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地域活性化を学ぶ/学びたい学生におすすめの小説3選+マンガ2冊



はじめに

以前より、私の学部では「地域活性化に関心がある」という学生がわりとおられました。高校でも探究学習が始まり、地域のことを学ぶことが盛んになってきました。そんな方たちに地域活性化とはどういうことなのかを考えることができる小説を3本、紹介したいと思います。最後におまけで、マンガも2冊ほど紹介。

なおここで紹介する作品は、読めば地域活性化の方法・要点を学べる、というものではありません。あくまで地域活性化を前景・後景として、登場する人々の心情やかかわり合いが丁寧に描かれ、また、それがどのように地域の文化や規範、社会構造と関係しているのかも理解できる作品であります。そして私が好きな作品ということも。そういった観点で、おすすめしています。

『島はぼくらと』

はじめは、青春小説の旗手と呼んでも間違いはない辻村深月さんの『島はぼくらと』。離島で暮らす高校生男女4人とその周囲の人々が織りなす物語。

この島の別れの言葉は「行ってきます」。きっと「おかえり」が待っているから。 瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花、源樹、新の四人は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人たちの覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。
17歳。卒業までは一緒にいよう。
この島の別れの言葉は「行ってきます」。
きっと「おかえり」が待っているから。
瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花、源樹、新の四人は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人たちの覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。
大人も子供も一生青春宣言!辻村深月の新たな代表作。

Amazon.co.jpの本書説明文より

架空の島のお話しながら、なんとなくモデルが思い浮かんだり。地域の「活性化」とは誰のためなのか。それに関わる人達の思いなども丁寧に描かれています。大人の「思惑」に嫌悪感を抱きながらも、自分たちの道を開こうとする高校生4人の姿がとても気持ちよく、最後はとても爽やかなエンディング。新しい「離島文学」とも言える一冊です。しかしときどき、地域活性化「される」側からの冷静な視点が語られ、ギクッとさせられるパートもあります。

「故郷ほど、その土地の人を大切にしない場所はないのだ。」

『島はぼくらと』

あと中心的な部分ではありませんが、東日本大震災のあとに書かれた小説なだけあって、被災地復興の話もちらっとだけ出てきます。

『メガネと放蕩娘』

2冊め。山内マリコさんの『メガネと放蕩娘』。『ここは退屈迎えに来て』で郊外で暮らす若者の焦燥感を描いて以来、地元のことが気になっていたという山内さんが、(たぶん)富山市の商店街再開発をモデルに創られた物語。

老舗書店のしっかり者長女のもとに十年ぶりに破天荒な妹が突然現れて!? アラサー姉妹の奮闘と成長を描く゛まちづくり〟エンタメ。

Amazon.co.jpの本書説明文より

商店街と言えば大学生が「地域活性化」で研究テーマにしがちな候補ですが、本作にはそうした話も描かれています。そこでは、大学が地域活性化に関わる際に「あるある」なトラブルも、ばっちりエピソードになっており、耳が痛いところもあります。しかしそれだけリアリティのあるお話であるとも言えるでしょう。

全体的にはエンタメ小説なので、ドタバタ劇が展開されますが、商店街の、地域の活性化とはなんだろうと考えさせられる描写が何度も出てきます。私のゼミでも地域活性化に関心がある人が多いので、この本を課題本にして読書会をしました。学生からは本当にこんな事あるのか、と言われましたが、よくある、と私は答えておきました。地域に出る前に読んでおきたい一冊!笑

『どうしてわたしはあの子じゃないの』

3冊めは『どうしてわたしはあの子じゃないの』。

閉塞的な村から逃げだし、身寄りのない街で一人小説を書き続ける三島天は、ある日中学時代の友人のミナから連絡をもらう。
中学の頃に書いた、大人になったお互いに向けての「手紙」を見つけたから、30才になった今開封しようというのだ――。
他人との間で揺れる心と、誰しもの人生に宿るきらめきを描く、感動の成長物語。

Amazon.co.jpの本書説明文より

この小説は読んでいて本当に苦しくなります。それは、中学生という思春期独特のぐちゃぐちゃした、自意識過剰な感覚があけすけに表現されているからだけでなく、特定の地方にはまだ現存しているであろう、男尊女卑文化の解像度が異様に高いからです(Amazonのレビューでも辛いからか拒否反応を示すコメントが)。

寺地はるなさんは優しい話を書かれる方ですが、物事をクールに見た辛辣な文章は天才的でもあるなあと思います。この本で言えば、移住者に対する視点などに、それが現れています。エンディングは一定、明るい展望を暗示するものなので、安心して読み進めてOK。

おまけ:マンガも2冊紹介

ついでに地域活性化に関係があるマンガを、2冊紹介しておきます。1冊目は『雨無村役場産業課兼観光係』(全3巻)。

大学を卒業し、地元・雨無村(あめなしむら)の役場に就職することにした銀一郎(ぎんいちろう)。この村の高校生以上の若い者は銀一郎、幼なじみのメグミ、コンビニのバイト店員・澄緒(スミオ)の3人だけ。観光係を命じられた銀一郎だが、特産も名所もない雨無村。それでも何かと事件は起こるもので!?

Amazon.co.jpの本書説明文より

『金の国 水の国』が映画化された岩本ナオさん作。岩本さんらしい、キャラ立ちした村の住人達が面白いのですが、主人公の銀一郎が地域活性化に奮闘するさまは感情移入して読んでしまいますね。澄緒もがんばってほしい。

2冊めは『夏子の酒』(尾瀬あきら作、全12巻)。

お日様みたいなお酒――。太陽の光がプリズムを通すと七色に輝くように、酒の透みきった無色の液体の中には、きめこまかなたくさんの味がひそみ、息づいている。そんな日本一の酒を造り出すことを、目標としていた兄・康男の言葉が、夏子の心を占めてはなさない。だが今、夏子は、コピーライターとして大きな仕事にかかわりだしたばかり…。“酒”をめぐる情熱と夢。大いなる夢をめざす夏子たちの辛口人間ドラマ。

Amazon.co.jpの本書説明文より

初刊発売が1988年と、時代背景はもはや歴史的な観点で読む本になってしまっているかもしれませんが、それでもいまだに古さを感じさせない部分もあり。とくに女性が未だに旧弊が残る地域・産業で奮闘するというのは、決して昔の話にはなっていないと思います。あと個人的に日本酒は大好きなので、産業としてがんばってほしいです。

以上、小説3冊・マンガ2冊紹介でした。あくまでフィクションなので、現実をどこまで現しているかというのは難しいところですが、それでも私が研究している範囲でリアリティがあるなと思う部分がある作品を選んでいます。ご参考までに、です。

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