しゃくさんしん

留守番電話の気分。

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記事一覧

固定された記事

いままで書いてきたもの

固定用。書いてきたなかで、まだ反応を貰えた記事をまとめる。 読まれることを最初から諦めて、いつも私的に書いているところがあるけれど、それでも読んでもらえるとやっ…

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清潔で、とても明るいところ

伊丹空港に行った。べつに用もなく。 展望デッキに出ると、見渡す限りよく晴れた空が広がっていた。風が強く吹きつけた。 ぽつぽつと人がいた。なんとなく雰囲気の似た、カ…

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6月某日 煮込む

和歌山に行った。 グーグルマップさんには、同じ目的地でも毎度別のルートを提示されている気がする。しかも、所要時間が短いというだけの理由で、人間にはなかなかハード…

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大連への旅の脆い記憶

円安らしい。どういうことなのかは知らん。これは冗談ではなくマジで知らん。 高校時代、授業で教えられた円高だとか円安だとか色んな経済の話を全然理解できず、優秀なク…

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松屋町筋、壁、嘘

嘘のような稜線を見て煙草を吸っていた。 死についての小説ばかり書いてしまう。祖父の葬式にも出なかった人間なのに。 祖母の遺骨を「これ」と呼んでしまい、親戚を悲し…

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掃除、ストーリー、距離

「あとはやっとくから掃除でもしといて」と、これまで度々言われてきたことに気がついた。 俺のようなものでも任せてもらえる、この世に唯一の仕事として、掃除は存在する…

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マスクの落ちている街、道の駅、バス

最近のことをつらつらと。 見出し画像は、美術館で見たホワイトリード《無題 (樹脂のトルソ) 》。 湯たんぽを樹脂で型取りしたもの。 間接的にしか捉え得ない身体性。喚…

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曇りの日

家の近所の何度か通っている散髪屋は、アプリから予約ができる。 数日前から、予約を入れてはキャンセルする、というのを何度か繰り返した。日々気まぐれな時間に寝起きし…

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とある下町の思い出

野暮用で、昔住んでいた街を訪れた。苦しい記憶が多いせいで、離れて間もない頃は近くを車で通るだけでも目の前が暗くなるような心地だったけれど、もうなんてことはない。…

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病気の羊

快晴の空が寒風に冴え渡るような午後、散歩へ出かけた。 公苑までの道で、植え込みのすすきがきらきらと光を散らしていた。近くに寄って眺めてみると、なんとなくきたなら…

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日曜礼拝

日曜日って日が二つも入ってるんだな。なんかめでたい。 日曜日だから「パン屋で朝食にクロックムッシュ」なんて洒落臭いことやってやったぜ。無職に曜日もクソもないけど…

8

動物園とグラタン

冬のミッションのひとつ「動物園に行く」を完了。これは亀が邪魔で困ってる鳥。かわいいね。最後は踏み締めて通過してたけど。 所用で姫路まで行ったので立ち寄った。姫路…

7

遠く

夜、ごみを捨てに下りると、あんまり寒くて落ち着くものだから、そのまま散歩した。 イヤホンから流れる音を、一日中垂れ流しているゆるキャンから、haruka nakamuraの新譜…

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眠たい秋の散歩

散歩。 日中だとパーカーでも少し暑い。冬にやりたいことをリストアップしていたのに、秋さえまだ来ていなかったのかもしれない。勘弁してほしい。 空が霞みがかっていて、…

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寒くなり、色んなことがしたい。

カオナシがいて、スケボーに興じる半裸の少年たちと記念撮影していた。ハロウィン。 どの店もシャッターの降りた戎橋筋商店街で、音楽が聞こえてくる。 コンガのような打…

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夜食

夜も深まる都会の外れで、ラーメンを食べた。酒をやめたから、そういうの、久しぶりだった。 コの字型の長いカウンターに、ポツポツと男たちが座っていて、ほとんどが一人…

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固定された記事

いままで書いてきたもの

固定用。書いてきたなかで、まだ反応を貰えた記事をまとめる。 読まれることを最初から諦めて、いつも私的に書いているところがあるけれど、それでも読んでもらえるとやっぱり嬉しくなる。だからといって、より多く読まれることを狙った書き方をしてみても、結果の伴ったことがない。そういうことは自分にはできないんだろうと、結局また諦めて書く羽目になる。 読まれようが読まれなかろうが、書く。それは変わらない。理由は考えたことがない。 以前は、小説 (と呼んで良いかあやしい短くささやかな何か)

