桜井政成研究室(出張所)

主著に『コミュニティの幸福論』『福祉NPO・社会的企業の経済社会学』(日本NPO学会優…

桜井政成研究室(出張所)

主著に『コミュニティの幸福論』『福祉NPO・社会的企業の経済社会学』(日本NPO学会優秀賞)。最近の研究は読書、サードプレイス、贈与等についての社会学的研究。2013-14トロント大学客員教授。研究→ https://researchmap.jp/masanarisakurai

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地域活性化を学ぶ/学びたい学生におすすめの小説3選+マンガ2冊

はじめに以前より、私の学部では「地域活性化に関心がある」という学生がわりとおられました。高校でも探究学習が始まり、地域のことを学ぶことが盛んになってきました。そんな方たちに地域活性化とはどういうことなのかを考えることができる小説を3本、紹介したいと思います。最後におまけで、マンガも2冊ほど紹介。 なおここで紹介する作品は、読めば地域活性化の方法・要点を学べる、というものではありません。あくまで地域活性化を前景・後景として、登場する人々の心情やかかわり合いが丁寧に描かれ、

    • 2023年度ゼミ卒論集 巻頭言

      今年は寒さが長引いていて、卒業式だというのに真冬のような気温が予想されています。卒業式前日にこれを書いていますが、「どんなに冬が長くても、必ず春は来る」という気持ちにはなれず、つべこべ言わずに早いこと暖かくなってくれ、という気持ちしか湧かないですね。 さて皆さんの代は2020年4月という新型コロナウイルス感染流行により非常事態宣言&大学全面休講という大変な状態での入学でした。入学式もありませんでした。その後も影響をモロに受けて、やっと「フィールドワーク」ができたのが3回生の

      • 失敗してからが人生は本番〜『Bread & Butter』のメッセージ〜

        芦原妃名子さんが亡くなられたという。もう今の連載の続きも、新しい作品も読めないなんて…。 どの作品も好きだけど、とくに『Bread & Batter』は、コロナ禍で精神的な健康を崩して、つらい時期に励ましてもらった作品の一つだった。不調により本も読めなくなったが、マンガだけは読むことができた時期だった。そんな時期にfacebookに書いた紹介記事を、再構成して載せておきます。 もっとはやく、伝えられたら良かった。あなたの作品に救われた一人です、と。 **** 2020

        • 女の子はいつまで男の子を待てばいいのか〜『くまみこ』と原作改変について〜

          以下は2022年5月にfacebookに友人限定で投稿した記事を修正して再投稿するものです。『くまみこ』完結を記念して。 ※なお『君の名は。』のちょっとしたネタバレ(まで行きませんがあらすじバレ)があるので注意!そして『くまみこ』のあらすじバレはまあまあしていると思うので注意。 ***** 「大都会への憧れ」について授業で話をしていたら、『君の名は。』を思い出しました、という感想があった。 『君の名は。』はそんな物語だったかな、と思って見返そうとしたのだが、アマプラには

        地域活性化を学ぶ/学びたい学生におすすめの小説3選+マンガ2冊

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        • 大学/大学院での学び・授業のこと
          15本
        • 『コミュニティの幸福論』おかわり
          15本
        • どうして人は物語に救われるのか
          11本
        • 卒論書けません
          5本

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          卒論という山の上から見える景色

          卒論が山場。毎年のことではあるが、ここ2年ほどは授業外での指導(添削含め)は、教員のワークライフバランスを考えた結果、ほぼしていない。とはいえ、うちのゼミではサブゼミ的に個人指導を別時間とってやっているので、他のクラスの倍はやっていることになるのだけれど。 卒論指導では結局、時間切れになるまでに「どこの部分」まで指導を受けられたかが、作品の質と、作者の学びに関係するといつも思う。ちゃんと調査結果がまとめられて、結論部分まで指導を受けられた学生は、論文全体の意義を振り返り、自

          卒論という山の上から見える景色

          日本の子どもは本を読んでいない?

