へぇ~、てっきり観光客向けだと思ったら意外に選べそうだな」お洒落が好きなサヴが目を輝かせる。 「うわー、見て!コレ、可愛い!!僕にピッタリだと思わない?」とスティーヴが指さしたのは、店の入口のディスプレイだった。ピンクの地に紫の

          浴衣(2)

          浴衣(1)

           大きな花火が頭上で弾けるのを見て、ボーイズは大興奮だった。「野外フェスで演奏して最後にこんな花火上がったらサイコーだろうな」「うわ、ストーンズみたい!」 「ねぇ、明日もまだオフでここに泊まるんでしょ?僕もお祭り行きたいよう!」とリッキーが鼻を鳴らした。 「ギターのお兄さん達ばっかりズルいよ」 ギターのお兄さんこと俺たちは顔を見合せ「…だって〜」「どうする?」 「早い時間から行けばいいんじゃない?」 「楽しかったから皆で行こうよぉ」とスティーヴがニコニコしている。 「サヴはど

          浴衣(1)

          金魚すくい

          https://note.com/terrortwins2020/n/n4c4a48ffe0a2 のお話の続きです。 (ボーイズは翌日、揃ってお祭りに出かけました)  俺たちはひととき、子どもに帰った気分で騒いだ。ジョーは射的でお菓子を当て(本当は大きなプラモデルを狙ったのだがやむなく外れてお菓子になった)リッキーは右腕一本でモグラたたきを楽しみ、俺とスティーヴは楽しそうな仲間を見て目を細めた。  「あれ?サヴどこ行った?」煙草でも吸ってるのかと思ったら金魚すくいの店先

          金魚すくい

          祭りのひよこ🐤

          「あー、何このひよこ、かわいー」 急にしゃがみ込んだスティーヴは色とりどりのひよこを手に取った。 白っぽい小さな身体を赤いまだらに染めた1羽が2人によちよちと寄ってきた。 つぶらで曇りの無いちいさな瞳がこちらを真っ直ぐ見て、身体に似合わない大きな声でピィ!と鳴いた。 「ハハ、何こいつ。俺を選んだつもりかな」 「ねぇ知ってる?」スティーヴは声をひそめた。 「こういう屋台で売ってるヒヨコってすぐ死んじゃうんでしょ」 思わず顔を上げると、スティーヴが小さなヒヨコと同じ瞳をしてフィ

          祭りのひよこ🐤