清潔で、とても明るいところ

伊丹空港に行った。べつに用もなく。 展望デッキに出ると、見渡す限りよく晴れた空が広がっていた。風が強く吹きつけた。 ぽつぽつと人がいた。なんとなく雰囲気の似た、カメラを構えている男女なんかも。デートだろうか。共通の趣味があると関係も長持ちしやすいだろうけど、飛行機撮影なんてうってつけに思える。大した金をかけずに遊べる。 ひっきりなしに、飛行機が飛び立っては着陸する。そんなに運ぶ人と物があるのかと感心してしまうほど。鳥のように羽ばたくでもなく、すうっと浮上する光景は、なんだか魔

6月某日 煮込む

和歌山に行った。 グーグルマップさんには、同じ目的地でも毎度別のルートを提示されている気がする。しかも、所要時間が短いというだけの理由で、人間にはなかなかハードな道のりを選びがち。人間ではないので仕方ないのだが。 とはいえ人間より賢いと聞いてるし、人間ごときならこの道のほうが走りやすいよなあとか判断できそうなものですよね。もしかしてわざと?俺のこと嫌い? 今回はなんかえらい山道を長いこと走ることになった。戦々恐々で、まばゆい万緑にも大して見惚れていられなかった。 これを見て

大連への旅の脆い記憶

円安らしい。どういうことなのかは知らん。これは冗談ではなくマジで知らん。 高校時代、授業で教えられた円高だとか円安だとか色んな経済の話を全然理解できず、優秀なクラスメイトに説明してもらったが、優しい彼にも最後には匙を投げられた。それが俺という人間である。幼い子どものようになんでを繰り返す俺に、そういうもんやねんと珍しく声を荒げてそっぽを向いた彼を見て、悲しくなった。優しい人を怒らせるのはいつだって悲しい。 海外に行ったことのない友人が、いよいよ行くことに決めたのでとりあえず

松屋町筋、壁、嘘

嘘のような稜線を見て煙草を吸っていた。 死についての小説ばかり書いてしまう。祖父の葬式にも出なかった人間なのに。 祖母の遺骨を「これ」と呼んでしまい、親戚を悲しませた人間でもある。 悪意はなくて、咄嗟にそう呼んだだけだった。 大雨の降る夜の松屋町筋を、車で走った。 フロントガラスに休みなく雨粒が弾けた。交通量の多い都会の道を、視界も悪いなかの運転だから、怯えてそろそろと進んだ。 ときおり空に稲光が走った。そのたびに助手席の友人と、光った、とお互いひとりごとのように口にした

掃除、ストーリー、距離

「あとはやっとくから掃除でもしといて」と、これまで度々言われてきたことに気がついた。 俺のようなものでも任せてもらえる、この世に唯一の仕事として、掃除は存在するらしい。 しかし、掃除というやつを試みるほど、家が傷ついていくのはどういうわけなんだろう。 釘を抜こうとして鴨居の木材が抉れてしまったり、風呂場の壁面タイルを研磨スポンジでせっせと磨いて傷だらけにしてしまったり。 ものを壊してしまったときの、取り返しのつかなさって、すごくイヤな感じだ。これ以上頑張ると何が起こるかわか

マスクの落ちている街、道の駅、バス

最近のことをつらつらと。 見出し画像は、美術館で見たホワイトリード《無題 (樹脂のトルソ) 》。 湯たんぽを樹脂で型取りしたもの。 間接的にしか捉え得ない身体性。喚起される複雑で重い何かと、それに微塵も揺らぐことのない単純で明確な形。実と虚が空転したような関係。 自分の興味関心にドンピシャだった。 展示を見て回った後、関連書籍のコーナーで、惹かれた作家の図録を読む。いつものことながら、物を見るより文章を読むのに長い時間を費やした。ミリアムカーンの個展カタログ『美しすぎる

曇りの日

家の近所の何度か通っている散髪屋は、アプリから予約ができる。 数日前から、予約を入れてはキャンセルする、というのを何度か繰り返した。日々気まぐれな時間に寝起きしていて、予約に合わせて起きておくのが難しい。と、書いていて思うが、人間として終わっている。ほとんど動物である。 今日はようやく朝のまともな時間に起床したので、当日でも空いていた昼過ぎの枠に予約を入れた。 予約確認のメールを見ると、以前より値段が少し上がっていた。アプリのお知らせというページを見ると、2月1日から値上げの

とある下町の思い出

野暮用で、昔住んでいた街を訪れた。苦しい記憶が多いせいで、離れて間もない頃は近くを車で通るだけでも目の前が暗くなるような心地だったけれど、もうなんてことはない。過去がきちんと過去になったのだろう。 良い個人書店が新しくできていた。駅から少し離れた、路地裏の長屋の一角にある。選書が研ぎ澄まされていて、紹介ポップには熱がこもり、先端的な同人誌やzineも並ぶ。かと思うと、近所の子どもたちに向けてか、ちょっとした駄菓子も置いている。 気になっていた『鬱の本』があったので手に取って開