          先日、yahooニュースに出た朝日新聞の記事で、「学習到達度調査PISAでは、日本の15歳が学校で読む文章量は、参加国中最低ランクとされました」という説明がありました。えー、そんなデータあったっけなあ?と思い、PISA2018データをさわってみました。わりと長くなったので、細かい分析結果を読まなくてよい方は、最後の「まとめ」に飛んでいただければ、本記事のまとめとして、PISA2018データの結果と示唆を書いています。 PISAについてPISAとは「Programme for

          日本の子どもは本を読んでいない?

          『面白くて刺激的な論文のためのリサーチ・クエスチョンの作り方と育て方』はこう読めてしまう。

          この本、相当示唆に富む。他の研究者や院生の方と読書会をしたい。 概要をまとめると、この本では社会科学(主に心理学・社会学・経営学・教育学)において、英文トップ・ジャーナルに掲載された論文が「つまらない」ものばかりなのはなぜか?という問題を論じている。それらの分野の論文を分析した上で理由を探っているのですが、以下内容を超簡単に要約すると‥ 結論から言えば、先行研究の重箱の隅をつつく「ギャップ・スポッティング」型のリサーチ・クエスチョンばかりなので、つまらないのだ、と述べてい

          『面白くて刺激的な論文のためのリサーチ・クエスチョンの作り方と育て方』はこう読めてしまう。

          『違国日記』から考えた他者理解の方法:槙生と朝の気になる"謎"

          注意!ネタバレ含みます!!! 『違国日記』が完結した。いや、もうだいぶに完結していて、最終巻も出版されていたのだけれど、大好きなマンガだったので終わってしまったのがあまりのショックで、読むことができずにいた。しかしなんとか思い切って最近、第1巻から読み返し、通しで最終巻まで読んだ。あーそういうラストかーと、しみじみ読み終えることができました。 作者のヤマシタトモコ氏は、本作がもっていたテーマについて、『ユリイカ』2023年9月号(ヤマシタトモコ特集)のインタビューで、次の

          『違国日記』から考えた他者理解の方法:槙生と朝の気になる"謎"

          エンタメの力:エデュテイメントの可能性と課題

          ※注:この記事は2021年12月18日に別のSNSに書いたものです。投稿日程は2023年となっておりますが、約2年前の話としてお読みください。 最近はずっと、SNSし、ゲームして、漫画やライトノベル読んで、アマプラ見ている。 どれも自分にとってしんどい時の気晴らしでもあり、時間潰しであり、そして救いでもある。 作家であり、また『テロマエ・ロマエ』なども描いた漫画家でもあるヤマザキマリ氏が昨年ぐらいに、コロナ前は世界中を飛び回っていたがそれができなくなって、ひたすらに映画

          エンタメの力:エデュテイメントの可能性と課題

          研究は推し活なのです。ゼミでは同人活動をするのです。

          「テレ東のドラマが面白い」ことを妻に話したら、日本のドラマはせせこましくて、日常の細かなしかことやってなくて、面白くない。それに比べて中国ドラマはスケールも大きく衣装も綺麗で、いかにも予算が掛かっているなという感じで観ていて楽しい、と言われた。 圧倒的!!!!予算の!!!差!!!!(カイジ風 これはいかんともしがたい。確かにそれに比べたら日本のドラマなどショートコントみたいなもんだ。 かつて「トレンディドラマ」などといって、日本のTVドラマ全盛期があった。それが華開いた

          研究は推し活なのです。ゼミでは同人活動をするのです。

          社会人で大学院入学を希望される方へ(再掲)

          はじめに ここでは、社会人で社会科学系の大学院に行きたい人向けのガイド、というよりも「注意書き」をまとめています。これまでに大学院進学をご希望される方とお話しする中で、たまに、ご期待と提供できるものの間にずれがあって、入学されてから期待外れになってしまっては申し訳ないな、と思うことがありました。そんなときは誤魔化さずに率直にお伝えするのですが、そうしたことの中で、共通的な事柄をまとめています。 なお以下の話は、2年制の修士課程(博士前期課程)、または、3年制の博士後期課程

          社会人で大学院入学を希望される方へ(再掲)

          国語力を上げるにはどんな文章を読むべきなのか?

