浴衣(5)

「痛ぇぇぇ!」見つめ合うツインズの後ろではジョーがリズム隊の二人の肩をぎゅうっと掴んでいた。「おいおい何じゃありゃあ…フィルの野郎調子に乗りやがって…」「ジョー、痛いってば!」「あ、悪い悪い、ちょっと一言言わないと…コラーッお前ら、イチャつきすぎだぞ!」ジョーはおもむろにプリキュアのお面をかぶり直してツインズに近づいていった。

 「…最近大胆になってきたな…おお痛ぇ。」

サヴの肩にはジョーの爪痕が出来ていた。あんなキスくらいで怒るようじゃ、真夜中のベッドシーン見ちまったらどうなるんだろ。

「おーこわ」痕をさすりながらサヴは下を向いて笑った。「…フィルってさ、自分の彼女にもあんなこと言わないのにスティーヴには甘々なんだよねぇ」とリッキーがこまっしゃくれた顔で言った。「時々不安定なんだよな…大丈夫かな」リッキーが誰のことを言っているかは明白だった。サヴはすぐには答えずタバコの煙を吐き出した。「俺の顔見ても答えは書いてないだろ」…2人ともいい大人なんだから知らねぇよ、と言うほど機嫌が悪いわけじゃない。ツインギターの仲が良いのは(限度があるかもしれないが)結構なことじゃないか。

 前ではまだ3人がワーワーやっている。

 「ギャー、そのお面で来るとコワいよ」とスティーヴはフィルの後ろに隠れ、フィルは「邪魔すんなよジョー、いくら羨ましいからって…」「ナニーっ!!」

「…『お嬢ちゃん』のことは『彼氏』にまかせとけば。あいつが一番奴の扱いを知ってるよ。ただし、変わったことがあったらすぐ教えろって言っておけばいいじゃん。」サヴはクルクルの前髪をかき上げて、ギリギリまで短くなったタバコを喫煙所の灰皿に押し付けた。「時々さぁ、あの2人の間には入り込めないなと思う時あるよね」リッキーがタバコをくわえたのでサヴは自分のに火を点けるついでに点けてやった。「別に排他的ってほどじゃないけど…」「そうかぁ〜??」

 いつの間にかふくれっ面のジョーが戻ってきていた。「まだ怒ってんのか。それはね、お前さんの、ヤ・キ・モ・チ」とサヴはニヤッと笑ってジョーの顔の前で人差し指を左右に振った。「なんだよサヴまでー!」「カッカすんなよ、リーダー。俺たち2人がいるじゃないか」なぁリッキー?「まぁねぇ〜。2人分には腕一本足りないかもしれないけどさっ」とリッキーは「俺しか言えないジョーク」を言って「俺は右腕一本でモグラ叩きやってくる!」と背中を向けた。「機械壊すなよー」と言うジョーに「ゲームセンターの機械を故障させた誰かさんに言われたくないよーだ」とあっかんべーをした。 「ちぇっ、どいつもこいつも…面白くねぇから射的でもやろっと。」でっかいプラモデルを当ててお土産にしようと思ったのにこれがまたうまくいかない。「ハイお兄さん、残念賞!」と渡されたのは日本のお菓子だった。

 ジョーったら脇が甘いんだよー。リッキースゲェなー!モグラ出てこられないじゃん。あれ?サヴはどこ行った?金魚すくいやりたいのかな。…昨日のひよこ、まだ売れ残ってる。ダメだよこっち来ちゃ。俺たち明日帰るんだから。…フィル、待って、もう少し一緒にいてよ。わがまま言わないからさぁ、ね?…みんなと思い出作りたいんだ。いっぱい写真撮ってね?ヘイ、ジョー、俺たち2人の写真撮ってよ!

 あの日。遠い国で過ごした夏の終わりの一日。俺たちはみんな子どもに戻って、たくさん笑った。仕事を忘れ、行く先の心配も忘れ、ひと時をはしゃいで楽しんだ。特にスティーヴは後々まで「あの時、浴衣着てみんなで行ったお祭り、楽しかったよねぇ」と言っていた。目を閉じればスティーヴの屈託の無い笑顔と、泣きべそ隠して無理やり笑っている顔が交互に思い浮かんで、俺の鼻の奥をツンと熱くさせる。


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