浴衣(3)

 スティーヴの選んだ浴衣地は、けぶるブロンドの髪と抜けるような白い肌を引き立てる、ピッタリの色味だった。夕焼けの雲のような、フラミンゴのような、独特のピンク色だった。この国独特の色なのかもしれない。それに合いそうなくすんだ黄色の帯を用意してもらった。「お鏡どうぞ」と勧められたスティーヴは「うわー、俺が可愛すぎる」と大はしゃぎ。いや、まったくだ。「ねぇ、フィル?」
急に振られて俺はぎょっとしてしまい、「顔色が良く見えるな」と言ってしまった。
 「もう!病人みたいな言い方するなよ…そういう時はもっと良い言い方があるのに~」・・・だよなぁ・・・と思ったので「それで決めるならもう着付けてもらっちゃえよ。あまりのんびりしてるとお祭り見る時間が短くなるから」と時計を見て目をそらした。「そういやサヴは決まったの?」
 「・・・あー、どっちがいいと思う?」
サヴが見せたのは深緑色の笹の柄と、黒っぽい地に銀色のうんと細い縞が入ったもの。「これもいいんだよねぇ」と指さしたのは、焦げ茶に抽象的な渋い柄。「・・・お前、いくつよ?ちょっと渋すぎじゃね?」「えー、そうかなぁ?」とっかえひっかえ当ててみて、サヴは結局深緑の浴衣にした。
 ジョーは気に入った柄だとどうしても丈が中途半端になってしまい、ややふてくされ気味。俺は迷わず、スティーヴの着物の隣に飾ってあったもの。なんとか全員、帯や小物を選んで着付けてもらう。さすがに女物を選んだのはスティーヴだけだった。「足元はビーチサンダルでいいか。」日本風の下駄も履いてみたけど足が痛くなりそうなので諦めた。

「お待たせ~」着付けてもらって出てきたスティーヴに、誰かが口笛を吹いた。「日本では、長い髪の毛は上に上げた方が着物が引き立ちますよ。あなた似合うからサービスね」と言われ、なんとスティーヴは女の子のように髪をあげてもらっていた。和風の可愛らしい髪飾りを付け、うなじの産毛がなんとも色っぽい。

 「おいおいヤバイんじゃないか?日本の男にナンパされないようにフィルに守ってもらわないとな」ジョーがニヤニヤしている。久しく見たことのない笑顔ではしゃぐスティーヴ・・「犬っころみたいに首を振ると髪が崩れるぞ」抜けそうなピンを差し込んでやると「ありがと」スティーヴの目の色と同色の髪飾りがしゃらんと優しい音を立てた。

 「なーんかいいムードだよな~」とサヴもニヤニヤしている。「彼氏さんも着付けましょ♪」…もうされるがままだ。初めて着てみた浴衣は帯でビシッと締まるのに風通しが良く苦しくない。リッキーは白っぽくて古風な柄を選んだ。「日本のキモノが着てみたかったのは、左腕が目立たないかもって思ったからだ」と言っていた。着付けの人は特に何も言わず上手に仕上げてくれたので、随分嬉しかったらしい。

「みんな着終わったかな?」
酔っぱらって着崩れる前に、と5人浴衣姿で記念写真を撮ってもらった。
「ねぇもうすぐ4時だよ、早く行こうよ❗」とはしゃぐスティーヴに俺は「ちょい待ち」と怖い顔を作って言った。何だよもう~と膨れた頬をつついて、

「いいかスティーミン、お前な、そのカッコで立ちションだけはするなよ。みんなの夢が壊れるから」

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