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#82 ワクワク人生のための、学修歴プラン

毎日流れてくるネットニュースを見ていると、「中学受験はさせた方がいいか」「将来稼げる大学」「これからは社会人大学院の時代」といった学歴をあおる論調がある一方、「大学なんか行っても意味はない」「中卒でもキャリアを築ける方法」「ワーホリで人生リセット」など違った論調もある。今日は、僕の「オススメ学歴プラン」の話をしてみたい。(写真は立教大学第一食堂



「学歴」は何の略?

まず、「学歴」という言葉について考えよう。おもに3つの意味があり、1〜3の順に細かい情報になる。

1)学歴 = 資格歴:「中卒」「高卒」「大卒」など、資格を問う場合
2)学歴 = 学校歴:「〇〇大学卒業」など、資格に加えて学校名を問う場合
3)学歴 = 学修歴:  さらに(2)での勉学の内容や成果を問う場合

日本で「学歴」と言った場合に意図されるのは、ほぼ1と2だ。1は就職活動などで応募条件として「大卒」などと言われる場合が該当し、実際に応募する時には履歴書に2を書く。一方、欧米で「学歴」と言った場合には、3を意味することがほとんどだ。多くの場合、2(どの学校を卒業したか)より3(どんな授業を履修して、成績はどうだったか)が重視される。
 日本の就職活動で3が問われるのは、研究職に応募する理系の大学院修士以上だけではないだろうか。通常は3よりもむしろ、所謂「ガクチカ」(=学生時代に力を入れたこと)や課外活動について問われたり、逆にアピールしたりすることが多いように思う。今回はそんな風潮の是非については論じずに進もう。


日本は決して学歴社会ではない

ここで、僕が今いるドイツの価値観に一旦ならって、「学歴」を3の意味で考えて、以下の話をしたい。3の意味で学歴を理解すると、欧米は非常に学歴社会で、日本は決して学歴社会ではない。むしろ、下の書籍にあるように「低学歴国」に分類されるだろう。
 欧州では高校の教員になるのに、担当する教科に関して修士以上の学位が求められることが多いし、国連の上級職や企業の役員は博士号を持っていることが多い。自然と、面接で問われるのは研究や論文の内容になる。課外活動は文字通り「課外」なので仕事には関係なく、逆に趣味の活動を採用の参考にするというのは、「相手を職業人として見ていない」として不適切とする文化があるように思う。

社内教育で必要な知識・技能を身につけさせるという発想は欧米にはほぼないので、専門的な仕事に就きたければその分野の大学や大学院で学ぶことが必須となる。対して日本は、専門職を除いてほとんどの場合、大卒資格が問われるだけで業務に必要な知識・技能は入社後の研修やOJT(= On-the-Job Training 先輩社員から学ぶこと)で身につけるという発想だ。
 国内だけを考えると、大学での専攻にしばられず広く将来の仕事を選べるという利点がある一方、日本で大学を卒業後、若者が海外で就労するのが難しい理由もここにあるように思う。


オススメ学修歴プラン

これから2030年くらいまでに、いい方向かそうではない方向かは別として、特にホワイトカラーの事務職系は仕事内容ががらがらと変わっていくと思う。専門職では有能な外国人を中国やインドから高給で引き抜く傾向も増すだろう。政府は国内での人材育成にお金を使い始めたが、2030年には間に合いそうもない。
 そんな「激動の時代」をちゃんと生き抜くための、オススメ学修歴プランを示してみたい。世の中がどうなっても、世界中どこででもちゃんと生きていくためのライフプランだ。

1)大学には行こう、ただしこれまでとは違う理由で
大学には進学する方がいい。理由は、「大学院受験資格を得るため」だ。日本の大学は世界中でちゃんと大学として認知してもらえるので、あまり選り好みする必要はない。専攻も、あまり細分化したことを学ぶ必要はない。

高校生のうちは、大学受験勉強よりもクラブ活動やボランティア活動、読書などを通して、「社会のどういう部分に自分は興味があるか」を見つけるために時間を使う方がいい。受験勉強だけしていた人は後で(40歳以降)伸びづらい。

2)余力を持って進学できる大学に行こう
目安として、「高3夏休みまで部活を続けても、合格できる難易度」の大学に行こう。目安としては、必死に受験勉強をすれば東大・京大へ行ける人なら、筑波大学や神戸大学へ、頑張れば早慶へ行ける人なら、GMARCH や関関同立へ、というくらいのレベル感だ。中学・高校の勉強があやしいという人は、一年だけ浪人して行ける大学へ行こう。
 大事なのは、大学入学後に「さあ、興味があることを勉強するぞ!」というモードになっていること。一番まずいのは受験終了後の「燃え尽き症候群」だ。僕は、「必死に受験勉強を頑張って、あこがれの〇〇大学合格!」は勧めない。ちなみに、アメリカやヨーロッパでは(3)のために、実力より低いレベルの大学をあえて選ぶ人がそこそこいる。

