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片田舎の怪異

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山口県の架空の町「坐骨市」を舞台にした怪異ホラーです。 ※タイトル変更しました。 1話完結で短めです
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記事一覧

【怪異】「ファンタジー水族館」の思い出(後編)

引きずり込まれたおっさんは、自分に何が起きたか、たぶん理解してなかった。

困惑した顔をしていた。

俺は息を飲んだ。

イルカやシャチが客を水槽に引きずり込むとなると、大きな事故だ。

いま、不用意に人魚の水槽に近づいたおっさんが、同じように引きずり込まれたのだ。

係員も、調教師もいなかった。

それがまずかったのだろう。

人魚は、人間離れした力でおっさんを水中に沈めた。

激しくもがくおっ

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【怪異】「ファンタジー水族館」の思い出(中編)

作業着を着た酔ったおっさんは、おそらく俺の親父と目的は同じだ。

人魚のおっぱいが見たかったに違いない。

カップ酒片手に、じとっとした目つきで人魚を見つめていた。

俺は小さくなって席に座り、きれいな人魚に見とれていた。

人魚たちはそんな俺たちの様子を見て、ちょっかいを出したくなったのだろう。

水から上がると、人口の岩場に腰掛ける。

幼児だった俺も、酔ったおっさんも、人魚の濡れた肌や、雫が

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【怪異】「ファンタジー水族館」の思い出(前編)