          どんな読書が読解力に影響しているか 読書と学力の関係を調べていて、おもしろい論文を見つけたので記録的に書いておきます。どんなジャンルの本・文章をよく読む子どもが読解力テストの点が高いのか、という国際的な研究。 調査対象はOECD加盟国35カ国で、15歳の子どものデータ。2009年版のPISA(国際学力調査)の結果を用いて分析しています。 分析した読書のジャンル分けは次の5つ。 フィクション(小説・説話・物語) ノン・フィクション 雑誌 新聞 漫画 結果から言

          国語力を上げるにはどんな文章を読むべきなのか?

          どうやったら男性はトイレで手を洗うようになるのか? 〜先行研究から考えてみる〜

          男子トイレに入るといつも気になるのが、きちんと手を洗う人がほとんどいないこと。体感では、3分の1はちゃんと洗うが、3分の1はちょちょっと水を手につけて髪の毛でそれを拭いている。そして残り3分の1は洗わずに出ていく。 この「トイレで手を洗わない男」問題、世界的に共通しているらしい。以下の、2021年に発表された、米国、イタリア、スペイン、サウジアラビア、インドの成人2,509人を対象国際横断的研究によると、コロナ禍において手を洗うことは、地方在住(β = -0.08, p =

          どうやったら男性はトイレで手を洗うようになるのか? 〜先行研究から考えてみる〜

          大学は沼にハマるための場所

          (写真は帰り道に見つけた「大雪渓酒造」のお酒。なかなかお目にかかれないので即買いでした。初夏向きの低アルで酸味の効いた、香り高いお酒。とてもおいしかったです。) 大学の業務の一環で、学生からインタビューを受けた。 「今読んでいる本は?」と聞かれたので、オーディオブックだけれど、と前置きした上で、『ボタニカ』と『本好きの下剋上』、あとマンガたくさん、と答えた。学生があまりよい顔をしていなかったので(zoomインタビューだからあくまでも私の主観で、別にそんなことなかったかもし

          大学は沼にハマるための場所

          幸せな職場はどこにある? 〜「グローバル就業実態・成長意識調査」結果から考える〜

          はじめに:「グローバル就業実態・成長意識調査」の概要「グローバル就業実態・成長意識調査 -はたらくWell-beingの国際比較」という、とても興味深い調査結果を発表されています。 この調査は「世界18ヵ国・地域の主要都市の人々のはたらくWell-beingの実態やその要因について明らかにすることを通じて、日本のはたらくWell-beingがなぜ低いのかを考察する」(上記サイトから引用)という目的の調査です。調査対象エリアは18ヵ国・地域(調査都市)で、以下の通り。 なお

          幸せな職場はどこにある? 〜「グローバル就業実態・成長意識調査」結果から考える〜

          グラノヴェターから学ぶ組織改革における弱い紐帯(つながり)の重要性〜地方統一選への示唆も〜

          はじめに:「弱い紐帯の強さ」理論の誤解 「弱い紐帯の強さ」理論は、転職のときに遠いつながりの人の紹介が活かされていることが多い、というグラノヴェターの研究結果から引用されることが多く、そのために広くつながるとその個人にとっていいことがある、イコール、「異業種交流ウェーイ!!!」という話になりがちだ。 しかしグラノヴェターは1973年の、理論名と同じ題名の論文「弱い紐帯の強さ(The Strength of Weak Ties)」においてそれを、ミクロレベル(個人)とマクロ

          グラノヴェターから学ぶ組織改革における弱い紐帯(つながり)の重要性〜地方統一選への示唆も〜