使える時間が10あるなら、7くらいは「好きなこと」を深めるために使い、受験勉強は3くらいで十分だと考えている。深めた「好きなこと」が実は(4)以降の段階でジワジワ効いてくる。

3)大学では単位は最小限、その代わり GPA 3.7 を取ろう
大学に入学したら、取る授業は最小限にしよう。理由は、履修するすべての授業で確実に「優」あるいは「S」の成績を取るためだ。大学ではひたすら成績にこだわろう。変な成績をつける噂のある教授の授業は、必修でない限り取らない。
 4年間の GPA(= Grade Point Average:全履修科目の単位数重みづけ平均)を 4.0 スケールで計算した場合に、確実に 3.7 以上を取ろう。3.7 あれば、世界中どの大学の大学院に出願しても(5)の時に足切りされることがほぼない。僕も、英国ケンブリッジ大学大学院に出願するために必死な思いで GPA3.7を確保した。一発試験ではないので、多少の波があっても達成可能だ。

裏技を一つ。事前に先生に「将来は海外へ行くので、どうしても<優><S>が必要です」と言っておこう。高確率でアドバイスをもらえるし、そう言ってきた学生に悪い成績はつけづらいのが人間の心理だ。僕もそうした^^

4)一旦社会に出て経験を積もう、ワーホリもよし
大学での勉強と社会に出た後の仕事は異なる性質もあるので、とりあえず何か仕事をしてみよう。自分がどんな仕事に向いて、どんな仕事には向かないのかの大枠を理解するのが目的だ。数社を数年ずつ経験するのもいい。同じ目的で、自分探しのために海外ワーホリに出るのもオススメだ。このあたりの段階で結婚・出産する人も多いと思うが、できれば30歳くらいまでに(5)の段階へ進もう。

この段階で得た興味・関心の種が、人生の主な燃料となる。決して入試に合格した大学の名前ではない。分かりやすい確かめ方として、「尊敬する人のどんなところに魅力を感じますか?」と聞かれて、大学名を答える人はいないだろう。

5)大学院修士で花を咲かせよう
さて、ここからが人生本番だ!大学院の修士課程は、実は大学の学部よりもずっと入りやすい。日本でも欧米でも似た状況だ。日本では、夜間と土曜日に主に授業を行う社会人向けの大学院も増えてきた。入試も、文系であれば課題の作文+面接程度で入れる大学も多い。大学院修士課程は、「博士課程に進む人の準備」という性格ももちろんあるが、「社会人の再教育機関」としての役割も大きい。なので、(2)で学んだ学部とは内容が違う大学院へも、比較的入りやすい。

事情が許せば、修士課程で海外の大学に留学しよう。英語圏では奨学金に応募できるし、ドイツ・スイスを選べば、そもそも学費は事務手数料程度だ。子どもを連れての留学は、さらにオススメだ。大概の大学に家族寮があって、子どもの学校も世話してもらえる上、子どもに自然な海外体験をプレゼントできる。

30歳前後で大学院へ戻ると、自分より10歳程度若い学生と交流でき、もう一度人生を見直す機会も得られる。新しい時代の感覚も生で得られ、一石二鳥だ。

6)生涯の仕事に就こう
2030年以降にこの段階に差し掛かる世代の人たちにとっては、日本国内でもこの選択が吉と出る、というのが僕の予測だ。そして何より、このライフプランはわくわくして楽しい。

最近、「〇〇年も浪人して東大に入りました!」的なニュースをよく見かけるが、人生を切り開く道具となるのは大学で学ぶ内容だ。大学合格が「偉大な功績」として褒め称えられる世の中は、世界的に見ると滑稽だ。「ここは日本だからそれでいい」ともそろそろ言えないだろう。もう鎖国の世の中ではない。
 さらに、提案した1〜6のライフプランは日本型の「社会のレール」には乗らない生き方になるので、障がいや自然災害など様々な理由で社会の主流から外れてしまった人たちのよい理解者になれるはずだ。人としての魅力や包容力も増すことができる生き方だ。

*     *     *

どんな人生を歩みたいか

もちろん(2)で「必死に受験勉強を頑張ってあこがれの〇〇大学合格!」を選び、大学ではそこそこの成績を保ちながら、「いろいろな経験を積む」ことに主眼を置き、いわゆる優良企業に就職する手もある。でも、楽しいだろうか?
 周囲を見ていると、そういう生き方では、どこかで想定外の出来事が起きると、修復が難しくなる。そして想定外の出来事は、実は一生に一度くらい起きる。

一方、僕のプランでは(2)で余裕を持たせて、(4・5)での「見直し」を前提としているので、世の中の変化や自身の興味関心の変化に対応しやすい。そして、30歳前後まで社会を見た後に、生涯をかけた仕事につながる勉強をするのは、血湧き肉躍る経験となる。親のそんな姿を子どもに見せ、そんな経験を次世代につないでいけば、日本の未来は明るくなるはずだ。

今日もお読みくださって、ありがとうございました🏫
(2023年11月6日)


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