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#短編小説

冬の夜の夢

冬の夜の夢

その日、僕は深夜の高速道路を走っていた。

少し疲れたので、途中のサービスエリアに寄ってコーヒーでも飲むことにした。こじんまりとしたそのサービスエリアは、夜中ということもあってひっそりしていた。
カップベンダーコーナーの窓だけが不釣合いなくらい明るく手前の舗道を照らしていた。

僕はコーヒーを選び、後ろのポケットに突っ込んだままにしていたコインを引っ張り出して、ベンダーに入れようとした。

そのと

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上昇気流

上昇気流

入梅 (つゆいり) 前のからっと晴れた日に T シャツを干すことくらい気持ちの良いことって他にあるかな?

  ・・・

入梅前の晴れた金曜日、僕は君が会社に行くのを見送ってから、部屋の窓とカーテンを全開にして、洗濯機に洗濯物を放り込んだ。
ポットでお湯を沸かしながら、仕事の準備をする。
公園の上を通り抜けた風が勢いよく部屋の中に入ってきた。

  ・・・

洗濯物を干し終わってから、僕は落とした

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象との夏。―  あるいは、スウィート・ホーム・アラバマ

象との夏。―  あるいは、スウィート・ホーム・アラバマ

「ビールが美味い季節になってきたね」 と僕が言った。

「まぁ、僕の故郷では年中こんな感じさ」 と象は教えてくれた。

「夏が来ると、故郷が恋しくなったりしないかい?」

「年中、恋しいさ。でも、ここでこうやっているのも悪くはないよ。
暑い夏が来てビールを飲んだら、どこにいても君は僕のことを思い出してくれるだろう?
もし僕が忘れられて箪笥の隙間に落っこちて埃だらけになっていても、きっと君は僕を思い

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アイスコーヒーによって導かれる記憶の輪郭について

アイスコーヒーによって導かれる記憶の輪郭について

どうしてもアイスコーヒーが飲みたくなったのだが、深煎りのマンデリンを切らしていた。

半分空けたブラインドから見える7月の終わりの景色は太陽で真っ白に塗りつぶされていた。そんな中、豆を買いに行く気にもならず、僕は仕方なくマンデリンの生豆を深目にローストして挽き、氷を一杯入れた銅のマグカップに落とした。
氷がカップの中で「ちりちり」と音を立てて解けた。

アイスコーヒーを三分の一くらい飲んでから、僕

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