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とことこショート

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2022年4月の記事一覧

カフェ・ソスペーゾ【中編】

カフェ・ソスペーゾ【中編】

イタリアの片田舎にあるカフェ・スペラーレ(希望)
店主マティがソスペーゾ(助け合い精神)で一人の女性を雇った。
その女性の名はソフィア。
ソフィアはマティに恩返しをしようと一生懸命働き、彼女本来の明るさを取り戻しつつあった。
ソフィアが店先で掃除をしていれば、彼女見たさに近所の野郎どもが集まってくる。
つかさず、「おはようございます」と笑顔いっぱいで挨拶すると、途端に彼らは蜂の巣を突いたかのように

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カフェ・ソスペーゾ【前編】

カフェ・ソスペーゾ【前編】

1995年
イタリアの片田舎の川沿いに、50年以上にわたって営んでいるカフェがある。
そのカフェの名は ” スペラーレ ”  イタリア語で ” 希望 ” という。

朝、店主マティがカフェの出入口を掃き掃除していると、道沿いを向こうから女性が一人、とぼとぼと歩いてくる。どことなくフラついているようにも見える。マティは注意深くその女性を見守った。
疲れ切った顔、目はうつろで遠くを見ていて焦点が合って

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8mmフィルムに愛を込めて【後編】

8mmフィルムに愛を込めて【後編】

いつもの閑古鳥が鳴いている写真館に一人の女性が訪ねてきた。
その女性は、バックから丁重に8mmフィルムを取り出した。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは、すみません…この8mmフィルムなのですが、今、私が観る事はできますか?」
「何か緊急な事でもあるのですか?」
「一ヵ月後に私の結婚式がありまして・・・」

女性の話を聞くと、先週、父親が突然の交通事故で亡くなってしまったという。娘の結婚式でこの

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8mmフィルムに愛を込めて 【前編】

8mmフィルムに愛を込めて 【前編】

僕は3代続いている写真館で働いている。
昨今、デジタル化が進みスマホひとつで自由に修正できる時代だ。もう写真屋は用がなくなってきているように思える。
しかしだ!
技術は発達しても人間味のあるアナログ的な仕事があるはずだ。祖父や父の仕事はまさにそうだったのだ。人の手を介して温かみのある仕事がしたい。この写真館を継いだ時からそう思っていた。
でも、今はそうも言っていられず最先端の技術の勉強に忙しい日々

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