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新譜レビュー/Pietro Pancella Collective『Vol. 1: Music of Henderson, Shorter & Coltrane』

「リハーモナイズ」の先を映し出す1枚

久し振りにジャズの新譜レビューなぞ拵えてみようかと思います。過去連載「極私的ジャズ銘盤選」をきっかけにこちらへ足を運んでいただいた皆様におかれましてはたいへんのご無沙汰、多忙につき22年盤ジャズまとめも豪快にサボってしまいました。ところが新年明けまして、避けては通れない銘盤に不意に出会ってしまったものですから。

22年の暮れ先行配信された「Witch Hunt」を聞いてもう度肝抜かれちゃったんですよね。数あるショーターカバーの中でもあまり聞きなれない音像で、ヨーロピアンな質感だと気付くにはさほど時間を要しませんがしかし7拍子+双頭アレンジから完全に心を持ってかれまして。少し前Enrico Pieranunziがショーター縛りのトリオ盤をリリースしてましたが、様相は全く異なる。

ジョーヘンも、コルトレーンも一緒に楽しめる

往年の名手3人をピックアップし幕の内形式に。これがありがちなコンピ的サウンドに終始せず、コンセプトアルバムとして最後まで聞き通せる完成度に驚きました。60〜70年代の20年を00〜20年代のサウンドで味付けした、いわば創作料理で。例えば「Witch Hunt」冒頭のピアノにはBrad Mehldauを感じられますし「Lonnie’s Lament」はどこかAaron Parks的というか。

そう言われてみるとなんだかChristian Mascettaのギターが、Mike Morenoに聞こえてくるような気も…これが認知バイアスの恐ろしさ。「いま」ジャズに造詣が深い方ほど、随所に散りばめられたギミックの巧さに魅了される。でいて「わかんねえ連中は捨て置く」といったような排他性も一切なくて。生まれて初めてジャズに触れる貴方へ、是非入門盤としていかがでしょう。

ベーシストのリーダー作、テナーではなくアルトで

逆張りはまだまだ冴え渡る。テナー奏者をフィーチャーしながらアルト勝負に打って出る辺りがなかなかパンキッシュですね。Manuel CaliumiといえばNorma Winstoneトリビュート作が個人的に印象深い、Fred HerschやKenny Wheelerのリハモに挑戦しています。Patrick Corneliusが好きな方にはハマる音色かなと。歌モノ大好きな方は是非名前覚えて下さい、Valentina Fin。

極めつけはこれ、ベーシストのリーダーアルバムだっていうところですね。ギターのChristian Mascettaとは長年の夫婦役で、20年代はイタリア産ジャズがシーンを席巻していくことになるか。この辺り引き続き注視してきます。主宰個人的に刺さったポイントは「Afro〜」の最終盤、楽曲のボルテージが最高潮に達した先に「Punjab」の引用が待ち構えているところ。強烈です。

Vol.2はよ。

早くも次回作の発売が待たれます。令和に入りいわゆる「スタンダード集」の位置付けや意味合いというのも、随分様変わりしてきたように感じます。例えば昨年リリースのTigran Hamasyan『StandArt』(2022)は、プログレやメタルファンも唸らせるまさに傑作でしたが今年も乗っけから幸先よろし。定期連載が難しい分少しずつ時間を見つけてジャズレビュー継続しまーす。

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