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短いお話など。書いています。
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#超短編

暑い夏の終わりに。

暑い夏の終わりに。

暑い日だった。
車をパーキングロットに停めて、大通りに繋がる細い路地を歩いた。

晴れた日にこの路地を上を見ながら歩くのが好きだ。
路地では両端のビルの形に合わせて細長くなっていた空が、大通りに出た瞬間に開放される。
周りの空気が薄くなったような気がするほど爽快で広い空。

「この景色を見たら、君はなんて言うだろう?」

その答えを今は聞けない。

  ・・・

街路樹の影に入って、信号が青に変わ

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晴れた休みの日と、装置としてのカメラと、君について

晴れた休みの日と、装置としてのカメラと、君について

「今日は本当に良い天気ね。」

君はそう言って、カメラという装置で僕らの上に広がる空気を透き通ったガラスの箱に、どんどん詰めていった。

カシャ

ガラスの箱に空気をひとつ詰めるたびに、君はガラスの箱を光にかざして検査し、大事そうにひとつひとつしまっていく。

こんな良く晴れた日に、その作業をする君を眺めているのが僕は大好きだ。

  ・・・

時折、君はガラスの箱をひとつ持って僕のところにやって

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図書館に行くことについて

図書館に行くことについて

図書館、っていい響きですよね。静かで整然としていて。

いろんなことがすべてルールに則っています。
すべてのものは名札と番号が付けられ、きちんと整理されて、棚にしまわれます。『日本造船年鑑 補遺版』 から 『お父さんの英会話』 まで分け隔てなく。

そこには感情に左右されたりすることはひとつもありません。穏やかに、静かに、時間も整然と過ぎてゆきます。

図書館のように生きて、図書館のように老いて、

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ビスケットを食べる、ということ

ビスケットを食べる、ということ

彼がやってきたのは、たしか、和田阪神の最後のシーズンの秋だったように思う。(いや、彼女、か?何しろビスケットなので、僕には性別が分からないのだ。面倒を避けるために、便宜的にここでは男性としておこう。)
 
とにかく、だ、
彼は突然やってきた。

「やぁ、久しぶり。近くを通りかかったら、懐かしくなってね。」

と言い、

「君と僕の仲だから、ちょっと上がらせてもらうよ」

といきなり部屋に上がろうと

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