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カテゴライズ未満


不意に、高校生の頃を思い出した。

わたしの高校時代はごくごく平凡に過ごせていたと思う。メイクもしたし、髪も染めたし、エクステもつけたし、スカートも短くしたし、放課後はアルバイトと遊び。勉強もしたし、本も読んだし、買い食いもしたし、遅刻もしたし、サボりもした。グループという括りが合わなかったのでグループには入らなかったけれど、元来の探究心の強さからか、オタク的な話をする友人もいたし、じっとしているのが性にあわないからか、派手目な友人もいた。

教師という立場の人は好きではなかった。けれど〝教師〟という立場からではなく一人の〝人間〟として自分を見てくれる人は好きだった。「お前は優等生なのか不良なのかどっちなのかわからんなぁ」と困ったように笑う先生に、「わたしもなんですよ」と返せば大笑いされていた。実際、どちらにもなろうと考えてはいなかったし、認められたかったのは教師からではなかった。褒め言葉も承認も、本当に欲しかった人からは何ひとつ貰えていなかった。


「頭のネジが外れてるから」

同性愛者の友人が笑った。わたしと共に授業をサボる彼女は、よくそう言っていた。思えば、彼女には全て見透かされていたのだと思う。同じ種類の人間にしか理解できない思考。わたしも彼女も、遠い昔に頭のネジを数本、どこかに忘れて来てしまったらしい。確かに、自覚はある。だからといって新しいネジを組むことも、探すことも特に必要だとは思えなかった。

常に中立を求められてきた。恐らく、無意識に習慣的に自分でもその場所を選んでいた。悪意ある誰かの感情が高ぶれば高ぶるほど、わたしの意識は冷めるようにできていた。自己防衛。現状を見定める力を、わたしはいつの間にか有していた。そのせいであらぬ批判を受けたこともあったし、攻撃対象に選ばれることもあった。でも思考の何処かしらで、諦めとも呆れとも取れない〝なにか〟がわたしの頭を冷まし続けていてくれた。


「そのまんまでいてよ。ひとりは淋しいから」

友人が笑う。いつだって人は誰かを求めて止まない。理解、信頼、愛情、友情、承認、憧憬、敬愛、憎悪、敵視、執着、嫉妬。自分より優れているか、劣る人間を見出しては自分勝手に傷付ける。優越感に浸ろうが、自己嫌悪に押し潰されようが、悪循環を巡り続ける。高校時代はそういった脆く醜く悲しい感情をよく目にした。

言われずとも、わたしは変わらないと思った。本当は同じように怒って、敵視して、喧嘩してみたかった。それが出来ないのは、冷めて澄みすぎた思考がいつだって邪魔をするから。だから毎日ラインを引き直す。

〝あなたはここから先には入れないよ〟

〝あなたにはこれ以上見せないよ〟

そうやってなんとか自分を護る。このラインを壊せる人間はほんの数人しかいない。だから大丈夫。安心出来る。そうして護り続けた心の奥深くに、泣き続けるわたしがいるのだろう。あの頃と寸分変わらない姿で。その涙を拭うのはわたしであって私じゃない。きっとあなたの心の何処かしらにも居るはず。泣いているのか、冷めているのか、怒っているのか、笑っているのか、解らないけれど。


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本当に怖いのは、心を掴めない人間じゃなくて、心を掴ませない人間。

隠さないくせに逃げるのが上手く、執着するくせに追ってこない。そういう人がわたしは一番怖くて、一番興味を惹かれる。良い意味でも、悪い意味でも。それらを 血液型特有の性格だ と一括りにするのは、あまりにも浅はかだと思った。愛して欲しいのに愛さないくせに、淋しいと泣く人。不器用で焦れったい。だからこそ愛されて欲しい、愛して欲しい。幸せになって欲しい。

不格好で歪な愛を抱き締めて、受け取ってくれる誰かを探す人。そうして彷徨う存在が余りにも多すぎて視界がボヤける。頭のネジが外れてようが、歯車が狂っていようが、わたしには大した問題にはならなかった。ただ愛したい人を愛したかった。好きな人を護りたかった。なんだかそんな想いを抱え続けたまま、ここまで生きてきた気がする。それは巡り巡って、わたしの存在の力になってくれた。いつだって揺らぎ続ける、脆くて愚かな自分の存在。


愛してくれないなら愛さないし、偽りなら聞かない。欲しがってはいけないなら欲しがらないし、ラインを越えさせようとも、越えようとも思わない。

そのくらいの傲慢さと身勝手さがあってもいいのだと思う。ふたりで淋しいより、ひとりで淋しい方が何倍もいい。それでもひとりが淋しい夜は、同じくひとり夜を眺める人と他愛のない話をして、夜を乗り越える。そのくらいで良いんじゃないかな。良くないかな。わたしはそんな感じだよ、と。

わたしはきっと昨日と違う気持ちで、今日の夜を過ごしているし、好きな人たちの呟きに♡を贈っては、いいねの規制を恐れている。だから、いつだって話をしよう。上品過ぎず、下品過ぎない微妙なラインで。遠く離れた場所から、同じ夜を眺めて、他愛のない話をしよう。

ここにいるよ、今日も、明日も。







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