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rose-rosy-rosarium(1)

 ” bed of all roses " (仕事・状況などが)最良なこと

"Everything is not roses" 万事好調とは行かず

" Every rose has its own thorn."(諺)綺麗なバラにはトゲがある=完全な幸福は無い

・・・だよねぇ、と口の中で呟き、くすりと笑ってリック・サヴェイジは顔を上げた。

Hey,Sav!「おーい、サヴ!Sa—v?」

 ハッと気付くとフィルがサヴの顔を覗き込んでいた。「あ?あぁ、・・・ごめんフィル。何?」「さっきから声かけてるのに反応ないし・・・何やってんだ?眼鏡かけて辞書なんか読み耽っちゃって。」「・・・いや、たまには歌詞でも書いてみようかなと思って。そしたらジョーが『辞書って使えるぜ』って言うからさ」Wow,とフィルが目を丸くした。「どんな歌詞だい?」「roseって単語を入れてみようかと思って」「え、題名?」「・・・まさか。ウチらのVo.にroseなんとかって曲は、」二人は顔を見合わせて同時にこう言った。

 「似合わねぇ〜〜〜!」ゲラゲラ笑いながら「アメリカのバンドじゃないんだから!とか言いそうだよな」「全くだ」フィルとサヴがクスクス笑っているとジョーが咳払いしながら部屋に入ってきた。「フィル、どこぉ?」とスティーヴがやってきたのもほぼ同時だった。「あれ、サヴ何やってんの?」「曲作るの煮詰まっちゃったから歌詞でも書いてみようかと思ってさ」サヴが辞書を持っているのを見てジョーはニヤリと笑った。

 「ねぇーフィル、どっか行こうよぉ〜。この間バラ園があるとか言ってたじゃない。行ってみたーい」スティーヴがフィルに向かって鼻を鳴らしている。眼鏡を外しながらサヴが「バラ園だって?どこに?」と振り向いた。「シェフィールド植物園の中にあるだろ」そんなのあったっけ?シェフィールド植物園といえば約200年の歴史を持ち、5000種以上の植物が見られるスポットだ。「・・・中学校の校外授業でスケッチしに行ったのが最後だなぁ」とジョーは天井を仰いだ。小学校の社会科見学で行っただの、初デートの場所だっただの、と皆が口々に言うのを聞いていたリッキーは「僕、行ったことないや。覚えが無い」と言うと一瞬皆が固まった。

 「え〜〜〜っ?!」「だって、何だかんだ忙しかったからね。特に中学生になってからは」・・・そう、リッキーがドラマーとしてプロデビューしたのはローティーンだったから。「ねぇ、行ったことないのに言うのもナンだけど、・・・」とリッキーは言い淀んだ。「何だよ?何でも言ってみろ」とジョーが促すと「あのさぁ・・・植物園て、野郎5人で行っても楽しいのかなぁ??」

 他の4人は一瞬顔を見合わせた後、大爆笑した。「リッキー!なかなかいいこと言うじゃねーか!」とジョーはくしゃくしゃとリッキーの頭を撫で、サヴは「腹イテェ」としゃがみこんで笑っている。「ちょっと!いつみんなで行くことになったのさ!」とスティーヴは口を尖らせた。「元々、フィルにバラ園連れてってって言ったの俺だもん。ねぇフィル?」「そうだけどさ、たまには皆で行くのもいいだろ。息抜きだよ」「わかったよ・・・俺が運転するんだろ?」ジョーはバンの鍵をじゃらりと出した。バンはちょっと狭いが20〜30分で着くはずだ。「察しがいいねぇ、さすがジョーだ」とフィルがウインクする。「帰りは誰か運転代わってくれよな。サヴ、道わかる?」「・・・あー、なんとなく」サヴは助手席に座り、残りの3人が後部座席に座った。「でもさぁ、ロンドンっ子のフィルが何でシェフィールド植物園を知ってるの?」「死んだ婆ちゃんが庭仕事好きでね。小さい頃に一度だけ連れてこられたことがあるんだ。婆ちゃんがすごく喜んでたんでよく覚えてる」へええ!意外!ボーイズは顔を見合わせた。「化石があったり、クマがいたけどまだいるのかな」「クマぁ?何で植物園にクマがいるのさ」「知らねえけど昔はいたよ。ガキの頃見た」もうすぐ着くぞ、とジョーは言って駐車場の看板を探した。道は空いていて思ったより早く着きそうだ。駐車場は広いし入場料はタダである。趣のある美しい建物がボーイズを迎えた。

 「じゃ、4時にここ集合な」と時計を見るジョーを尻目にスティーヴは「ハイ、後は自由行動!」と言ってさっさと中に入っていった。おい待てよ、とその後をフィルが追ってゆく。

 「・・・飽きないのかねあいつら」ため息をつくジョーを見て「飽きないんじゃね?」とサヴはクスクス笑った。ジョーったら運転しながらバックミラーちらちら見てるし、やきもち丸出しだ。可愛いヤツ。「・・・後つけようかな」というジョーの目がまんざらでもない。「えぇえ?初めて植物園に来た俺を案内してくれるんじゃないのかよ」「おー、そうだった。早速行こうぜリッキー!尾行は独りでやれよ、ジョー」「えー、ヤダよ!独りで後をつけたら変態みたいじゃないか」変態!ヘンタイ!俺たちはガキみたいにゲラゲラ笑った。「行こ行こ。そのうちあいつらに出くわすかもしれないし」


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