「ファンタジー水族館」ってのは、俺がまだ小さな頃、坐骨の海岸沿いにあった水族館だ。

今はもう潰れちまって、水族館の建屋すら残ってないけどな。

ネットを探しても写真すら見つからないよ。

水族館自体は特に変わったところのない普通の展示だった。

それでも物珍しい魚がちらほらいて、開業当時は本当に人気があったと聞くよ。

ただ、水族館には定番の「イルカ」がいなかった。

イルカショーもやってなかっ

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【怪異】鍵のかかった納屋 後編

5日目

最終日だ。

せめて、何かしら収穫を得て帰りたい。

私が思うに、この町の人は何かを納屋で飼っているのだろうと思った。

それは日に当たらなくてもよく、高価な価値を生み出すものだろうかと思った。

洗面器に入れられたものが、収穫物ではないだろうか。

希少な鶏の卵かと推測した。

だが、鶏の声は一切聞こえない。

鶏なら鳴き声の4日間に1つ聞こえないのはおかしいだろう。

最終日は積極的

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【怪異】鍵のかかった納屋 前編

数年前、近所の住宅街で妙なものを見つけたことがある。

当時私は、山口県の西部に住んでいた。

バイトをしながらその日暮らしをする気ままな生活をしていた。

私は古くからの住宅街を通って通勤していた。

その住宅街は、田畑が混じり、敷地の広い蔵のある家なども多かった。

昔ながらの百姓家が現存していた。

また、高齢化で農家が田畑を手放し、新しい家なんかも増えていた。

古くからある家と、新興住宅

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【怪異】ある動画投稿者の失踪

ある動画投稿者がいた。

気の毒なことに妻に先立たれ、以来精神の不調を来した。

彼は仕事もやめ、次第に「周囲の人間が自分を陥れようとしている」との被害妄想に取り憑かれるようになった。

彼は周囲の人間は全てスパイか敵対勢力だと断定し、執拗に絡んだり、無断で動画撮影するようになった。

彼は被害を知らしめる目的として、その模様を動画投稿し始めた。

困惑する町の人や、行政機関、警察と悶着を起こす…

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【怪異】大赦ケ浜の放水路

俺は大学生の頃、探検部だったんだ。

だから、洞窟やほら穴なんて聞くと無性に入りたくなるたちでな。

で、この前行ってきたんだ。

ちょっとしたトンネルにね。

それは大赦ヶ浜にある放水路なんだ。

広い海岸にぽつんと、白いブロックでできた長いトンネルが陸の方から波打ち際まで伸びてるんだ。

放水路は、川が氾濫しないように、増水した川の水を海に流す水路なんだ。

確かに、ここら一帯は大雨が降ると冠

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【怪異短篇】空に浮かぶもの

ただいま…。
やれやれ、ずっと走りっぱなしだったよ。
ほら、良太郎…手を洗ってきなさい。

季節はずれにタコ揚げなんてさ。
良太郎も何を言い出すかと思ったら…。

でも夏のタコ揚げも悪くないよ。
青空と白い入道雲がすごくきれいでね。
タコを上げると爽快だったよ。

どうした、良太郎。
ボーっとせずに手を洗っておいで。
おやつをあげるから。

小さな良太郎が飛ばすのは難しくてね。
僕が上げて、良太郎

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【怪異短篇】渓流釣り(後編)

僕は、すぐに歩みを止めた。

砂山を助ける…。それは間違っていない。

だが、砂山は助けを呼びに行くから変わってくれと言っている。

怪物は、砂山と引き換えに僕が欲しい。

僕が砂山と変わったらどうなる?

怪物を僕を連れ去るかもしれない。

砂山が帰ってくる保証はあるか?

僕は突然自分が哀れに思えて笑えてきた。

この期に及んでお人好しが過ぎた。

考えてみると、いい機会だ。

今まで、僕の育

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【怪異短篇】渓流釣り(中篇)

砂山かと思っていたそれは、異様なものだった。

木立の間に、黒い板張りの人形がいる。

丸い黒色の板に、丸いガラス質の目がはめられ、細い木材で眉毛と、鼻と口が作られている。

まるで子供の工作のようだ。

胴体も黒一色に塗られた板だ。

手足に関してはよく見えない。

木立の闇と同化している。

ただ、そのガラス質の目は蠢いていた。

黒目がしきりに、僕の顔と僕の足元のヤマメを行ったり来たりしてい

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【怪異短篇】渓流釣り(前編)

僕は悪友の砂山と釣りの腕で競っていた。

僕らの住む町には、ヤコ川という大きな川が流れている。

上流へ行くと、森に囲まれ清らかな渓流となっている。

渓流魚であるヤマメやイワナ、ゴギの解禁は8月末までだ。

年間遊漁券(対象の魚を釣ってもいいパスポート)を持っている僕と砂山は、どれだけ獲物が穫れるか競っていた。

砂山はイヤな奴で、テストの成績や体育の評定でもいつも僕を張り合いにしてきた。

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【怪異短篇】夏の火

8月、市内で頻繁に火事や爆発事故が起きていた。

家屋が失火もあり、不審火である場合もあった。
また、市の沿岸部や離島部には化学工場もある。
化学工場の爆発事故も数度起きていた。

奇妙なのは、あまりにも続いたことだ。
一般民家の火災でも2日に一度は必ず起こるし、化学工場の爆発事故なんて普通数年に1度あるかないかだが、週に数回の頻度で発生していた。

事故には必ず死者がいた。
一人の場合もあれば、

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【怪異短篇】海上の叫び

秋空の中、浜辺を散歩した。

響灘に面した、大赦ヶ浜を歩く。

暦上は秋だがまだまだ残暑はきびしい。

晴れやかな青空と青い海…爽快な眺めではある。

波の音を聞きながら、私は気分よく歩いていた。

波は穏やかで、海面も凪いでいる。

遠くには九州の工場地帯が見える。

遠く水平線を、巨大なコンテナ船が進んでゆく。

カラフルなコンテナは、子ども用ブロックのようにも見える。

行き交う船を良い心持

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【短篇ホラー】漁村のVHSテープ(後編)

VHSテープを再生した。

映像はざらつき、解像度も悪い。

自前のビデオカメラで撮影したものだった。

古い漁村だった。

おそらく昭和後期くらいの映像であると思われる。

カラーだったが、活気のある漁村が撮影されている。

フェンダーミラーの昔の車が通ったり、紙芝居と子ども達を撮影したりと、村の様子をはじめは映していた。

そして、一人の50歳代くらいの女性をインタビューがてら撮影しているカッ

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