【短編小説】入社初日の朝寝坊
目を覚ました。
穏やかな朝の日差しが男に優しく朝を知らせる。
時刻は10時ちょうど。
出社の時間だった。
社会人1日目の若者はにわかに信じられず、再び時計を確認した。
しかし何度見ようが、それは紛うことなき出社の時間だ。
納得がいかない。
昨晩、社会人になってからの一連の流れをしっかりシミュレーションしたのにこの仕打ちとは俄かに信じがたかった。
社会人として毎日同じ時間に起きて同じ朝のルーティンを繰り返す、それこそがねぼすけである人間が寝坊から脱出する唯一の手立てだと思った。
起きたらカーテンを開けて、
小鳥に挨拶して、
歯磨きをして、
トーストを焼いて目玉焼きとベーコンを添えて、
シャツをアイロンがけして、
スーツをビシッと着て、
そして爽やかにご近所さんに挨拶する。
完璧だ。
完璧な社会人のモーニングルーティン。
達成できる自信しかなかった。
何せ内定をもらった時からイメージトレーニングをしていたのだ。
しかしそんな思いをよそに時計の針は無慈悲に遅刻を知らせている。
会社辞めるか。
諦めて海にでも行こう。
自分がいなくてもきっと回るだろ。
そう思い、完璧な寝巻きを着ていた男はナイトキャップを外し、ラフな私服に着替えて海に向かった。
海に着いたら近くのカフェでブランチでも食べればいいのだ。
完璧な社会人の朝を迎えられなければ完璧な自由人の昼にしちゃえばいい。
そう思ってた若者はスマホの電源を切り、踊る心と共に海に向かったのだった。
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