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【短編小説】無垢なトンカツ【期間限定無料】



「トンカツ!」



子供たちに呼ばれ、トンカツは目を輝かせた。



豚小屋があるこの学校では休み時間になると子供たちが子豚に会いに来る。



「ブーブー」



子供たちに囲まれて暮らすこの生活はトンカツにとって幸せそのものだった。




食べ物に困らず、愛されて育つ。



そんな温かい環境で育ったトンカツは純粋無垢な目をしていた。



それは目の奥まで光が宿っていて、見るものを笑顔にする輝きを放っていた。




今日も子供達と楽しく遊ぶ。たくさん撫でてもらう。 





けれど、みんながなんだか暗い顔をしていた。




「トンカツ。大好きだよ」

「トンカツ、こんなにかわいいのに」

「トンカツ…」




いつも笑顔の子供達が暗い顔をして時には涙を流してトンカツのことを撫でていた。





純粋無垢な目をしていたトンカツの前に背の高い大きな男がやってきた。




「時間だ」





そう言われてトンカツは荷馬車に乗せられた。



ドナドナされていく。




豚なのに。




ドナドナ荷馬車が揺れている。




トンカツを乗せて。



豚なのに。




それでもトンカツは悲しい目などしていなかった。




無垢な目をしていた。




子供たちが泣いている。





トンカツにはそれが悲しかった。




けれどトンカツは少しだけこれからどこに連れて行かれるのだろうと、内心少しワクワクしていた。





子供たちに囲まれてたとはいえトンカツはずっと学校にいたんだ。




これからきっとまだ見ぬ景色がみれるのかもしれない。





そう思って顔を上げるとそこには雲ひとつない青い空が広がっていた。



草の香り、土埃。





納谷の中に居た時とは違う、温かな日差し。




トンカツはこれからどんな温かな場所に連れて行かれるのか期待で胸が高鳴った。




僕はもしかしたら見たことない子供たちに会えるかもしれない。





青いお空に飛び立てるかもしれない。




あの温かな日差しに届くかもしれない。





そう思ったトンカツは温かい気持ちのまま眠りにつくとあら不思議トンカツになっていた。




冷たい卵をまとい、ふわふわのパン粉にくるまり、温かな油に包まれた、なんて記憶は彼にはないだろう。




けれども最後の瞬間まで彼は人を喜ばせ続けられたのだ。







疑うことを知らないその目で。





いただきます。






サクッ

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