病気の羊

快晴の空が寒風に冴え渡るような午後、散歩へ出かけた。 公苑までの道で、植え込みのすすきがきらきらと光を散らしていた。近くに寄って眺めてみると、なんとなくきたならしい。風に揺れている姿を、遠くから目にしているのが良い。儚い生として、土から生えているのではなく風と共に流浪するとこちらは思い込みたいものだが、あちらにしてみれば知ったことではないだろう。いや、知ったことではない、ですらない。 植え込みの一画に、木枠で囲われた小さなスペースがあって、数株の色の強い花が咲いている。看板

日曜礼拝

日曜日って日が二つも入ってるんだな。なんかめでたい。 日曜日だから「パン屋で朝食にクロックムッシュ」なんて洒落臭いことやってやったぜ。無職に曜日もクソもないけど。 なんか外観からおしゃれな店だったので、こんなところでモーニングときめこむか、と入ってみたものの、無骨な銀の食器、窓の向こうに広がる国道と曇天で、なんとなく共産主義国家にいるみたいな気分になった。こんなはずではなかった。 朝食を済ませたのち、コンビニでホットカフェオレを買い、公園のベンチで本を読む。 ぱらぱらと雨

動物園とグラタン

冬のミッションのひとつ「動物園に行く」を完了。これは亀が邪魔で困ってる鳥。かわいいね。最後は踏み締めて通過してたけど。 所用で姫路まで行ったので立ち寄った。姫路城と同じ敷地内にある。隣の姫路市立美術館では中谷芙二子の霧の彫刻もやってた。午後の木漏れ日が霧を透かして綺麗だった。 姫路名物どろ焼きも食べて、すっかり姫路を満喫。地獄のグルメみたいなネーミングだけど、出汁のやさしさが沁みるすごく美味しい一品。ほとんど明石焼き。 しかし姫路市立動物園、今まで行ったなかでもベスト動

遠く

夜、ごみを捨てに下りると、あんまり寒くて落ち着くものだから、そのまま散歩した。 イヤホンから流れる音を、一日中垂れ流しているゆるキャンから、haruka nakamuraの新譜に変える。 どこか懐かしい、心を決して脅かすことのないよう整えられた、甘やかなメロディー。 清潔な私立幼稚園の横を通る。ひと気はなく、廊下には橙色のライトがぽつんと点っている。まっくらな温水プール。 小学校跡地では大きなマンションを建設中で、白く高いフェンスのつるりとした表面を車のヘッドライトが流れて

眠たい秋の散歩

散歩。 日中だとパーカーでも少し暑い。冬にやりたいことをリストアップしていたのに、秋さえまだ来ていなかったのかもしれない。勘弁してほしい。 空が霞みがかっていて、やっぱり秋かとも思う。ぼんやりしてしまって、歩きながら眠くなる。 広い公園に、20人くらいの大人が集まっていた。 ダンボールを高く持ち上げる2人がいて、玉入れをしてる。老人が多いが、若い人の姿もちらほらある。なんの催しなんだろうと思いながら通り過ぎた。 本当になんだったんだろう。大人が集まって玉入れをするシチュエー

寒くなり、色んなことがしたい。

カオナシがいて、スケボーに興じる半裸の少年たちと記念撮影していた。ハロウィン。 どの店もシャッターの降りた戎橋筋商店街で、音楽が聞こえてくる。 コンガのような打楽器と、ギターの弾き語りの演奏。取り囲んで踊る色とりどりの魑魅魍魎。 自分がどこにいるのか、ちょっと不安になる。 スポーツバーで、クラシコ観戦。ベリンガムのゴラッソに湧き上がる歓声で、鼓膜がちょっと変になる。 欧米系の男が、モニターに映るベリンガムを指して、オヤブン、と片言で呼ぶ。 カウンターだけの、狭いラーメン

夜食

夜も深まる都会の外れで、ラーメンを食べた。酒をやめたから、そういうの、久しぶりだった。 コの字型の長いカウンターに、ポツポツと男たちが座っていて、ほとんどが一人客で、二人連れも酔い疲れたのか黙り込んでいる。みんなビールをちびちびと飲んだりしている。 つけ麺が目当てで街を彷徨い、その店に辿り着いた。 どうしてもつけ麺が食べたい気分になって、深夜までやっているつけ麺屋をネットで検索して何軒か回ったのだが、平日だからかどこも早仕舞いしてしまっていたのである。 ある店は、入り口に営